PAMELA BERKOVIC/COURTESY OF DRIES VAN NOTEN ©︎FAIRCHILD PUBLISHING, LLC
「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の創業者であり、40年近くクリエイションを率いてきたベルギー人ファッションデザイナーのドリス・ヴァン・ノッテンは、米「WWD」の取材に対し、6月に退任することを認めた。現役としての最後のショーは、6月のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク中に予定されている2025年春夏メンズ・コレクションになる。ドリスは、米WWDに独占公開した声明の中で、「そのうちにブランドのストーリーを引き継ぐデザイナーを発表する」とし、「私はこの瞬間のためにしばらく準備をしてきた。新しい世代の才能がブランドにビジョンをもたらすために、彼らに余地を残すべき時だと感じている」とコメント。関係者によると、後継者探しはここ数カ月のうちに、静かに始まったという。
独創的でありながら美しい色使いやプリント、エキゾチックなディテールで彩られたスタイルで多くの人に愛されてきた現在65歳のデザイナーは、18年にメゾンの株式の過半数をスペインのプーチグループに売却した時から後継者への継承のロードマップを築いていた。プーチは買収当時、ドリスが少数ではあるが株式を長期間保有し、「チーフ・クリエイティブ・オフィサー兼会長として取締役会にも参加する」としていた。同社は明言していなかったが、ドリスは最低5年はクリエイションの最前線に立ち続ける想定だったようだ。
後継については、彼の右腕が最有力だが、一方でヨーロッパのデザイナーとの交渉は始まっているとの話もある。秋に開くウィメンズ・コレクションについて、ドリスは「仕事を共にしてきたデザインチームが手がけるだろう。彼らは、素晴らしいコレクションを生み出すはず。私には、その自信がある」と話しつつ、「一方で、後継デザイナーについては、追ってアナウンスしたい。ただ、宝物のように大事なブランドには、これからも何らかの形で関わるつもりだ」としている。
プーチのマーク・プーチ(Marc Puig)会長兼最高経営責任者は、「ドリスが38年のキャリアに区切りをつけ、第一線を退く決断をしたことに敬意を表したい。プーチは、彼のレガシーを未来へとつなげる。まずはドリスと我々にとって、刺激的な新章をスタートしたい」としている。
ドリスは、1958年ベルギー・アントワープ生まれ。テーラー家系の3世代目として生まれた彼は、若い頃からファッションに触れて育ち、18歳からアントワープ王立芸術アカデミー(Royal Academy of Fine Arts Antwerp)でファッションデザインを学んだ。卒業後、フリーランスとして活動した後、86年に自身の名を冠したブランドを設立し、アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)やウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)、マリナ・イー(Marina Yee)らと共に「アントワープの6人(The Antwerp Six)」としてロンドンでコレクションを発表。89年にはアントワープに旗艦店を開いた。91年からパリ・メンズ・ファッション・ウイークでメンズを発表。93年からはパリ・ウィメンズ・ファッション・ウィークにも参加し、シーズンごとにメンズ・ウィメンズそれぞれのショーを開催。2007年にパリのセーヌ川沿いに旗艦店を構え、09年には東京にも旗艦店をオープンした。18年にメゾンの株式の過半数をプーチに売却し、21年12月には「バレンシアガ」や「メゾン マルジェラ」「ジル サンダー」で要職を務めたアクセル・ケラー(Axel Keller)CEOが就任。22年には、フレグランスやリップスティックから成るビューティラインをローンチした。現在は米ロサンゼルス、中国では上海、深圳など複数都市にもショップを構え、23年7月にはセーヌ川沿いにあるウィメンズとメンズの旗艦店の間にビューティとアクセサリーに特化した新店を開いた。
ドリスは多くのベルギー人デザイナー同様、プレ・コレクションや広告、セレブリティの着せ込み、ハンドバッグビジネスの拡大などを避け、一般的にブランド発展のために用いれらる道筋の多くに抵抗してきた。そんな彼の生み出すコレクションには服をこよなく愛する姿勢が感じられ、それが服好きの共感を呼んでいる。14年にパリ装飾美術館で開催した大規模展覧会「ドリス・ヴァン・ノッテン インスピレーションズ(Dries Van Noten Inspirations)」では、コレクションの着想源やそこから生まれた服を並べ、クリエイションの過程を惜しげもなく披露。その翌年には、アントワープのモード博物館(MoMu)でも開催されたが、ドリスの頭の中を覗き込むよう展示は大きな話題を集めた。またショー演出へのこだわりも強く、設立初期から演出家のエティエンヌ・ルッソ(Etienne Russo)と共に、数々の記憶に残るショーを作り上げてきた。17年3月には通算100回目のショーを開催。同年、その回顧録となる2冊の本「ドリス ヴァン ノッテン 1-100(Dries Van Noten 1-100)」が発行されたほか、ドキュメンタリー映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」も公開された。