スマートフォンを使って数々の新しい体験を模索してきた『ご協力願えますか』も、いよいよ最終回。全4回の本編映像を、楽しんでいただけたでしょうか?
『ご協力願えますか』は、視聴者の皆さんに、ちょっと変わった「ご協力」をしてもらう事で初めて成立する映像実験番組です。

次々と求められる様々な「ご協力」をすることで得られる、初めての映像体験をご鑑賞ください。
この記事では、第4回に収録されている内容を、一つ一つ解説していきます。
最終回となる第4回は、今まで体験していただいた「ご協力」たちを土台とした、ちょっとアドバンストな内容になっています。
どうぞ、本編映像を見てから、解説を読んで理解を深めてください。
ご協力その1「砂糖バキューム」 ー イメージの保持と変換

あなたが息を吸い込むと、砂糖があなたの口元へと吸い込まれていきます。そして、次の指示で息を吐くまでの間、その「砂糖」はあなたの身体の中にイメージとして保持されることになります。
さらに、吐き出したときにそれが「金平糖」に姿を変え、カラフルに色まで着いているという結果について、その原因があなたの身体に依拠しているような気持ちがもたらされます。
ご協力その2「流砂」 ー 視覚と触覚の感覚的親和性による、意味を超えた表象

スマートフォンを持っている手の甲の皮膚を指でつまんで引っ張ると、画面上の砂がその一点へ流れ込んできます。要求される手の動作も、映像も、慣れない非日常的なものであり、その因果関係も意味の通らない不条理なものです。しかし、実際に体験してみると、この映像からは他の「ご協力」に負けずとも劣らない強い表象(気持ち)がもたらされます。それを成り立たせているのは、流砂のベクトルと手の皮膚の引っ張られるベクトルが同期していることに加え、映像の中で起こっている現象と、手の皮膚の触覚との間に、意味を超えた感覚的親和性があることなのではないでしょうか。
ご協力その3 「ご協力ガエル 嫉妬」 ー 存在するレイヤーの違いを利用した共謀

舞台は、ご協力ガエルくんの結婚式。幸せそうなケロ美に嫉妬したネタ美とソネ美(右側の二人)は、カラスのカー吉と共謀して、ケロ美への嫌がらせを企てます。そして、いち早く、その企てに気づいたご協力ガエルくんは、視聴者であるあなたに協力を求め、それをなんとか阻止しようと試みます。ご協力ガエルくんは物語の中で唯一、あなたの存在を知っている仲介役のようなキャラクターです。そのご協力ガエルくんと共謀することで、完全に「物語の外側」にいるあなたは、完全に「物語の内側」にいるネタ美の頭にフンを落とす張本人になってしまいます。
ご協力その4「反抗期」 ー 表象の成立と裏切り

スマートフォンを手前に傾けると、色とりどりのボールが転がってきます。傾きを検知する「加速度センサー」を使っていなくても、ただタイミングが合うだけで、自分の動作とコンテンツとの間に因果関係を感じてしまいます。これだけなら、とてもストレートなご協力の関係性ですが、この「反抗期」では最後に一つだけ、それに逆らう動きをするボールが現れます。わざわざご協力をして成立させた関係性を、わざわざ裏切られたとき、あなたはどのような気持ちになったでしょうか?
更に込み入ったご協力「卵CTスキャン」 ー 拡張現実的表象

水平に持ったスマートフォンをゆっくり上下させると、CTスキャンのようにゆで卵の断面が表示されていき、スクリーンを目に見えないゆで卵が通過したかのような拡張現実的表象が得られます。第1回に収録されていた、りんごをキャッチする「ニュートン」と違い、ただそこに物体があるかのような感覚だけではなく、物体の断面が見えるという不思議なことが起こっていますが、それすらも何ということはなく理解してしまう自分がいることに気がつくはずです。
以上、第4回に収録されている5つの「ご協力」の解説でした。
今回は、最終回ということもあり、今までの「ご協力願えますか」よりも、少し進んだ内容で、鑑賞が難しかったかもしれません。少しでも楽しんでいただけた皆様は、かなりのご協力マニアかもしれません。
また、最終回の「加藤小夏のご休憩タイム」は、一見なんてことのないシンプルな映像に見えるかもしれませんが、実は、影と光源に関するある一つの真理が、とてもわかりやすく露見しています。
机の上にLINEという文字を描き出す鉛筆の影。それを照らしていた光源の位置に、カメラを移動させると…、なんとまたLINEの文字が。しかも、今度は、実体の鉛筆で。果たして、何が、どうなって、こんなことになったのでしょうか?考えてみると、楽しいですよ。

さて、全4回の「ご協力願えますか」、いかがでしたでしょうか?
スマートフォンの持つ新しい表現の可能性を、感じていただけたでしょうか。
スマートフォン上の映像と身体の関係。本作の制作を通して、私たちは、そこに鉱脈を掘り当てたかのように、たくさんのアイデアと出会うことができました。そして、まだまだ、新しい表現の可能性は尽きていないと感じています。
皆様にとってこの番組が、メディアと身体の関係や、新しい映像表現について、考えるきっかけになったとしたら、幸いです。
またいつか、ご協力いただける日が来るのを楽しみにいたしております!
東京藝術大学 佐藤雅彦研究室
NHK Eテレ『ピタゴラスイッチ』『0655・2355』の監修などで知られる佐藤雅彦(東京藝術大学大学院映像研究科教授)による研究室。「メディアデザイン」をテーマとして、研究生たちが日々作品制作に励む。本番組『ご協力願えますか』は、佐藤教授と研究室の卒業生たちによって、「メディアデザイン」の教育番組として制作された。