悩める27歳は思考を巡らせ、光明を見いだしつつある。
9月からマチェイ スコルジャ新体制となり、2試合連続で途中出場。シチュエーションによって仕事は変わるが、求められている役割は理解している。
0-2で敗れた9月21日のFC東京戦から一夜明け、小泉佳穂は落ち着いた表情で淡々と振り返った。
「点を取れる場面で決めないといけなかったですが、ゴール前に入り込めて、3本のシュートを打てたことはひとつの収穫。練習では前でプレーする機会が少ないなか、思いのほか良い関わり方ができました」
自身の得点能力が不足しているのは、誰よりも一番よく分かっている。だからこそ、試合では意識して好機に数多く顔を出し、シュートを打つ回数を増やすことを心がけた。以前はゲームをつくることに重きを置いていたが、いまは立場が違う。
「ビハインドの展開で途中出場したときに、自分に何ができるのかを示さないといけない。ゴール前でいかに違った自分を見せられるか。そうしないと、出場機会は限られてきます。やっぱり、チームを勝たせたいので。そのためには、得点力も必要。選手の価値を高める上でも結果を出すのは大事だと思っています」
局面の細部にも目を向けている。FC東京戦では後半アディショナルタイムに相手DFの目線が切れているのを確認し、ペナルティーエリア内でフリーになることができた。ただ、ゴールを奪うまでには、何かが足りなかった。試合の翌日、J1リーグ通算168ゴールという実績を残す38歳の先輩に助言を仰いだ。
「(興梠)慎三さんはパスをもらう前にゴールとGKの位置まで確認していると話していました。ボールが入ったあとに見る余裕なんてほとんどないですからね。僕はあのとき、相手DFの視線ばかり気にしていたので……。もしも、ひとつ先の場面の視野まで確保できていれば、もっと楽にシュートを打てたと思います」
J1リーグで18年連続してゴールを挙げている点取り屋の言葉は、腹にすとんと落ちる。間近で見て学ぶことも多い。「練習でのプレーをそのまま試合でも出せるメンタリティーもすごい」としみじみ話す。スコアの状況、スタジアムの雰囲気に飲まれることなく、ひょうひょうと点を取り続けるのは並大抵ではないという。
むろん、FWとMFでは点の取り方、アプローチは異なる。いま参考にするプレーモデルは、元ドイツ代表MFのイルカイ ギュンドアン。2シーズン前にマンチェスター・シティ(イングランド)でゴールを重ねていたプレーは理想に近い。
「スピードではなく、技術とタイミングで点を取っていましたから。シュートを打てる位置にすっと入り、簡単にゴールを奪うイメージ。意図的にスペースを空けておいて、タイミングよく入っていますよね。遅すぎても、早すぎてもダメ。走り込む場所も的確です。ゴール、相手DFの位置を認知することが重要かなと」
毎日のように試行錯誤は続く。結果はあとからついてくると信じ、目の前のことに集中してきた。ずっと無我夢中に走り続け、気づけばレッズ在籍は4年目である。
今季は最も厳しいシーズンとなっている。チームは思うように勝てず、レギュラー争いでも悪戦苦闘。J1リーグは15試合に出場し、先発メンバーに名を連ねたのは6試合のみ。8月31日のFC町田ゼルビア戦でJ1リーグ通算100試合に出場を達成したが、よろこびもつかの間だった。区切りの数字を思い返しながら遠くを見る。
「僕が出場した100試合のうち、どれくらい勝てたのかなって。個人的にはそっちのほうが大事だと思っています。勝利に貢献してこそですから」
浦和レッズのエンブレムを背負う責任も年を重ねるごとに身に染みて感じている。腹を決めてユニフォームに袖を通したが、あらためて思う。
「浦和レッズというクラブでプレーする以上、自分の存在価値をピッチで示さないといけない。もともと覚悟はありましたが、日本で一番そういうことを求められるので」
大卒プロ6年目。サッカーを生業とする意味を考えることも多くなった。勝負の世界で生きていると、心が休まる日はほとんどない。大きな舞台でプレーするプロサッカー選手でしか得られないものがある一方、プレッシャーも大きい。
「AFCチャンピオンズリーグで優勝したときは、ほっとした気持ちのほうが強かった。何が何でも勝たないといけなかったので。勝つ喜びは、一瞬なんです。サッカー選手はうれしさよりも、負けて悔しい気持ち、無力感のほうが残るのかなって。
僕はいつもその感情と戦っていますし、そこをどう乗り越えていくかを考えています。次から次に練習も試合もやってきますので。割り切ることも必要だし、メンタルが強くないと」
今年9月、10年ぶりにレッズに復帰したドイツ帰りの原口元気からは大きな刺激を受けている。戦術、技術、フィジカル、そのすべてを凌駕するほどのエネルギーを持っているという。球際の争いでは執念をにじませ、勝負にも徹底してこだわる。あふれる闘志は、仲間にも伝播していく。
「元気君を見ていると、一番大事なのは強いメンタリティーなんだな、とつくづく思います。自分の限界を超えていくには、そこが必要だなって。1試合にかける思い、ワンプレーにかける覚悟みたいなもの。何においても重要だと思います」
ようやく秋の気配が漂い始めたシーズンの終盤戦。憧れのゲームメーカーがつけた番号を背負い、いままで以上に魂を込めてピッチに立つことを誓う。
昨年12月、万雷の拍手に包まれた札幌ドームをふと思い出す。北の大地でスパイクを脱いだOBの小野伸二に掛けられた言葉は、いまもはっきりと覚えている。
「お前はもっとできるし、もっとやらないといけない。その人のプレーを見るためにわざわざスタジアムに足を運びたくなるような価値あるプレーヤーになってほしい」
レッズの8番はまだ板についていないという。J2のFC琉球時代にともに時間を過ごし、感化されたレジェンドの期待を裏切るわけにはいかない。最後まで勝利を追い求め、スタジアムを熱く沸かせるつもりだ。
(取材・文/杉園昌之)