ロッカールームを出て、埼玉スタジアムのピッチに上がった瞬間、大きく鳴り響く手拍子に気持ちを駆り立てられ、鳥肌が立っていた。
10月23日の柏レイソル戦は「いつもと雰囲気が違う」とすぐに感じ取った。キャプテンの西川周作は、力を込めて言う。
「僕らも相当な覚悟を持っていた。矢印が後ろ向いた試合はできない。全員で前に進もう、勇気を持って、矢印を前に向けようって」
3試合連続で失点していたコーナーキックでも集中を切らすことなく、柏戦では計4本ともしっかり防いだ。練習とミーティングでは再確認したとおり、ゾーン、マンマーク、カバーの役割をより明確にしていた。
「守り方は自分たちの頭の中にありましたから。僕としては、自分が行けるボールをすべて行ってやろうって。キーパーが出られない範囲は、みんながカバーしてくれました。相手のコーナーキックになっても、声を出し、絶対にやられないぞ、という雰囲気をつくっていたと思います」
スコアレスで進んだ後半のアディショナルタイム。チアゴ サンタナがPKを誘発し、本人がボールをセットしたときには勝利を確信した。ブラジル人ストライカーのキック精度と威力は、練習でシュートを受ける味方のGKが最もよく知っている。
「信じていましたよ。チアゴなら大丈夫だなって。絶対に決めてくれると思いました」
終了の笛が鳴ると、拳を突き上げて喜んだ。勢いよく駆け寄ってきた原口元気と抱き合い、そして無失点に抑えた守備陣と喜びを分かち合った。6月30日のジュビロ磐田戦以来となるホームでの勝利に湧き上がるファン・サポーターに挨拶をしながらスタジアムをぐるりと回り、北側のゴール裏でさらに感情が込み上げた。
「(東京)ヴェルディ戦のあとにサポーターと話す機会があり、『一人ひとりが責任をもって闘う姿勢を見せてほしい』と言われていたんです。試合翌々日の選手ミーティングでも、その意見をチームで共有しました」
西川はキャプテンとして、選手だけでミーティングをする意味を最初に話したという。
「J1リーグ残留に向けて、腹をくくり、割り切って戦っていこうと」
そこから、各々が思っていることを口にした。レギュラーのメンバーだけではない。今季、あまり試合に絡んでいないベテランの興梠慎三、宇賀神友弥らも声を挙げた。周囲の顔を見渡すと、誰もが静かに頷き、心を揺さぶられているようだった。怪我の影響で1試合も出場していない安部裕葵の言葉も胸に刺さった。
「選手一人ひとりが、ありがとうの気持ちを持とうって。感謝の気持ちですよね。誰かがミスしても、自分がカバーする。プレーできない状況なのに、僕たちにそう言ってくれたんです。つい忘れがちなことかもしれないな、と。これからも僕は、その思いを大事にしながら闘っていきたいです」
秋が深まる夜、熱を帯びた埼玉スタジアムでチーム、ファン・サポーターが一体となり、つかんだ1勝は大きい。連敗は4でストップ。試合後も「We are REDS!」コールがこだまするなか、西川はまた鳥肌が立っていた。笑顔が広がるスタンドを眺めながら、あらためて思った。
「応援されているのは当たり前ではない。感謝、ありがとうですね。ファン・サポーターのその思いに対し、ピッチの上で恩返ししていくのが、いま僕らのすべきことです」
次戦は10月30日の横浜F・マリノス戦。アウェイの日産スタジアムに乗り込み、再び勝利の凱歌を響かせることを誓っていた。
(取材・文/杉園昌之)