冬に公園などを歩いていると、甘い香りが漂ってくることがあります。
秋のキンモクセイでもなく、早春のジンチョウゲでもなく、冬の花の甘い香り。
さて、この花は?
蝋細工(ろうざいく)を思わせる花
その花はロウバイの可能性がありますね。
この場合のロウバイは「老梅」ではなく、もちろん「狼狽」でもなく、「蝋梅」あるいは「臘梅」です。
蝋梅と書くのは、黄色の花が半透明でつやがあり、蝋細工(ろうざいく)を思わせるためといわれ、臘梅と書くのは、臘月(ろうげつ/陰暦12月)に咲くためといわれます。
ロウバイはロウバイ科の落葉低木で、「梅」の字が使われていますが、バラ科のウメとは別種です。中国原産で、日本には、江戸時代初期に渡来したと伝わります。
「雪中四花(せっちゅうしか)」と「雪中四友(せっちゅうしゆう)」の一つ
中国では、ロウバイはウメ、ツバキ、スイセンとともに「雪中四花」の一つに数えられ、冬の花として愛(め)でられてきました。
画題になる「雪中四友」もあって、こちらはウメ、ロウバイ、サザンカ、スイセンのことです。
雪中四花にはツバキが入り、雪中四友ではツバキの代わりにサザンカが入っていますね。ほかの3種は同じで、いずれも、雪の降る折にも咲くたくましい花です。
ロウバイの英語名はWintersweet(ウィンタースウィート)などです。意味は「冬の甘い香り」。ロウバイに関しては、英語圏の人たちも、日本人や中国人と同じ感性を持っているようです。
芥川龍之介が詠んだ「臘梅」
蝋梅/臘梅は、冬の季語でもあります。
1892(明治25)年に生まれ、大正時代に活躍した小説家、芥川龍之介に次の一句があります。
〜臘梅や雪うち透(す)かす枝のたけ〜
芥川龍之介が住んでいた家の庭には、幾つかの種類の木が植わっていたといいます。
彼はなかでも、あるロウバイの木が大好きだったと書き残しています。
そのロウバイの木の枝に雪がうっすらと積もり、それが枝の地肌を透かしているのでしょう。
その様(さま)は一幅(いっぷく)の絵のようであります。
ロウバイの花言葉は?
ロウバイの花言葉は「奥ゆかしさ」「愛情」「慈愛」などです。
昨今は自己主張することをよしとする風潮がありますが、ロウバイの花言葉も味わい深いものです。
見た目はかわいらしく、香りは甘いロウバイの花。冬の穏やかな日に、蝋細工のような黄色のロウバイの花を観に公園などを散策するのも楽しいでしょう。
冒頭の写真
ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿)
出典・参考
『俳句の花図鑑』(監修/復本一郎、発行所/成美堂出版)、『美しい花言葉・花図鑑』(著者/二宮考嗣、発行所/ナツメ社)、『色と形で見わけ散歩を楽しむ花図鑑』(監修/小池安比古、著者/大地佳子、写真/亀田龍吉、発行所/ナツメ社)、『365日の歳時記(上・1月~6月)』(編著者/夏生一暁、発行所/PHP研究所)、『日本の365日に会いに行く』(編集/永岡書店編集部、発行所/永岡書店)、『芥川龍之介』(編著/中田雅敏、発行所/蝸牛社)、『鑑賞俳句歳時記 冬・新年』(編著者/山本健吉、発行所/文藝春秋)