大胆なレーザービームは、いまや浦和レッズの武器になっている。AFCチャンピオンズリーグ決勝の第1戦、青く染まった敵地サウジアラビアのスタジアムでも岩波拓也は、ひるむことはなかった。1点を追う63分、敵陣に入ったところから興梠慎三の足元へ一直線。ボールはアルヒラルの守備網を一瞬ですり抜けた。パスはわずかに合わずシュートチャンスにはつながらなかったが、得点の匂いを感じさせた。
「少しだけ球が浮いてしまったのでシンゾウ(興梠慎三)さんもトラップできなかったですが、あれが足元に収まっていれば、1点だったと思います。僕のなかでは、理想的な縦パスでした」
インターセプトされれば、カウンターを浴びる危険性はあったが、キック一発で中央を切り裂いた。
「0-0であれば、出していなかったかもしれません。負けている状況だったので、あの一本しかなかった。守りつつも、どこかで難しいパスを出さないと、相手を崩せないと思っていました」
失意に暮れて、中東から帰ってきたわけではない。相手に押し込まれて苦しい時間帯が続いていたものの、第2戦に向けて活路を見出していた。
「次のホームでは、相手の重心は下がると思います。相手は守りきれば優勝ですからね。ボールウォッチャーになりやすいのも分かりました。次も狙える場面では狙っていきたい」
0-1のスコアも悲観していない。むしろ、最低限の失点で耐え、ホーム決戦に臨めることに自信をのぞかせていた。
「埼スタで戦えることは、かなりのアドバンテージ。チームメイトもみんなそう感じています。点を取りにいくしかない状況になれば、今季の浦和は強いです」
岩波はヴィッセル神戸から完全移籍で浦和に加入して2年目。ACLは自身初となる挑戦。決勝まで勝ち上がり、浦和の強さをあらためて知った。グループステージの北京国安(中国)戦では、自らもピッチに立って戦いながらも衝撃を受けた。アウェイで手も足も出せずに0-0で引き分けた相手に、ホームでは3-0と完勝したのだ。
「アウェイではシュートを1本も打てずにドローですよ。僕もクリアするのが精一杯でした。それなのに、17年のACL優勝メンバーの選手たちは、ホームでは違う展開になるから、と自信を持っていたんです。あのときは内心、『あの相手にどうやってホームで勝つねん?』と思っていました」
ふたを開けると、チームは変貌していた。ファン・サポーターの力強い後押しを受け、猛烈なプレスをかけて、相手に何もさせなかった。これが埼スタの力である。
「本当にびっくりしました。あのような結果が出るから、"俺たちはホームでは違う"と言えるのでしょうね。あのときから、僕もそう思うようになりました。埼スタには見えない力があります」
ACLのタフな戦いを経験することで、岩波は心身ともにたくましくなってきた。準々決勝の上海上港(中国)戦では元ブラジル代表のオスカル、フッキら互角に渡り合い、準決勝の広州恒大(中国)戦でもセレソンの一員だったパウリーニョらを封じ込めた。
「個人として、ある程度やれる自信がつきました。どれだけビッグネームがいても、もうビビることはないです」
Jリーグのクラブを代表して戦っている意地とプライドもある。アジアの選手たちと体のぶつかり合いで負けるつもりはなかった。気合で踏ん張り、戦ってきた自負がある。
「日本人として、なめられたくないので。簡単に転がるわけにはいかない」
クレバーな守備が売りだったセンターバックに荒々しさも出てきた。タックルでは気持ちが前面に出る。Jリーグで唯一ACLを2度制覇しているクラブの看板の重みをひしひしと感じている。「浦和はアジアで勝たないといけないクラブ」と言葉に力を込める。
「浦和のユニフォームを着て戦うことに対し、より責任感が増したと思います。シュートブロックひとつでも簡単に背中を向けることはできない。体のどこかに当ててやろうと思っています」
ACLならでは埼スタの熱狂も人間として成長を促したようだ。負けたときの反動の大きさも知っている。
「ホームで負けたときの、ファン・サポーターの絶望感は、僕らも分かっているつもりです。大勢の人が足を運んで、熱い応援をしてくれているのに、あんな思いをさせてはいけない」
浦和を本当の意味で理解し、赤いシャツに袖を通して戦う男の表情には、覚悟がにじんでいた。ACL決勝の第2戦は11月24日。早くも胸を高鳴らせる。
「ホームでやり返す自信はあります」
逆転宣言。リップサービスでもなければ、勢い任せの言葉でもない。確固たる決意だった。
(取材/文・杉園昌之)
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