踏み出した歩幅は小さくとも、クラブにとって、ファン・サポーターにとって、大きな一歩だった。
5月29日、非公開が日常になりつつあった大原サッカー場に、選手やスタッフ以外の姿があった。
REX CLUBの会員を対象にトレーニングの見学者を募集し、抽選により当選した97人のファン・サポーターが練習を見守った。
昨シーズンも幾度かファン・サポーターに練習見学の機会が設けられたが、今シーズンに入ってからは初の試み。REX CLUBの担当である丸山大輔さんが、その光景を思い出しながら語る。
「選手がクラブハウスから出てきた瞬間から、ファン・サポーターの方々が拍手で迎えてくれたのは、うれしかったですね。ピッチにいる選手たちを見守ってくれているような、そんな温かな雰囲気をファン・サポーターの方々が作り上げてくれました。
選手たちの息づかいを身近で感じてもらうことで、ファン・サポーターの方々は、選手との距離を近くに感じられたでしょうし、選手たちも、目には見えないけど、自然と背中を押されているようなパワーを感じられているな、という印象を受けました」
トレーニングスケジュールの都合もあり、告知から当日までは、わずか1週間程度だったが、驚いたのは応募人数である。6月19日にも2回目のトレーニング見学会が実施されたが、ともに約3700人もの応募があった。
丸山さんが感謝の言葉を口にする。
「急な告知だったにもかかわらず、多くのみなさまに応募していただきました。人数限定でしたが、公開練習を実施してよかったと改めて実感しました。今はまだ以前のように、選手と会話をしたり、サインをもらったりという、触れ合う状況までには戻れていませんが、試合とはまた違った選手の日常を見たいと思っている方々が、こんなにもたくさんいらっしゃるんだなと」
REX CLUBについては、浦和レッズニュースの読者ならば、いまさら説明する必要はないだろう。
簡潔に言えば、浦和レッズとファン・サポーターをつなぐメンバーシップである。丸山さんも「埼玉スタジアムに来場されているファン・サポーターは、ビジター以外のほとんどの方がREX CLUBのメンバーだと思っています」と自負するほどだ。
「浦和レッズのメンバーシップのベースは、このREX CLUBが担っています。会員のさまざまなデータを活用してマーケティングを進めることもREX CLUBの役割のひとつですが、やはり会員の方、つまり多くのファン・サポーターとのつながりを広め、絆を深めていくことがREX CLUBの重要な役割です。
今回の練習公開も、その絆づくりの一環でした。コロナ禍のために全員に開放できず、抽選にせざるを得ないと考えたとき、REX CLUBから申し込んでいただき、抽選するのが一番適切だと考えました」
そこにはクラブとファン・サポーターの架け橋となるREX CLUBの存在意義がある。
「コロナ禍になり、浦和レッズそのものがいろいろな形で分断されてしまったように感じられて、非常に心苦しい思いでした。それはクラブとファン・サポーター、クラブと街も、です。浦和レッズというクラブは、そうしたつながりがあるからこそ大きなパワーを発揮できていた。ファン・サポーター、ホームタウン、そしてクラブとの一体感があってこその浦和レッズであり、それが浦和レッズのすばらしさです。
REX CLUBはクラブとファン・サポーターの絆を深めるツールです。新型コロナウイルスの感染状況も落ち着いてきている現在、REX CLUBがクラブとファン・サポーターの日常を取り戻すうえで重要な役割を担っていると考えています。そして、練習公開もそのひとつでした」
練習公開はまさに日常への一歩だった。丸山さんが続ける。
「1週間のうち試合が1日、オフが1日と考えると、選手は大原サッカー場で週5日を過ごしています。その練習という日常を公開することで、街とファン・サポーターが試合日ではない浦和レッズの日常を取り戻していければと。
何より、ファン・サポーターの方々が練習場に来てくれることで、クラブにとっても、浦和という街に存在している意義を改めて感じられる。それは、試合とはまた違った日常の中でのクラブの存在価値だと思うのです。練習を公開することは、お互いの存在を身近に感じ合い、絆を深め、高め合える空間になるのではないかと」
丸山さんが「お互いに高め合える」と表現したのには意味があった。
公開練習は、ファン・サポーターが選手の日常を見られる機会であるだけでなく、選手にとってもファン・サポーターに見られることで意識や刺激を得る機会になるからだった。
「練習公開後、チームスタッフから、『いつも以上に練習の強度が高く感じられた』というコメントを聞きました。選手たちがファン・サポーターの視線を感じることで、自然とプレー強度が高まって、練習の質が上がっていく。これもまた浦和レッズの強みのひとつなんだと再認識しました」
そう言った丸山さんは「選手から聞いたわけではないですけどね」と謙遜したが、大久保智明に聞くと、同じ感覚を得ていた。
「公開練習のあと、選手同士でもその話になりました。『ファン・サポーターが見に来てくれるだけで、雰囲気が変わるよね』と。見られているからこそ、練習の質もさらに高まりますし、何よりみんながポジティブな姿勢で練習に取り組んでいるように感じました。真剣な中にも有意義で楽しい感覚を得られる。僕ら選手にとっても幸せな時間でした」
昨季のホーム最終戦を終えて、引退セレモニーを行った阿部勇樹が言っていた。
「今年入ってきた選手は、まだ本当の浦和レッズの姿を見ていないと思っています」
そこには練習を見てもらう日常も含まれているのではないだろうか。
徐々にかつての日々が戻ってきている今、REX CLUBとしても改めてファン・サポーターとの「絆」を深めようとしている。
7月のホームゲームは「REXサンクスデー!」と銘打って、6日の京都サンガF.C.戦(明治安田生命J1リーグ第20節)に続き、10日のFC東京戦(第21節)、30日の川崎フロンターレ戦(第23節)で、ポイント交換引換をした方にレディアアクリルスタンドをプレゼントしている。
丸山さんは言う。
「入場制限がない状態で試合を開催できるようになって、サッカー観戦という日常をより身近に感じてもらうとともに、REX CLUBの施策でも楽しんでもらえたら、と思っています。小さな施策ではありますが、小さいことを積み重ねていくことでスタジアムでの観戦をより楽しく感じてもらう一助になればと思っていますし、
レッズとつながっていることが、ファン・サポーター、ホームタウンのみなさんの誇りや、心の支えになっていけるように、これからも絆を大切に育てていきたいと思います」
「REX」の意味を聞けば、「REDS EXPERIENCE」に由来しているという。直訳すれば「浦和レッズを体験する」となるだろうか。まさに、スタジアムで観戦してもらうことも、練習を見学してもらうことも、浦和レッズを体験することになる。
REXとつながることで、あなたの“REDS LIFE”がもっと楽しくなるはずだ。
(取材・文/原田大輔)