指揮官が交代しても、浦和レッズの基本コンセプトは変わらない。クラブはリカルド ロドリゲス監督、マチェイ スコルジャ監督が築いてきた土台を生かし、さらなる上積みを図ることを宣言している。
2024シーズン、舵を取るのはノルウェー人のペア マティアス ヘグモ監督。母国のローゼンボリBK、スウェーデンのユールゴーデンIFなどのビッグクラブを率い、ノルウェー代表監督を務めた経験も持つ。
昨季まではスウェーデン1部のBKヘッケンで指揮を執り、22シーズンにはリーグ優勝に導いている。
「ノルウェーではすごく有名な監督で、良い話しか聞こえてきません」と話すのは、同郷のマリウス ホイブラーテン。
「直接、指導を受けたことはないのですが、選手とのコミュニケーションの取り方が素晴らしいようですね。彼がつくるチームは、戦術的に洗練されていました。ボールを保持してゲームをコントロールし、常に攻撃的。守備面でも前線から精力的にプレスをかけていました。きっとマチェイ監督の求めることと大きく変わらないと思います」
注目したいのは、攻撃力あふれるチームをつくり上げた手腕。主に4-3-3システムを採用し、2シーズン連続でリーグ最多得点を記録している。22シーズン、23シーズンともに30試合で奪ったゴール数は「69」。ヘッケンの戦績を見ても、攻め勝つゲームが目立つ。
クラブのオフィシャルサイトで発表した『2023シーズンの振り返りと2024シーズンに向けて』のリポートにある一文に思わず期待を抱いてしまう。
『ペア マティアス ヘグモ新監督のもと、より前方に重心を掛けた攻撃的なチームを目指すべく、既にその準備に着手しております』
具体的な補強プランも明かしている。
『J1リーグで得点王を目指すことができるストライカーと、年間10点以上取ることのできる2列目の選手』
最重要のターゲットとするアタッカーの獲得は続々と発表されている。
起爆剤として期待されるのは、イタリア・セリエAのASローマから期限付き移籍で加わったノルウェー代表FWのオラ ソルバッケン。得点力を備えた186cmの大型ウインガーはノルウェーのFKボーデ/グリムト時代には3シーズン(2020-2022)で90試合に出場し、20得点・24アシストをマークしている。
今季、レンタル先のギリシャのオリンピアコスでは思うように結果を残せなかったが、ポテンシャルは十分。伸び盛りの25歳は昨年6月に代表初ゴールを決めており、野心にあふれている。
さらに、FC東京から渡邊凌磨、名古屋グランパスから前田直輝が加入。ともにヨーロッパでの経験を持ち、Jリーグでも実力は証明済み。サイドや中央からゴールを奪えるタレントがそろってきた。
チームのベースを築く中盤のタレントは確保。指揮官の懐刀として、ヘッケンの主将を務めていたサミュエル グスタフソンは重要なピースになりそうだ。187cm、79kgの大型ボランチはスウェーデン代表歴を持ち、その実力は言わずもがな。ゲームを組み立てながら積極的にゴールも狙う。
ダイナミックな飛び出し、パワフルなミドルシュートが武器。ヘッケンでは中盤の底でプレーしていたが、攻守のバランスを取るだけのアンカーではない。1月11日に29歳を迎え、今まさに脂が乗っている。
新たな中盤の構成は、気になるところ。昨年、日本代表に初選出されるなど、大きく飛躍した伊藤敦樹を筆頭に、コンダクターとして重要な役割を果たしてきた岩尾憲、著しい成長を見せる豊富な運動量な安居海渡など、センターハーフには有能な人材がそろう。
そこに一人タイプの異なるミッドフィルダーも加わった。期限付き移籍でFC琉球、大宮アルディージャ、水戸ホーリーホックを渡り歩き、J2リーグで試合経験を積んできた技巧派レフティーの武田英寿だ。昨季は水戸で38試合に出場。クラブのオフィシャルサイトに寄せたシンプルなメッセージには22歳の思いがにじむ。
「久しぶりにまた浦和レッズのユニフォームを着て戦える日がきました。成長した姿をピッチの上で見せられるように頑張りたいと思います」
2年半ぶりの復帰を果たし、胸を弾ませている。
新戦力を多く迎え入れた守備陣に目を移すと、将来性のある若い戦力を充実させている。頭数が不足していた右サイドバックには、湘南ベルマーレから24歳の石原広教を獲得した。
Jリーグでの実績は説明不要だろう。精力的にアップダウンできるハードワーカーを加えたことからも、新たなチームづくりが透けて見える。酒井宏樹が絶対的な存在として君臨するが、昨季は手負いの状態で無理をさせたのも事実。
そして、3年ぶりに宇賀神友弥も復帰した。両サイドをこなすことができ、精神的支柱になるベテランが加わった影響も計り知れないだろう。使えるオプションが増えたのは大きなプラスになる。
選手層をより分厚くしたのはセンターバック。ガンバ大阪から25歳の佐藤瑶大、京都サンガF.C.から26歳の井上黎生人が加入した。鉄壁を誇るセンターバックコンビのアレクサンダー ショルツとホイブラーテンがいるなかで、あえてレッズへの移籍を決断した2人の覚悟は、きっと相当なもの。チーム内の競争意識は、さらに高まっていくはずだ。
現有戦力を含めたポジション争いは横一線。23年にひと足早くプロ契約を結んだ育成組織出身の早川隼平は12月5日に18歳の成人を迎え、新シーズンに向けて気持ちを新たにしていた。
「僕の中で23年は『0年目』。周りの人たちは、24年から2年目と言うかもしれませんが、『プロ1年目』という気持ちで臨みたいと思っています。新しい監督に求められることを把握し、自分のプレーを少しずつ表現していきたいです」
レッズには成熟したタレントだけではなく、ポテンシャルを秘めた逸材もいる。育成年代での指導歴を持つマティアス監督が、若手たちの能力をいかに伸ばしていくのかも見どころだ。
可能性に満ちた新チームが、もうすぐ動き出す。
(取材・文/杉園昌之)