9月10日の柏レイソル戦を翌日に控えた練習場だった。少し離れた距離から声をかけられた。
「鹿島アントラーズ戦は良くなかったぞ」
浦和レッズの宮本優太は、自分でもよく分かっていた。前に出て行く積極性を欠き、思うように攻撃に絡むことができないままタイムアップ。約1カ月ぶりのリーグ戦先発出場だったものの、あらためて振り返れば、反省ばかりだった。
「消極的になってしまって……」
宮本の言葉を聞いた同じサイドバックの馬渡和彰は、言わずにいられなかったのだろう。後輩が試行錯誤しながら努力する姿をずっと見ていたのだ。
「俺はプロ生活を長くやっているから分かるけど、チャンスってそうそう巡ってこないものだぞ。それでも、チャンスがくるのは、日頃から手を抜かずに頑張っているからなんだよ。あしたは思い切ってやってこい」
ライバルでもある先輩の言葉は、胸に響いた。大卒1年目の新人であっても、危機感は常に持っている。戦力が次から次に補強されるクラブに安住はない。
「ここで結果を残さないと、1年で浦和を去らないといけない可能性だって出てくると思います。僕はそういう覚悟を持って、柏戦のピッチに立っていました」
9月10日はフル出場し、攻守両面で奮闘した。無理をしてでも前を向き、積極的にビルドアップに参加。果敢に縦パスを狙い、チャンスも創出していた。酒井宏樹の「代役」という言葉が耳に入ってきても、自らに矢印を向けている。
「僕は僕でありたい」
酒井がケガで欠場している間にスターティングメンバーに名を連ね、勝利に貢献できなかったのは苦い記憶として残る。5月下旬から7月上旬にかけてはリーグ戦6試合に先発出場し、2勝3分け1敗。酒井が戻ってからチームの調子は上向き、勝ち始めたことで余計に気持ちが沈んだ。
痛恨だったのは、完敗した8月6日の名古屋グランパス戦。自陣でのパスミスから失点を喫し、試合の流れを相手に引き渡してしまった。
「経験のなさが出てしまい、シンプルに実力不足を痛感しました」
それでも、すぐに前を向いて練習に打ち込んできた。チームにとっても、宮本にとっても、9月は勝負の時期。困難な状況に陥っても献身的に走り続けるつもりだ。
「いろんな人に支えられて、ここまできました。天狗にならず、もっともっと成長していきます」
天真爛漫な22歳は目を輝かせ、さらなる飛躍を誓っていた。
(取材・文/杉園昌之)
外部リンク