アステラス、武田薬品……その数字をチェックしてみると
6月は株主総会シーズン。企業の「決算」に注目が集まる時期だ。だが、そもそも決算書のどこをどう見ればその企業の状況を正しく判断することができるのか、正しく理解している人はそれほど多くはないだろう。
経理の本としては異例のシリーズ60万部を発刊した『決算書がおもしろいほどわかる本』の著者として知られ、近著『ざっくりわかる「決算書」分析』にて決算書分析のイロハを解説した公認会計士の石島洋一氏に、「そもそも利益とは何か」についてうかがった。
かつては売上高、今は「利益」にて評価される
今となっては信じがたいことですが、日本経済の一時期、売上至上主義がはびこっていました。「とにかく業界でNO.1となるために売上シェアを上げるのだ!」という号令一下、全社を挙げて売上拡大を目指していたのです。家電の業界など、その最たるものでした。
もちろん、売上があっても儲けがなくては、収益性の面でも安全性の面でもよいわけはありません。売上至上主義は、拡大する日本経済の悪しき側面だったかもしれません。
企業にとっては、儲けが重要です。儲けのことを会計の世界では「利益」といっていますが、収益性の状況は、この利益の大きさで判定します。
なんといっても大きな利益を上げた企業の評価はよいわけです。「トヨタの利益が2兆円を超えた」「ソフトバンクの今期利益は過去最高」などというニュースは、その企業の好調ぶりを明確に示すことになります。
5つの利益とは何か
しかし、実は「利益」といっても、いくつかの段階のものがあるのです。本業で稼いだ利益なのか、あるいは臨時的収入があって計上した利益なのか、一体、どの段階での利益を指しているのか、ここがポイントとなります。
この損益計算書で示される利益には、5つの種類があります。仕入れや経費、税などとの関わり合いによって5つの段階に分かれているのです。
すなわち、
「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」
の5つです。
「売上原価」の計算方法に注意
第1段階での利益は「売上総利益」です。計算式にすると「売上総利益=売上高-売上原価」となります。
売上げた商品の仕入れ値のことを「売上原価」といいます。売れた商品の原価(仕入れ値)です。つまり売上総利益は、商品の売上と、売上原価との差額。売買差益を意味します。俗に粗利益(荒利益・あらりえき)といいます。
この売上総利益を求めるためには、売上高から売上原価を差し引くのですが、この売上原価は、その期に商品を仕入れた金額とは異なります。
たとえば、今期新発売のA商品を3億円分仕入れたとしましょう。売れ行きは好調だったのですが、決算日までに売れたのは仕入れた3分の1で、その売上高は2億円でした。
さて、A商品の売上総利益はいくらでしょうか。
答えは、売上の2億円から仕入れの3億円を引いて赤字……という結論ではありません。売上げた2億円のA商品の原価は、仕入れた3億円の3分の1ですから、1億円になります。売上げた商品の原価(仕入れ値)なので、「売上原価」と言うのです。
したがって売上総利益は、売上の2億円から売上原価1億円を引いた1億円が答えになります。
一般的に売上原価を求める算式は、次のようになります。
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入れ高―期末商品棚卸高
この「期末商品棚卸高」というのは、決算日に実際の棚卸しをして、商品在庫の金額(原価ベース)を求めたものです。その期末商品棚卸高が、翌期の期首商品棚卸高になります。
なんと平均の3倍の粗利益率
さて、製薬業界を代表する会社の1つ、アステラス製薬の損益計算書を見てみましょう。次の図をごらんください。
なんと言っても注目は売上総利益率(粗利益率)の高さです。売上総利益率とは、売上総利益を売上高で割ったもので、決算書分析ではこうした比率がしばしば使われます。
アステラスの売上総利益率は77%超です。上場企業のおおよその売上総利益率は25%ぐらいですから、その3倍の利益率です。街で売っている薬の主成分は、粗利益なのでしょうか(このような発言は叱られるかもしれませんね)。
製薬業界の粗利益率は総じて高い
昔、アステラスと同業の武田薬品の人に聞いたことがあります。
「製薬の業界の粗利益率は高過ぎるのではないでしょうか?」
「そんなことはありません。もちろん、研究開発費などが多くかかることもありますが、薬の業界はいつどんなことがあるか、わかりません。十分な収益性を持っていなければ、企業の安全性が保てないのです」
即座に答えが返ってきました。
それにしても、製薬業界の売上総利益率や営業利益率は高水準です。ちょっとうらやましく感じるのは私だけでしょうか。
(『ざっくりわかる「決算書」分析』より抜粋・編集)
ざっくりわかる「決算書」分析
石島洋一(公認会計士) 発売日: 2019年06月18日師
難解な決算書から、その企業の強みや弱点、そして将来性を知るための「たったこれだけのポイント」とは? 経営分析入門の決定版。(『THE21オンライン』2019年06月26日 公開)