11月中旬に差し掛かり、一気に秋が深まってくると、ふと思い出す。
いまからちょうど6年前のこの時期。流通経済大付属柏高校サッカー部に所属していた宮本優太は、普段はおこなわないPKの練習に力を入れていた。
「高校選手権予選の時期になると、必ずやっていましたね」
今も昔も千葉県代表の「1枠」をめぐる争いはし烈を極める。
県内には市立船橋高校、習志野高校、八千代高校と全国でも実績を残す名門校がひしめく。
周知の通り、大会方式は負ければ、その場で終わるトーナメント。PK戦にもつれ込むことも少なくない。当時の流経大柏は、念には念を入れてPKの準備もしていた。
「僕らの練習場は人工芝でしたが、試合会場のピッチは天然芝。人工芝に比べると、天然芝のほうが滑りやすいんです。その対策として、ペナルティーエリアに10m四方の人工芝をもう一枚重ね、あえて滑りやすいピッチ状態にして、PK練習をしていました」
本田裕一郎監督(当時)のもと、軸足が滑らないように意識しながらコースを狙うことを徹底。PKの順番も事前に決めていた。
備えあれば憂いなし。2017年11月19日、柏の葉公園総合競技場。準決勝の日本体育大学柏高校戦は、0-0のまま延長でも決着がつかずにPK戦へ。
「僕らは焦っていなかったです。下馬評では流経大柏が圧倒的有利だったので、スタジアムには『日体大柏が勝つかも』という空気が流れていたと思います。でも、僕らは絶対に勝てる自信がありました。心構えもできていましたから」
キャプテンの宮本は1人目のキッカーを務め、蹴る前にゆっくりと間を取り、冷静に左隅に蹴り込んだ。2人目以降も流経大柏は全員が成功させ、勝利をつかんだ。
決勝の相手は宿敵の市立船橋。3年連続同カードの頂上決戦となった。1年時はピッチの外から眺め、2年時は行く手を阻まれたライバルの強さをピッチで実感した。
そして迎えた3年時、宮本は平常心を保つことを意識し、試合に臨んだだ。
1点リードで折り返したハーフタイム。コーチから後半の指示を受けたものの、宮本は自分なりの考えを持っていた。
「チームメイトの菊地泰智(現サガン鳥栖)と話して、僕らなりに考えた戦い方も必要だと感じていました」
すると、後半も立ち上がりからペースを握り、試合を優位に進めた。
そして、78分には待望の追加点。終了間際に1点を返されたが、2-1で逃げ切り、3年ぶりに全国高校選手権の切符をつかんだ。
「終わった瞬間のことはよく覚えています。ほっとして、顔がぐしゃぐしゃになるくらいまで泣きました。1年前に悔しい思いをして、菊地と『1年後にまた帰ってこよう』と話していたんです。県大会の優勝は、これまでとはまったく違う感情が込み上げてきました」
自身初となる全国高校選手権は準優勝。いま思い返しても、「悔いなく戦えた」と胸を張る。地上波で放送される全国大会でスポットライトを浴びるなか、ずっと心に留めていたことがある。
「予選から試合に出られず、スタンドでずっと応援してくれる多くの部員がいました。特に3年生は大会が早く終われば、引退して自由な時間を過ごせます。それでも、ピッチでプレーする僕らを後押ししてくれました。
僕は彼らへの感謝の気持ちは忘れなかったです。いまの高校生たちにも伝えたい。応援されるのは当たり前ではない。仲間への感謝の気持ちを持ってプレーしてほしいと思います」
今年度、母校は千葉県大会の準決勝で日体大柏に敗れ、高校選手権の出場権を逃したものの、これからも見守っていくという。
「もがき苦しんでいいので強くなってもらいたい」
宮本自身も出場機会に恵まれず苦しい時期を過ごしているが、明るく前を向き、努力を怠ることはない。
(取材・文/杉園昌之)
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