乃木坂46で最年長の新内眞衣(30)は、2014年から4年間、OLを「兼業」してきた変わり種のメンバーだ。アイドルとしては「遅咲き」となる21歳からのスタートを経て、2015年からはラジオパーソナリティー、2019年からはモデルと、マルチな才能で活躍している。来月に卒業を控えた今、謙遜を重ねつつも「何事も始めるのに遅いことはない」と語る彼女の見た乃木坂46とは。(取材・文:田口俊輔/写真:伊藤圭/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
最後の紅白は生田絵梨花を送り出すことが最優先
「みんなで円陣を組む瞬間、でしょうか」
乃木坂46での約9年にわたる活動で「最も幸せだった瞬間は?」との問いに、新内眞衣は間を置かずにこう答えた。
「すぐ頭に浮かぶのは、みんなとの日常。なかでもライブ本番に向けての円陣、紅白歌合戦の本番前にする全員での円陣……その輪の中で『私本当に乃木坂46にいてよかった』と実感する瞬間が一番好き。私にとって乃木坂46とは毎日が楽しくて、当たり前にあった、とても大きな日常の一部なんです」
昨年末の紅白歌合戦は、今年2月中の活動をもって乃木坂46を卒業する新内にとって最後の紅白。37人での最後の円陣、胸に迫るものがあったはずだ。
「もちろんありましたが、それ以上に『いくちゃん(生田絵梨花)の最後を、みんなでしっかり送り出さなきゃ!』という気持ちを最優先にして、いくちゃんが楽しく終えられるようにと注力していました」
この紅白は生田にとって、乃木坂46としての最後の舞台だった。新内も最後の紅白ではあったが、その心は一足先に新天地へと羽ばたく盟友へと真っすぐ向いていた。
「そう意識したおかげで私も『最後の紅白だ』と力まずに、みんなと楽しい時間を過ごせました。しかも、しっかりカメラに映してもらえて……最後の最後までありがとうございます!」
こう一言述べると大きく笑った。このやりとりから、新内眞衣という人間がどんな人かがうかがい知れる。
私は期待されてなかった
「『アイドル=3~4年で活動を終える』というイメージがあったんですよ。それが『まさか!まさか!?』を繰り返していたら約9年。人生って予想だにしないことの連続ですね」
新内に転機が訪れたのは大学3年時のこと。就職活動の傍ら偶然見つけた乃木坂46の2期生オーディションに合格した。2013年5月、初お披露目の日。2期生メンバーとして「大人の階段・一段目」を踏んだ彼女の道のりは約9年にわたり続き、2022年1月にいよいよ30歳を迎えた。
2014年春から2018年春まで、奨学金返済のために活動と並行しニッポン放送の関連会社でOLとしても働いた。2019年から雑誌モデルの活動が始まり、舞台女優としても非凡な活躍を見せるなど、乃木坂46メンバーの中でも新内の八面六臂(はちめんろっぴ)ぶりは特に際立つ。しかし、新内は自らを「超普通な人」と語る。期待をかけられていなかったと自嘲もする。
「OL時代の上司が今『オールナイトニッポン』のプロデューサーを務めていて、現場でお会いするたびに『いやあ、ここまでやる子だとは思わなかったよ』と言われます。昔は、そこまで期待値は高くなかったそうです(笑)」
チャンスは誰にでもある、けれどつかめるのは一握り
新内には、ラジオパーソナリティーという顔もある。2015年に『OL兼任アイドル 新内眞衣のまいちゅんカフェ』(bayfm)を1年にわたり担当、番組終了とともに『新内眞衣のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)がスタートした。
「『1年で終わる枠なら、自分のことを少しでもアピールできたらいいよね』とスタッフさんと話していました」
いい意味で飾らない生活臭が滲み出たキャラと自然体で肩の力が抜けたトークは、深夜3時という深い時間の仕事終わりのリスナー、仕事中のリスナーの耳にぴたりと合った。番組開始当初は1年限りの放送と告げられた番組は気づくと2年、3年と続き、2019年3月には『乃木坂46のオールナイトニッポン』と題を変え、1部昇格を果たした。
「全てが、自分一人では成し得なかったこと。周りに恵まれるというラッキーのおかげです」
はたして運ひとつで、ここまでの活躍が残せるものなのだろうか?
「努力……というほどのものではありませんが、運が巡ってきたときのためにいつでも行ける準備はしてきたつもりです。『チャンスは誰にでも待っているけれど、チャンスをつかめるのは一握り』という言葉が好きで。人に与えられたチャンスの数は平等じゃないけれど、どんな現場・環境、どんな人にも大きな瞬間は巡ってくると思うんです。その“いつか”をつかむために、何事も怠ったことはありません。この約9年の間にいろんな面を見せてきたからこそ自信を持って言えます」
その全ての面は、最後となる作品、2nd写真集『夜が明けたら』(小学館)に込めた。
「“乃木坂46での私”っぽい写真、OL時代の私のような写真、ラジオ局のブースで撮った写真……この9年で経験した『私の中にはいくつもの面があるんだよ』というすべてを、この一冊におさめました。『乃木坂46を離れますが、これから一人の新内眞衣として頑張ります。この先もよろしくお願いします』とお世話になった方、一人ひとり直接手渡したい(笑)。それほどのすてきな作品になりました」
素直に泣ける人をうらやましく思う日もあった
乃木坂46に加入してからは全てのことにおいてガムシャラだった。
「私はクリエーティビティーあふれる人間ではないし、ダンスも歌もうまいわけでもない。できることと言えば、多くの方の力添えで作られた仕事に穴を開けないこと。OL仕事も、アイドルも全力でやらないと失礼。人の3倍は頑張らなくちゃいけないと思いました」
OL時代は週5日フルタイムの勤務と芸能活動を並行でこなした。
「もちろん逃げ出したくなる瞬間はありました。つらいことは忘れるまで待つタイプ、先ほどマネージャーさんにも『あまり人に頼りませんよね』と言われたばかり(苦笑)。素直につらいと言って泣ける人をうらやましく思う日もありました」
それでも身を粉にすることができたのは、ラジオでの卒業発表の際にも語った、ある一人のファンとの悲しい別れを経験したからであった。
「応援してくれる方には真摯でいたいんです。人はいつ死ぬか分からない、それは私もそう。会える機会を逃せば次いつ会えるかわかりません。一期一会を絶対に大切にしたいから、本調子でないのが申し訳ないと思いながらも休まないようにしていました」
活動初期はOL兼業について「アイドル一筋で頑張っているメンバーに失礼だ」という言葉を投げかけられ、選抜入りの際にも「後輩に道を譲れ」などの心ない言葉をネット上で見かけたという。
「きっと直接言えないからSNSや掲示板に書き込んだりするんでしょうね。そうした声を見かけた時は『あ、この方はすごく寂しい人生を過ごしているんだなあ……』と思って昇華するようにしています(苦笑)」
30歳で出した決断、間違っていなかったと言いたい
加入時期も、年齢も、人生経験もバラバラな乃木坂46において、新内は最年長として一つの姿勢を大切にした。「チャーミングな女性でいること」だ。
「年齢が上だから話しかけづらい人、というのはイヤだなと思ったんです。もちろん威厳も必要ですが、いつでも話しかけやすくいろんなことを頼みやすい人でいれば、この先も楽しく一緒にいられると思ってもらえるはずなんですよ」
この“敷居の低さ”は若いメンバーの心の支えになったはずだ。加入当初、新内に声をかけられて以来彼女を「姉さん」と親しみを込めて呼ぶ梅澤美波、「自分の心の基盤を作ってくれた」と感謝を表す久保史緒里など、3期生、4期生の後輩たちが「新内さんが声をかけやすい環境を作ってくださった」と口々に語っているのが何よりの証拠。だが「いやいやいや!」と首を横に振る。
「『乃木坂46に何か残せたか?』と聞かれると、たぶん何も残せていません。けど私はこの9年間の全てが楽しかったと言えるので、それが一番でいいのかなって思っています」
何度目かの謙遜。しかし長い乃木坂46の歴史の中で、新内は彼女にしかできない歩みかたで新たな彩りを加えてきたのは確かだ。
「おのおの、自分の中で思い描くアイドル像ってあると思うんです。センターになりたい、フロント立ちたい、選抜入りしたい……。私は王道のグループの中で王道じゃないけれど9年も楽しく乃木坂人生が過ごせました。自分らしくマイペースに歩みつづけて……『こういう人も乃木坂46にいていいんだよ』という姿は見せられたんじゃないかな」
来月には卒業セレモニーが開催される。これまで乃木坂46で築き上げてきたもの、思い、作品を置き土産に30歳での新たな旅路に向かう。
「21歳でのアイドルのスタートは『遅咲き』と言われることもありましたが、楽しい時間を過ごせました。何事も始めるのに遅いことはないと思っています。これまでずっと後悔しない選択をしてきているつもりなので、新たな世界に飛び込むことも何も心配していません。私が10年後に『30歳で出した決断、間違っていなかった』と言えるような日々を送りたいですね」
行き先はまだ決めていない。ただ一つ、見たい未来がある。
「乃木坂46の未来を見続けたい。OGの子たちで『懐かしいね~!』って集まって、みんなで乃木坂46のライブを見る日を楽しみにしているんですよ(笑)」
新内眞衣(しんうち・まい)
1992年1月22日生まれ。埼玉県出身。2013年3月、大学3年生のとき「乃木坂46 2期生オーディション」に合格。同年5月に研究生デビューを果たす。2014年4月からはニッポン放送の関連会社に就職し、2018年3月に退社。2019年3月からはウェブサイト『Oggi.jp』(小学館)のレギュラーモデルを務める。1月25日に2nd写真集『夜が明けたら』(小学館)を発売。2月10日の東京国際フォーラムでの「卒業セレモニー」で乃木坂46を卒業予定。
(スタイリスト:浦田聡美/ヘアメイク:MAKI)