JRAダートの頂上決戦「第22回チャンピオンズカップ」(G1、1800mダート、16頭)は5日、中京競馬場で行われ、初のダートへの“二刀流挑戦”が話題となった2番人気のソダシ(3歳牝馬、須貝尚介厩舎)は12着と惨敗した。勝ったのは1番人気のテーオーケインズ(4歳牡馬、高柳大輔厩舎)。2着馬にレース史上最大着差の6馬身差をつけての圧勝で、こちらはダート専門馬でダート8勝目。ダートの得意、不得意の明暗がクッキリと分かれた。ソダシの“二刀流挑戦”はなぜ失敗したのか。
先行策成功も「自力の差。慣れが必要」と吉田隼騎手
ソダシの姿はそこにはなかった。
圧勝のゴールを駆け抜けていったのは、ダートの帝王のテーオーケインズ。ダート初挑戦ながら血統の背景と軽量、先行力、そして何より、そのアイドル性が加味され、2番人気に支持されたソダシは、スタートからハナを奪ったものの、まさかの大失速で、直線に入ると馬群に飲み込まれ圏外に散った。
「スピードの乗りは良かったけど、最後に頑張れなかったのは、初めての力がいるダートで、牡馬の古馬が相手なので、地力の差も出たかなと思います」
鞍上の吉田隼人騎手は、悔しさをにじませた。
レース前は、最内の1番枠に入ったことで、ソダシの課題は、返し馬からゲートだけと考えられていた。というのもソダシは、1番人気に支持された前走の秋華賞(10月17日)で待機場所からゲートへの移動を拒み、スタートでゲートに激突して、歯茎から出血するなど精神面の不安を露呈して10着と惨敗していたからだ。
この日のレースも、スタート直前。一瞬、ダノンファラオが立ち上がり、不穏な雰囲気が流れた。ソダシもゲート内で落ち着かない様子で出遅れが危惧された。しかし、須貝尚介調教師自らがゲートに駆けつけていたこともあり事なきを得て無難にスタートを切った。
序盤はスムーズに最内枠の利を生かして先頭へ立った。出遅れれば、砂をまともにかぶる危険性をはらんでいたが、ハナを奪ったことで勝つ確率は上がったようにも感じられた。
「初ダートなのでスピードに乗せた方がいいと思っていた」と吉田騎手も振り返る。
前半1000mの通過タイムは61秒4のスローペース。逃げ馬にとっては有利といっていい展開。ソダシは折り合いをつけ、ダートの猛者15頭を引っ張っていく。先行逃げ切りはこの馬の勝ちパターン。ここまでは何の問題はなかった。
だが、最終4コーナーを先頭で回ったところで抵抗できず、純白の馬体が、ズルズルと後退した。不利を受けたわけでもペースが速かったわけでもない。確かに、2、3番手からのプレッシャーはあっただろうが、文字通りの力負け。吉田騎手も「ダートのこのメンバーでは慣れが必要」と語り、レース前には「挑戦者」を強調していた須貝調教師も「気持ちの問題かもしれないですね。いい経験になった」と敗因を分析した。
ダートへの挑戦は無謀だったのか。
二刀流への期待は大きかった。ソダシは芝で6勝し、阪神ジュベナイルフィリーズと桜花賞とG1を2勝。それ以前にも白毛馬として初の芝重賞制覇、初のG1、初のクラシック制覇と走る度に快挙を達成してきた。
血統もダートに向いていた。父のクロフネは東京コースで行われた武蔵野ステークス、ジャパンカップダートと圧勝に次ぐ圧勝を演じている。さらに、母のブチコは4勝すべてをダートでマーク。同じクロフネ産駒で、おばのユキチャンは関東オークスとクイーン賞を制し、いとこのハヤヤッコはレパードステークスを勝つなど、調べると左回りのダートコースに良績を残していた。
須貝調教師は。今後のレースの選択肢を増やす意味で、このチャンピオンズカップへの参戦を決断。「血統面、1800mという距離、3歳牝馬で3キロ軽い負担重量などを考慮して出走を決めた」と色気を持っていた。
実際、オークス、秋華賞こそ、あっけない負け方をしているが、年長馬との初対戦となった今夏の札幌記念では、のちに米国ブリーダーズカップフィリー&メアターフを制するラヴズオンリーユーを完封。マイルチャンピオンシップの覇者ペルシアンナイト、有馬記念勝ちのブラストワンピース以下を寄せ付けなかった。初ダートであろうが、勝ち切るポテンシャルがあり、しかも、調整もうまく進んでいた。
2週前には実際に栗東のダートコースで併せ馬を行い、オープン馬に先着。高い適性を示した。その後は2週続けて坂路で好時計をマーク。特に今週は800m51秒8、ラスト200mはこの日最速の11秒8でフィニッシュしていた。秋華賞の後遺症が心配されたが、リフレッシュしてしっかり立て直したと考えられていた。
「落ち着いているのが何より」と須貝尚介調教師も手応えを感じていた。癖の強かったゴールドシップを管理していた経験が生かされていたのだろう。
最終調整後に主戦の吉田騎手は、「リアル二刀流」が今年の流行語大賞に選ばれたエンゼルスの大谷翔平を引き合いに出し「今年は二刀流という言葉も話題になっているので、何とかソダシにも二刀流になってほしい」と意気込んでいた。
だが、ファンは、「芝で強い馬もダートの専門馬には勝てない」という“競馬あるある“に反応。信頼度を示す面もある単勝オッズもどんどん懐疑的になっていった。レース前日の4日午前11時での単勝オッズはソダシが2.4倍で1番人気。テーオーケインズが4.8倍で続いていた。それが午後5時30分になると、ソダシが2.7倍、テーオーケインズが4.2倍と徐々に差は詰まり、最終的にはレース直前でテーオーケインズが3.3倍、ソダシが4.5倍と逆転している。
これまでも桜花賞馬キョウエイマーチや高松宮記念を勝ったキングヘイローなどが果敢にダートのG1に挑戦したものの失敗に終わっている“黒歴史”もある。
芝とダート両方のG1を制覇しているのはJRAによるとグレード制が導入された1984年以降で、わずか5頭しかいない。しかも、父クロフネをはじめ、アグネスデジタル、イーグルカフェ、アドマイヤドン、モズアスコットしか成し遂げておらず、すべて牡馬の英傑だ。
基本的にダートに強い馬は、スピードよりパワーに優った“ムキムキの筋肉馬”が向いているとされている。砂は芝と違い、クッション性が高く、しかも、9センチの深さの砂に足が埋まるので、足抜きの良さが求められ、繋(つなぎ)と呼ばれる蹄と脚をつなぐ部分が短く立っているタイプが適しているとも言われている。また先頭に立てば無縁だが、後続馬は砂をかぶるため、それを嫌がる馬も多く、ダートで勝つためには経験が必要で決して甘くない世界なのだ。
今回は“統一ダートG1馬”が大挙8頭もスタンバイしていた。レースレベルも高く、1着テーオーケインズ、2着チュウワウィザードは、もちろん、3着に入った7歳アナザートゥルースも大きな勲章こそないものの、兄はG1馬で自身もダート歴戦の猛者だった。
また一般的には、ダートでは先行馬が有利ともされているが、中京1800mダートで開催されるチャンピオンズカップでは、逃げ馬には不吉なデータがあった。近年では2017年コパノリッキー、2019年インティの3着が最高。昨年、前半1000m60秒3で逃げたエアアルマスも10着に沈んでいた。
陣営が言うようにソダシは、キャリアのなさを露呈したことに加えて、結果的に見れば、秋華賞の惨敗の影響を引きずり、また1800mの距離もベストとは言えなかった。
白馬のヒロイン、ソダシの2021年の戦いは連敗で終了した。
陣営は、まだ今後の方向性を明かしていないが、二刀流に再チャレンジすべき舞台はある。来年2月に東京競馬場の1600mコースで行われるフェブラリーステークスだ。マイル戦は、G1で2勝している得意の距離。しかも、今回一度ダートを経験したというプラス材料もある。日ハム時代から、8年目にしてメジャーで花開いたエンゼルスの大谷翔平が、そうだったように、二刀流を成功させるためには、「決して諦めない」という我慢強さも必要なのかもしれない。
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