皆様、ご無沙汰いたしております。2019年に配信された映像実験番組『ご協力願えますか』の新シーズンが始まります!
この番組は、視聴者の皆さんに、ちょっと変わった「協力」をしてもらう事で初めて成立する少し変わった番組です。どうぞ全画面でお楽しみください。
映像をただ観るのではなく、観ながらスマートフォンを斜めに傾けたり、角を指でつまんだり、上下逆さまにしたり… そんな妙な「協力」の数々によって、今までに体験したことのない「得も言われぬ気持ち」が、皆さんの胸の中に沸き起こります。
こんなにも面白く、新しい体験が生まれるのは、人類が、スマートフォンというメディアによって、初めて映像を手に持てるようになったからに他なりません。つまり映像は観るだけのものだったのが、それだけでなく自らの手で持ち上げたり、斜めにしたり、というように扱えるものにもなったのです。そして、スマートフォン上の映像と身体の関係を研究すると、そこには、今までにない表現が生まれる可能性が溢れていたのです。
私たちは今回、シーズン1の反響も受けて更なるチャレンジを続け、再び、全4回のエピソードを構成しました。
この記事では、その第1回に収録されている内容を、一つ一つ解説していきます。本編映像を見てから、この解説を読んで理解を深めてください。
そして、スマートフォンの持つ新しい表現の可能性を、またまた、お楽しみください。
ご協力その1「机上のかんな」 ー 触覚情報が視覚情報に変換される
あなたがスマートフォンの裏面に指先を擦り付けると、映像上の「かんな」からかつお節が出てきました。まるで、かんなという変換マシンによって、指が削られ、かつお節という「イメージ」に置き換えられ、あなたは、かつお節が自分の身体の一部であったかのような気持ちを抱きます。そして、それが猫に食べられてしまうという体験は、生まれて初めてのとんでもない体験なはずです。
ご協力その2「トントンプラモデル」 ー 映像手法と身体感覚のマッチング
プラモデルが組み立てられるこの映像は、ストップモーションアニメーションと呼ばれる映像手法によって作られています。これ自体は、目にすることの多い一般的なものですが、それをスマートフォンの角を指先でトントン叩きながら観ることによって、まるでそこに関係性があるかのような、新しい感覚が芽生えます。
ご協力その3 「ご協力ねずみ 冷蔵庫のうら」 ー "物語" への積極的参加
“ねずみが50円玉を手に入れ損ねる”という物語を見ていると、途中で突然、ねずみがあなたに「あるご協力」を求めてきます。あなたがスマートフォンを斜めに傾けると、ねずみの思惑通りに50円玉が戻ってきますが、それが起因して500円玉も出てくるという想定外の結末を、あなたとねずみは同時に享受することになります。
加藤小夏の “ちょっと” ご協力願えますか「物干し竿」 ー 身体の拡張とその失敗
前回は「ご休憩コーナー」の担当だった加藤小夏さんが、今回はご協力をお願いして来ます。第一回は「物干し竿」編。映像の中の物干し竿を、外側から指で支えるという「身体の拡張」が起こりますが、小夏さんがお気に入りのワンピースを体に当てがってこちらに見せてくれるタイミングで、物干し竿が落ちてしまいます。ワンピースに意識を奪われて指の力を緩めてしまった人にとってはそれを見抜かれたような気持ち、しっかり押さえていた人にとっては、あたかも濡れ衣を着せられたような気持ちが起こるかも知れません。
ご協力その4「ろうそく東京タワー」 ー 身体の不条理な拡張
スマートフォンに息をフーッと吹きかけると、ろうそくの灯が消えるかと思いきや、わずかに炎が揺らぐだけで、消えずに持ちこたえます。しかし次の瞬間、背景にぼやけて見える東京タワーの照明が消灯します。成立するはずのない因果関係が、ろうそくの存在が橋渡しとなって、理解されてしまいます。
ご協力その5「ヨット」 ー 身体によるトリミング
折り紙の遊びのひとつに「だまし舟」というものがあります。それは、折り紙で作ったヨットの向きを、相手が持ったままで、縦から横に変えるというものです。この映像はそれを包み隠さずに写しているだけなのですが、テロップによって、途中から画面の下半分を手で隠すことを要求されます。その隠された部分で何が行われていたのか、それは映像をもう一度、手で隠さずに再生してみない限りは見ることができません。どのようにトリミングするかによって意味の変わる映像を、身体によって実体験することができます。
以上、第1回に収録されている「ご協力」全6つの解説でした。
身体に最も近い映像メディア「スマートフォン」でしかできない表現によって、みなさんの中に「得も言われぬ気持ち」が芽生えたのだとしたら、幸いです。
それでは、全4回の「またまた、ご協力願えますか」を、どうぞお見逃しなく!
東京藝術大学 佐藤雅彦研究室
NHK Eテレ『ピタゴラスイッチ』『テキシコー』『0655・2355』の監修などで知られる佐藤雅彦(東京藝術大学大学院映像研究科教授)による研究室。「メディアデザイン」をテーマとして、研究生たちが日々作品制作に励む。本番組『ご協力願えますか』は、佐藤教授と研究室の卒業生たちによって、「メディアデザイン」の教育番組として制作された。