映像実験番組『ご協力願えますか』の新シーズン『またまた、ご協力願えますか』も、いよいよ後半戦に突入。
今回は、「傾きスペシャル!」と題して、スマートフォンを大きく傾けることによって生まれる不思議な体験を味わっていただきます。どうぞ全画面で、そして画面を固定モードにしてお楽しみください。
前回の、第2回「新しい波、来たる」では、スマートフォンと身体の関係性に着目した表現手法が、様々なアプローチによって開拓できることを感じていただけたのではないかと思います。
そして、今回の傾きスペシャル!でも、また違ったアプローチで新しい試みに挑戦していきます。
シーズン2のために企画されたアイデアから、映像を傾け、重力系との関係性を意識することで成り立つ映像表現をまとめました。
この記事では、その第3回に収録されている内容を、一つ一つ解説していきます。本編映像を見てから、この解説を読んで理解を深めてください。
それでは、スマートフォンの持つ新しい表現の可能性を、またまた、お楽しみください。
ご協力その1「夏は夜」 ー 身体とメディアの状態がコンテンツの表現を強める
あなたがスマートフォンの角を指先でつまんでぶら下げると、暗い画面の中で線香花火に火がつきます。
ただそれだけの、何の変哲もない映像ですが、「指先でぶら下げて持つ」という身体の状態、そして傾いていることによって不安定になったスマートフォンから伝わる身体的フィードバックが映像の内容と同期し、線香花火が燃え尽きるまでの儚い時間の体験が、私たちの中に立ち上がってきます。
ご協力その2「台りべす」 ー メディアの状態による解釈の変換
スマートフォンの中で、男性がすべり台を逆走して「登っていく」映像が流れます。
これをスマートフォンを傾けながら見ることによって、現実世界の重力系が映像内に影響を及ぼしたような感覚が得られ、すべり台を逆向きに「すべり下りる」という不思議な解釈が生まれます。
ご協力その3 「ご協力ねずみ ねずみ返し」 ー "物語" への積極的参加
チーズやりんごを求めて、弟と一緒にテーブルの脚を登っていくご協力ねずみ。古来よりねずみを避けるために用いられてきた「ねずみ返し」を乗り越えるために、あなたにご協力をお願いしてきます。
そして、スマートフォンを完全に横に傾けることにより、映像の天地が縦から横に切り替わり、ねずみたちは新しい重力を当たり前のように受け入れます。(セリフまでこの新しい重力にちゃっかり適応しています)
しかし、無事に「ねずみ返し」を乗り越えるご協力ねずみでしたが、チーズやりんごは新しい重力の方向へと落下してしまい、目論見は大きくはずれてしまうのでした。
加藤小夏の "ちょっと" ご協力願えますか「目覚まし」 ー 手のひらの上で転がす
今回の「加藤小夏の "ちょっと" ご協力願えますか」は、朝寝坊しそうになる小夏さんを叩き起こすために「昨夜の小夏」からご協力をお願いされる、というイレギュラーな構造です。
手首をひねってスマートフォンを傾けるというご協力は、手のひらの上で、ミニチュアのベッドを傾けるかのようです。そして、それによって見事に床に投げ出される小夏さん。
今までと違って、ご協力がまんまと成功した(昨夜の)小夏さんでしたが、よく見ると、せっかく目を覚ますことができた小夏さんは、再びベッドに潜り込んでしまっているのです。
ご協力その4「すべり棒」 ー 重力と空間の不条理な変換
真っ白な空間に、なぜか設置されたすべり棒と、やはりなぜかそのすべり棒に捕まっている男。男は棒を伝ってゆっくりと降りていってしまいます。
そして、あなたがスマートフォンを上下逆さまにすると、重力が変換されたことによって男が再び穴から戻って来ますが、なぜか男も上下が逆さま。戻ってきたようでもあり、下の階の天井から出てきたようでもあり。重力とともに、空間までもが理不尽に変化されたとき、どのような解釈が生まれるでしょうか?
ご協力その5「コペルニクスの秒針」 ー 身体の拡張によるコペルニクス的転換
壁にかかった時計の映像。12時になった瞬間にあなたがスマートフォンをギュッと握ると、映像の中の秒針が固定され、コペルニクスによってもたらされた「天動説から地動説への転換」のように、秒針を中心に世界が回り始める、という私たちの常識を超えた現象が起こります。
映像の中でかなり小さな、局所的な要素でも、「握る」という身体的行為の拡張はしっかりとマッピングされます。
以上、第3回に収録されている「ご協力」全6つの解説でした。
身体に最も近い映像メディア「スマートフォン」でしかできない表現によって、みなさんの中に「得も言われぬ気持ち」が芽生えたのだとしたら、幸いです。
次回はいよいよ最終回。
遂にフィナーレを迎える「またまた、ご協力願えますか」を、引き続きお見逃しなく!
東京藝術大学 佐藤雅彦研究室
NHK Eテレ『ピタゴラスイッチ』『テキシコー』『0655・2355』の監修などで知られる佐藤雅彦(東京藝術大学大学院映像研究科教授)による研究室。「メディアデザイン」をテーマとして、研究生たちが日々作品制作に励む。本番組『ご協力願えますか』は、佐藤教授と研究室の卒業生たちによって、LINE上の「メディアデザイン」の教育番組として制作された。