西本克利「ニシモト イズ ザ マウス」ディレクター:(にしもと・かつとし)1979年、埼玉県生まれ。スニーカーショップやアパレルブランドで働いたのち、2020年に自身の名を冠したファッションブランド「ニシモト イズ ザ マウス」を設立。インスタグラムは@k_nisimoto_ PHOTO:YUKI AIZAWA
WWD:「ニシモト イズ ザ マウス」立ち上げのきっかけは?
西本克利「ニシモト イズ ザ マウス」ディレクター PHOTO:YUKI AIZAWA
西本克利(以下、西本):アパレルブランドでデザイナーをしている仲間と、画家の中村譲二さんとの3人で、2017年に「ニシモト イズ ザ マウス」を立ち上げました。ブランドコンセプトは架空のカルトクラブ。“赤ん坊は神であり、西本はその声を聴ける唯一の存在。西本は口である”という意味で、このブランド名をつけました。もともとは内輪の趣味でTシャツを作って、友人だけに配っていたのが、19年にアパレルブランドを退職したことをきっかけに本格的に活動するようになりました。
WWD:ドレイクやヴァージル・アブローらがTシャツを着たことで話題になりましたね。
西本:メンバーのデザイナーが、ドレイクの幼なじみである音楽レポーターのマット・バベル(Matte Babel)と友人で、彼にTシャツをプレゼントしたらドレイクも欲しがってくれたんです。いろんな場所で着てくれたおかげでブランドの認知度も上がり、ヴァージルやトム・サックスらも興味を持ってくれました。
マイナーな価値観に対する変化
WWD:インディペンデントなプロジェクトを、彼らのようなオーバーグラウンドで活躍する人たちに注目されるのはどう感じましたか?
西本:素直にうれしかったです。20代のころはマイナーな存在でいることに価値があると思っていたけれど、自分でブランドを始めてからは、オーバーグランドとアンダーグラウンドの両方にアプローチできるのが一番かっこいいと考えるようになりましたね。昔なら媒体のインタビューも断っていたと思いますが、今は自らが表舞台に立って発信する時代。肩書きや年齢関係なく、僕自身の思想や哲学に共感してくれたらうれしいですね。
WWD:昨年11月に初めてLAの「コンプレックスコン」に参加したそうですが、年齢を重ねると新しいことにチャレンジするのが不安になりませんか?
西本:コロナ禍というみんなが落ちこんでいる時期だからこそ、やりたいことや楽しいことを発信しないといけないと思い、足を運びました。そこで改めて感じたのは「何歳からでもチャレンジはできる」ということ。展示会場に訪れてくれた人たちからも反響があり、自信につながりました。“出る杭は打たれる”ということわざがあるように、日本はまだまだ閉鎖的なところがあると思います。例えば、若い子が新しいことを始めようとすると、大人はそれを止めようとするじゃないですか。僕は今42歳ですが、アメリカでは年齢や環境関係なく単純にその人に賛同できたら応援してくれるので、現地の人たちのその姿勢に心を突き動かされましたね。
背中を押してくれた恩人
WWD:西本さんの言葉からは「覚悟」を感じますが、その覚悟はどこから?
西本:やっぱりタトゥーですね。僕は一度その世界に踏み込んだら突き詰めるタイプなので、入れるなら100か0という強いポリシーがあります。だからタトゥー同様に「ニシモト イズ ザ マウス」もやるからには全力で取り組んでいきたいんです。「服は白しか着ない」「タクシーには乗らない」など、僕は“預言者”というペルソナを体現し、それも人生の一部として捉えています。
WWD:全身タトゥーという外見で苦労したことは?
西本:14歳の時に「どのくらい痛いんだろう?」と興味本位で入れたのがはじまりです。街や電車に乗るとジロジロ見られることもあるので、一時期は悩んだこともありました。そんなとき、尊敬している先輩のスケシンさん(スケートシング『C.E』デザイナー)が「西本くんは最先端のことをやっているんだから、自分を恥じることはない。周りの声を気にしなくていいんだよ」と言ってくれたんです。その言葉に背中を押されて、“タトゥー=自分”というキャラクターを作ることができました。さまざまな意見に左右されるよりも、前へ積極的に進むために注力したいと思えるようになりましたね。
WWD:SNSではそのルックスに対して賛否両論も多いのだとか?
PHOTO:YUKI AIZAWA
西本:以前、顔面タトゥーを特集した海外のインスタグラムのアカウントに載った際、国内外で賛否両論でした。「最高にかっこいい」という意見がある一方で、「こいつ似合っていない」などの否定的な意見もありました。でもヘイターはありがたい存在です。その人たちなりに僕のことを考えて、文字にする時間を費やしてくれたわけですから。今ではそんな意見も愛情の一つとして受け入れられるようになりました。こんな風に寛容な気持ちになれたのは、スケシンさんをはじめ、同じ価値観を共有できる仲間とコミュニティからの強い言葉と支えがあったおかげですね。
WWD:今後のプロジェクトは?
西本:次のシーズンは仮想通貨をテーマに、NFTをやる予定です。AIを使って僕と対話できるアートを商品化します。5月からはユーチューブもスタートしますよ。今は撮り溜めしているところですが、チャンネルではブランドとしてではなく、西本克利という個人の内容を配信していきます。ほかにもパジャマブランド「ノウハウ(NOWHAW)」やアーティストの加賀美健さんとのプロジェクトも控えているので、楽しみにしていてください。