右サイドを疾走する14番が、2年半ぶりにピッチに帰ってくる――。
2002年シーズンの加入後、浦和レッズひと筋で17年間プレーし、18年シーズン限りで現役を退いた平川忠亮コーチの引退試合が、7月22日に開催されることが決まった。
題して、「三菱重工カップ 平川忠亮引退試合」。
レッズはこれまで13個のタイトルを獲得してきたが、そのすべてに関わってきたのは、平川コーチただひとり。そして今回、14個目のタイトルを懸けて三菱重工カップに挑むというわけだ。
対戦カードは、URAWA ☆☆☆ LEGENDS vs 浦和レッズ。
ウラワスリースターレジェンズは、レッズのユニフォームの胸に燦然と輝く3つの星――06年J1リーグ優勝、07年ACL優勝、17年ACL優勝時の主力メンバーで構成されるチーム。このチーム編成について、平川コーチはこんな思いを抱いている。
「この3つのタイトルはクラブにとって大きな意味を持ち、自分にとっても思い入れのあるものです。もちろん、一緒にプレーした人たちみんなに参加してほしいんですけど、それは現実的に難しい。どうしようかと考えたとき、現在のチームや未来のレッズに対して影響のあることをしたいなって。
ビッグタイトルを獲ったときのメンバーと対戦することで、今所属している選手たちに何か伝わるものがあるんじゃないか。そう思って、彼らに来てもらうことにしたんです」
実は、平川コーチの引退試合の構想は、引退直後から練られていた。
だが、19年シーズンはチームがACL決勝まで勝ち進んだために時間がなく、昨年はコロナ禍によって過密日程を余儀なくされたため、開催する余裕がなかった。
こうして今年、ようやく開催が決まったものの、コロナ禍が明けたわけではない。
「依然としてコロナ禍のなか、引退試合を開催していいものか、僕自身も悩みましたし、スタッフも議論を重ねてくれました。ただ、こうした辛く、苦しい状況だからこそ、協力し合ってアクションを起こすべきなんじゃないかという結論に達したんです。
僕自身、現役時代はタイトルを獲った華やかなシーズンばかりでなく、11年のように残留争いを経験したシーズンもある。でも、そうした困難な時期を乗り越えた先に、17年のACL優勝のようにいい未来が待っている。
浦和レッズ自体、99年にJ2に降格し、そこから這い上がって数々のタイトルを獲ってきた。だから、コロナ禍も手を取り合って一緒に乗り越えていきましょう、という思いをこめて、このタイミングで開催させていただくことにしたんです」
これまでにレッズは引退試合を3度、開催してきた。福田正博さん、山田暢久さん、鈴木啓太さんである。平川コーチはいずれの引退試合にも出場する機会に恵まれた。
「フクさんのときは、スケールが違いすぎましたね。引退試合で埼スタが満員ですからね。フクさんとは1年しか一緒にプレーしていませんが、いろんなものを見て学び、またアドバイスもたくさんもらいました。引退試合だとしても、フクさんから何か盗めるものはないだろうか、と思いながら、フクさんの最後のピッチに立ったのを覚えています。
ヤマさんと啓太は、長い間一緒にプレーした仲間ですよね。レッズを代表する選手たちだったから、あんな素敵な引退試合の場を用意してもらって、羨ましい気持ちもありました。その時点では、自分も引退試合ができるなんて、まったく思っていなかったので。だから今回、本当に感謝しています」
18年の現役引退後、すぐに指導者として歩み始め、レッズユースコーチを経て、トップチームのコーチとして日々、指導に当たっている。大原サッカー場に立つフォルムは非常にシャープで、現役時代そのもの。引退試合でのプレーも期待できそうだが……。
「いや、体重こそキープしているものの、筋力は落ちているし、かなり厳しい状態です(苦笑)。39歳だった現役ラストシーズンも半分以上、ケガでプレーできませんでしたし、今もスパイクを履いてピッチに立ってはいますけど、走り回っているわけではないですから。
どんどん動けなくなって来ているので、引退試合を開いていただけるなら、少しでも動けるうちに、なるべく早く、と思っていました(笑)」
もっとも、だからといって、ただ老いに身を任せているわけではない。GK陣に混じって浜野塾に加わり、体をいじめているのだ。
「ひとりでトレーニングしても続かないので、浜さん(浜野正哉GKコーチ)が一緒に走ってくれたり、スタッフが一緒にボール回しをしてくれています。90分プレーできるように、ここから仕上げていきたいと思っていますが、やりすぎてケガだけはしないようにしないと」
今回の引退試合の特徴は、映像配信が予定されている点だ。これは、コロナ禍のために入場制限があり、もしかするとリモートマッチになる可能性を考慮してのこと。
とはいえ、ただ試合だけを配信しても面白くない。
「だから、試合の1、2週間前から毎日、いろんな企画を動画で配信していこうと思っています。例えば、本来はウラワスリースターレジェンズの一員だけど、コロナ禍で渡航が難しく、参加できない人もいる。そんな人に動画に登場してもらえたらいいなと」
もしかすると、今、みなさんが頭に思い浮かべたレジェンドたちが動画で見られるかもしれない。
では、最後に改めて平川コーチから引退試合に向けたメッセージを。
「まずは引退試合の場を設けてくれたクラブ、実現に向けて尽力してくれているスタッフに感謝します。コロナ禍で苦しく辛い時期が続いていますが、この試合を通して、浦和レッズのファン・サポーターのみなさん、ステークホルダーのみなさん、サッカーの街・浦和のみなさん、日本中にいるサッカーファンのみなさんに、笑顔や元気を届けられるようなプレーや時間をお届けしたいと思います。楽しみにしていてください!」
(取材/文・飯尾篤史)
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