赤司竜彦/メディコム・トイ社長:(あかし・たつひこ)1996年、メディコム・トイを設立。「マーケティングに基づく商品開発ではなく自分達が欲しいものを作る」をコンセプトに、映画・TV・コミック・ゲームなど幅広い分野のキャラクターフィギュアを企画製造。2000年、「キューブリック」、01年には「ベアブリック」を発表し、世界中のアーティスト、ブランド、企業、キャラクターなどと多彩なコラボレーションを発信する PHOTO : SHUHEI SHINE
WWD:なぜ70以上のブランドやアーティスト、コンテンツなどとコラボしようと思ったのか?
赤司竜彦メディコム・トイ社長(以下、赤司):ジュンさんからお話をいただき、やるならきちんと成功させたいという気持ちがあった。見せたいものを見せながら数字も作らなければならないというのがスタートの段階にあって、その数字の裏付けを一つのメガコンテンツで作るより、小さな数字を積み重ねていこうと思った。それで、自分自身が懇意にしている作家やカルチャーをリコメンドすることにした。
WWD:最初に思い浮かんだアイテムは?
赤司:最初に作りたいなと思ったのは、「ナグナグナグ(NAGNAGNAG)」の作品だ。彼はトイカルチャーにおいて、バンクシー(Banksy)の名前が広く知られるずっと前からバンクシーのような活動をしているアーティストで、表には一切出てこない。ただし、世界中のトイをベースにしたアーティストで、彼の影響を受けていない人は恐らくいないだろうと思う。幸いなことにこれまでもさまざまなプロジェクトをご一緒させてもらっている。
WWD:「ナグナグナグ」の作品は180cmほどもある大型のもの。280万円の価格についてはどう思う?
赤司:安いと思う。スタッフとももう少し高く値付けしてもよかったかな?と話したばかり。彼の作品は小さなサイズ(20~30cmほど)でも、セカンドマーケットで50~60万円はするので。
WWD:メディコム・トイの商品はセカンドマーケットでも定価以上で取引されているものが非常に多いが、セカンドマーケットを意識している?
赤司:結果的にそうなっているのは認識しているが、セカンドマーケットの人気を基準にすることはない。どういったモノがマーケットに求められているのかの物差しにはなるかも知れないが、だからといってたくさん作るということでもないので。
WWD:他に思い入れのある作品は?
赤司:実際にはどれも思い入れがあるが、今回のイベント全体の20%を占めるのがアン・ヴァレリー・デュポン(Anne Valerie Dupond)とのプロジェクト。アンとも繰り返しコミュニケーションをとったが、彼女が率先していろんなアイデアをくれたので、ありがたかった。
WWD:店内はギャラリーのような雰囲気がある。内装については?
赤司:本当は「ツイン・ピークス」のように床を真っ赤にして、カーテンを黒にしようと考えていた。でも最初の構想と予算がマッチせず、結果的に過度な演出ができなかったので、最終的には作品が生きるようなナチュラルな内装に振った。スタッフは「ツイン・ピークス」の執事をイメージしていたので、執事だけが残ってしまったという感じ(笑)。
WWD:店内に置いているものは全て売り物?
赤司:はい。基本的に並べているものは全て売りたいという気持ちがある。自分が買い物をしているときに欲しいなと思っても、“NOT FOR SALE”と書かれているととても残念で、そういうのにフラストレーションが溜まっていたから。だから非売品は作らない。いいモノが出来上がったら、誰かの手に渡って欲しいという気持ちが前提にあって、“売らないけど見せたい”という気持ちは全くない。売らないモノは見せないというのを基本にしている。
WWD:今回は「アモク(AMOK)」や「キディル(KIDDIL)」「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」などファッションブランドとのコラボも多い。新興ブランドが目立つが、新しい情報はどのように仕入れている?
赤司:コラボレーションしたブランドは普段から私が実際に着ているブランドで、今回のイベントのことを話すととても面白がってくれた。新しいブランドは、常にチェックの対象というか、“オッ”と思うとすぐにコンタクトを取って、「何かしようよ」というパターンが多い。それはブランドもそうだし、アーティストや作家も。「ルームス(rooms)」とか「プロジェクト東京」とか「デザインフェスタ」とか、ほとんどの合同展示会やアートイベントに行っているし、そういうところで出合うことも多い。すごく感覚的だと思う。
WWD:有名無名も関係ない?
赤司:全く関係ない。今回の「アカシック レコーズ」のキービジュアルを描いてくれた茶獣君もまだ20代前半なので。彼のイラストをキービジュアルに使った理由も常に新しい才能と巡り合いたいということの裏返しだったりする。一番知られていない人をここで見せたかった。最高齢が82歳のつげ義春さんだったり、大御所もたくさん協力してくださっているので、「なにこれ?」と思った人もいると思うけど、実はすべての作品が並列の中にあって、その中から自分が気に入ったモノや感覚的に引っかかったモノを選んでほしいという思いもある。ほぼ全世代のいろんなクリエイターやコンテンツを一堂に会せたのはよかった。
WWD:コラボレーションしようと思うときの良し悪しは何か?
赤司:全て感覚に過ぎない。悪いという思いもなく、面白いか何も感じないか。何も感じないモノはやっちゃいけないと思っているので。それは私一人のメガネじゃなくて、会社の中でもいろんな感性を持っている者がいるし、私的には「それどうなの?」と思っても「いやこれがスゲー面白いんだ」って言われると「じゃあやってみる?」という感じ。
WWD:イベントの狙いは?
赤司:開催させてもらうのが渋谷パルコであることもあり、私自身が過去の渋谷パルコからたくさんの影響を受けていて、たくさんのデザイナーや作家のクリエイティブを見てきた。当時種だった私が、いろんなものを吸収して発芽したから今がある。それと同じように「アカシック レコーズ」が若い子に影響を与えられるようなイベントになればいいと思う。