タイムアップの笛が鳴った瞬間、関根貴大は顔をしかめて天を仰いだ。
その表情が意味していたのは、これだけ押しながら勝てなかったことへの失望だったか、自分がもう1点決めていれば勝てていたという悔恨だったか……。
9月1日に浦和駒場スタジアムで行われた川崎フロンターレとのYBCルヴァンカップ準々決勝第1戦は、1-1のドローで終わったものの、間違いなく浦和レッズの勝ちゲームだった。
前線の江坂任と小泉佳穂が代わる代わる中盤に顔を出し、ライン間でボールを受けてシンプルにパスを展開する。そのパスワークに関根が、汰木康也が絡んで押し込んでいく。
江坂と小泉によるゼロトップが機能したのは、攻撃面だけではない。
ふたりがプレスのスイッチとなり、川崎に自由な攻撃を許さなかった。
35分に生まれた先制点の場面も、ふたりのプレスから。
小泉が相手センターバックにプレスを掛け、江坂がボールをカットし、持ち運ぶ。GKが飛び出してきたところでパスをさばくと、走り込んできたのが、関根だった。
「今日は2トップが前線からうまくハメてくれたので、それに合わせて自分たちも付いていきました。最終ラインを含めてチーム全体として高い位置でプレッシャーを掛けられたことが、今日のゴールシーンに繋がったと思います」
それにしてもオリンピックによる中断が明けてから、関根のプレーには目を見張るものがある。
相手に襲いかかる迫力は申し分なく、最後までハードワークが途切れることもない。それでいて、ゴール前で決定的なチャンスに絡む機会も少なくない。
チームは8月14日のサガン鳥栖戦から連戦中のため、メンバーを入れ替えながら戦っているが、関根は毎試合のように長時間、起用されている。指揮官が重用するのも、そのパフォーマンスを見れば、納得だろう。
リカルド ロドリゲス監督のもと、ポジショナルプレーに取り組む今季、関根は悩みを抱えていた。
「自分の良さがだんだん消えてきているので、バランスを今すごく考えているところです。ドリブルを出せなかったら、僕が出ている意味がない」と言ったかと思えば、次の機会では「今はやっぱり自分を変えたいという思いのほうが強い。ドリブルを出せないからといって、自分がいる意味がないと思われないようにしないといけない」と語ったりもした。
自分でも「もうね、ブレブレですよね、気持ちが」と苦笑していたが、今の関根にはそうした迷いは一切見られない。
8月21日の徳島ヴォルティス戦では今季の公式戦4ゴール目をマーク。25日のサンフレッチェ広島戦でもチャンスに絡み、川崎戦で5ゴール目を決めた。
「今シーズンに入って僕自身は初めての連戦を戦っている感覚です。コンディションもすごくいいし、リズム良く試合ができています。チームも負けなしですし、個人としても少しずつ結果が付いてきているので、気持ちに余裕が出てきている」
立ち位置を意識しながら、ゴール前に入っていくコツをしっかりと掴んだようだ。
「第2戦はどんな内容であれ勝たなければいけない。中3日でしっかりと準備したい」
関根は準決勝を見据えてきっぱりと言った。
たしかに勝つならどんな内容でも構わない。だが、その勝利が関根の今季初となる2試合連続ゴールによってもたらされるなら、最高だ。
(取材/文・飯尾篤史)