ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。今回は2時間SPでお届け。
息もできぬほど美しい漆芸に「グラーツィエ!」
今回ニッポンに招待したのは、イタリアはビエッラに住むキャーラさん。美術品のプロの修復師で、いま世界30ヵ国以上に愛好者が急増中という"金継ぎ"の大ファンです。金継ぎとは、壊れた陶磁器を漆で修復し金で繕う、物を大切にするニッポンならではの技。4年前にネットで知ったキャーラさんは、破損したものは元通りに直す欧州の修復に対し、あえて傷を隠さず新たな美を創造するという究極の修復技法にすぐに魅せられたといいます。
独学ながら、海外では手に入りにくい漆を取り寄せ、プラスチックボックスを室(むろ)にした金継ぎを実践中の彼女が、「ニッポンで金継ぎの先生から基礎を学んだり、漆職人に会って室について教わりたい!」というのでご招待!
初来日のキャーラさん、まずは京都にある「漆芸舎 平安堂」へ。漆を使った伝統的な漆芸修復に40年以上携わる漆芸修復師・清川廣樹さんは、何ヶ月待ちというお客様もいるすごい方です。キャーラさんの熱意を伝えたところ、温かく受け入れていただけることになりました。
さっそく普段は公開しない清川さんの作業場へ。壁面には清川さんの腕を頼り、漆器から壺まで全国から寄せられた修復依頼品や、完成した器などがずらり。金継ぎには、割れ、ひび、欠けなどいくつかの修復タイプがあり、素材や質感に合わせて金の色調や風合いを調整して施すそう。「元へ戻すだけでなく、新しい命を吹き込む。壊れたところを隠さないで模様に変える」という清川さんの修復を超えた美意識は、自然に朽ちた物も美しいと感じるニッポンの"侘び寂び"の精神に通じると教えていただきました。
また今回は特別に、「京都吉兆」から預かる北大路魯山人の器・割山椒(わりざんしょ)の修復の工程も見せていただけることに。割れた破片を糊漆(米粉を使った糊と生漆を混ぜたもの)で接着し、硬化させるため一週間ほど室(むろ)へ入れますが、最初の10時間に最適な室温と湿度を保つことで、漆の強度や光沢が決まる大切な工程。清川さんは、電球と濡れタオルで温湿を調整し、余計な湿度は室の杉板が吸収してくれるといいます。キャーラさんが使っているプラスチック室は湿度が高くなりすぎるため、漆の接着力が弱まる要因になるという指摘も。
この後、錆漆(砥の粉を水で溶いたものと生漆を混ぜたもの)や、備前焼のざらついた表面に合わせるための砂子漆(漆黒の漆と粒が均一な砂を混ぜたもの)、金粉が映える赤い弁柄漆など、それぞれヘラや筆で継ぎ目に塗っては室で乾燥する工程を繰り返し、弁柄漆の表面だけが硬化したタイミングに金粉を沈めれば、最高の黄金色を出せるのだそう。
30分後、新品だと金を吸い込んでしまうため使い込んだ絹の真綿で金粉をつけてはこする工程を2~3度繰り返して光沢を出し、器より主張しないよう4~5工程かけて半透明の漆を重ね、器に合う深みのある金色へ。ちなみに漆は時間とともに透明感が増すので、最も美しい状態になるのは、なんと50年後!未来の変化を想像して手掛けるのが漆の楽しみ方でもある、と清川さんはおっしゃいます。
一息ついて、アシスタントの藤田さんと3人で、清川さんお薦めのレモン館(大徳寺店)で昼食をいただくことに。キャーラさんは、賀茂なすなど、京都の旬の味覚が詰まった母の味のお弁当の美味しさに大感激。
平安堂に戻り、キャーラさんの金継ぎ作品を清川さんにみていただくことに。すると、継ぎ目の溝が見えているから、下地にもうひと手間かけるべきだとアドバイスが。修復には器を傷つけないよう木製のヘラを使うことや、しっかりした下地の作る技法を丁寧に説明していただき、キャーラさんは聞き漏らすまいと必死にメモ。とはいえ、「独学でここまで出来ているのは大したものです」と褒めてくださいました。
翌日は、日蓮宗の本山・本法寺へ。第96世貫首・瀬川さんに快諾いただき、清川さんが無数の欠けを半年かけて修復し、生まれ変わった清水焼の汲みだし茶碗を見せていただきました。キャーラさんは、「息ができないくらい(美しい)」と感動。この貴重なチャンスへの感謝もお伝えしました。
平安堂に戻ると、簡易的な室の作り方からたくさんの疑問点まで、すべて教えていただけたと大量の取材メモを見せて感謝するキャーラさん。清川さんから「僕が40年習ったうちの5年分くらいは入ってる。たくさん失敗を繰り返してください、そうすることで上手になります」と励まされ、胸がいっぱいに。
かけがえのない体験のお礼に、地元の焼き菓子を贈り感謝を伝えると、清川さんからは愛用の道具セットと明治時代の醤油刺しの金継ぎをいただきました。キャーラさんは、新たなスタートを誓って平安堂を後にしました。
世界一の漆の町で、漆掻きを初体験
続いて向かったのは、日本有数の漆の産地・茨城県大子町。今や国産漆の割合が全体の2%に減少する中、大子の漆は透明度や艶の高さから世界最上級と言われています。キャーラさんの熱意を伝えたところ、この道60年の名人・飛田祐造(大子漆保存会会長)さんが、快く受け入れてくださることに。
さっそく約1600本植林された "うるしの森"に案内され、漆掻きを見せていただきました。ウルシノキを植えてから10年でようやく成長、漆が採れるのはほんの1年限りというから驚きです。
漆カンナで溝をつけ、絶妙な力加減で溝に切り込みを入れると乳白色の樹液が!あふれる樹液が劣化する前に素早くすくい取り、缶容器に入れていくという作業で繰り返し採取。
この時、4日間隔で掻く傷を短かめから少しずつ長めにしていくことで、木がつくり出す漆の量が増えるという自然治癒力に基づく知恵も教わりました。
飛田さんのお弟子さんの益子さんから、「1シーズンで1本の木から採れる漆の量は牛乳瓶1本分」と聞いたキャーラさんは、採取量の少なさと貴重さにびっくり。
益子さんの指導で大切に漆掻きさせていただいたあとは、益子さんが準備してくださった温かい赤飯おにぎりをみんなでほおばりながら、ひと休み。
採った漆は、最後の一滴まで保管桶に移し入れ密閉保管し、京都などの漆店に出荷します。
ちなみに、密閉保管した状態のものが「荒味漆」、そこから不純物を取り除いたものが「生漆」といいます。これを塗料にするためには、クワ型の道具で3時間かき混ぜ、粒子を細かく均一にするナヤシ精製が行われます。さらに天日下で2~3時間かき混ぜ、漆の純度を上げるクロメ精製を。こうしてできた透明で光沢のある「透漆」が、高級漆器の仕上げ塗りに最適なのだそう。
キャーラさんのため、大子漆保存会のみなさんが歓迎会を開いてくださいました。地ビールで乾杯した後は、久慈川の天然鮎の塩焼きや、漆の枝と奥久慈しゃもを一緒に煮込んだ大子町名物・シャモゲタン、地酒、飛田さんが育てた蕎麦粉で作った十割蕎麦など、絶品料理に舌鼓。世界最上級の漆を支えるメンバーたちと、心温まるひとときを過ごしました。
別れのとき。
キャーラさんは、飛田さんからいただいた大子の漆や益子さん手作りの漆器を胸に抱き、大切なことをたくさん教えていただいた感謝を何度もお伝えしました。
帰国の前に、歓迎会メンバーの木漆工芸作家・辻さんの工房で、特別に漆塗り体験も。
「金継ぎは金の部分が一番重要だと思っていたのですが、色々な人の汗や苦労が入った漆の下地があってこそだと学びました」と、金継ぎへの愛がますます高まったようです。この経験を生かし、イタリアに金継ぎをどんどん広めてくれるといいですね。キャーラさん、またの来日をお待ちしております。