TURNING POINT vol.5 柴戸 海(MF/29)
今も震え、気持ちを昂ぶらせる大声援
「We are REDS! We are REDS!」
「あれだけの人の前でプレーするのは初めてだったので。声援を聞くと、こんなにも後押しされるのかと。浦和レッズのエンブレムをつけて、ユニフォームを着て、戦うことの重みを感じましたよね。今もあの声援を聞くと、鳥肌が立つんです」
「あの声援を背中に受けると、それだけでめちゃめちゃやる気が漲ってくるというか。同時に期待に応えなければって思う。やってやろうという気持ちは、今までサッカーをやってきた中でも一番、強くなりますよね」
自問自答したプロ1年目の昨シーズン
「やっと、という気持ちのほうが強かったですね。リーグ戦ではなく、カップ戦だったということもあったのかもしれないですけど、試合に起用してもらえるというのは、やっぱり、うれしかった。でも、緊張していたこともあって、思うように身体も動かなかったし、ミスも多かったですね」
「でも、試合に出なければ、気づけなかったこともたくさんあったんです。少なからずできたこともあったとは思いますけど、できないことのほうが圧倒的に多かった。自分の頭の中では届くと思っているようなボールでも、反応が遅れてしまったり、ついていけなかったり。今思えば、頭の回転が遅かったのかなと。それ以上に、スピードだったりアジリティ、ボディコンタクトといったところでも、瞬間的な力が足りないことを強く感じました」
「個人的にはキャンプのときから調子は良かったんですけど、プロの世界に入り、日々の練習の強度も上がっている中で、たぶん、自分の身体に対する向き合い方が甘かったんだと思います」
「開幕前にケガをして、復帰するのが長引いてしまって、大槻さんが暫定で指揮を執った試合に起用してもらえたんですけど、その後、またケガをしてしまって。高校でも、大学でも、全くケガをしたことはなかったし、プロになって初めてのことだったので、精神的にも落ち込んで、ずたぼろで……。去年は本当に、いつも自分と対話していた感じです」
「このまま、自分は終わってしまうのではないか……」
「J1のトップレベルで、自分は通用しないのではないか……」
「この身体のままでは、絶対にまたケガを繰り返してしまう」
「一歩遅れたり、二歩遅れて、相手にぶつかることもできないのは、自分に瞬間的なスピードが足りないからかもしれない」
=思い出した歩みと支えてくれた家族=
「僕、中高大といつも1年目って苦しんでいたんですよね。町田JFCでは、10種類くらいのリフティングを終えないと、全体練習に入れないんですけど、そのメニューが全然、できなくて。泣きながら両親にやめたいって言ったこともありました。当時、和太鼓もやっていて、そっちに熱が入っていたこともあって、サッカーをやめて和太鼓をやりたいって言ってました(苦笑)」
「高校のときは、初めての寮生活でホームシックになって。先輩との上下関係も厳しかったし、勉強との両立も大変で。おまけに1年生だけのチームでも試合にも出られなくて、周りのレベルについていけなかったんです。朝練、授業、練習、雑用を終えて、寮に帰るのも遅いのに、翌日も早くて。辛くて、ひとりで泣きましたよね。明治大学でも1年のときはAチームに上がれず、ああ、このままプロになれずに腐っていくんだろうなって思いました」
「家族ですかね。ずっと応援してくれていましたし、どんなときも支えてもらいましたから。それもあって、いつも中途半端なところでサッカーをやめたらダメだなって思えたんです。悔いなくやり切ることが、恩返しになるなって。家族は、レッズに加入することになったときも、めちゃめちゃ喜んでくれたんです。特に父親は、いつも試合を見に来てくれますからね」
「それに、レッズには吸収すること、盗めることがいっぱいあって、得るものが素晴らしい人がたくさんいるなって思ったんです。だから、レッズの練習に初めて参加してからは、レッズのことしか考えていなかったし、ここでレギュラーをつかむことが、日本代表にも一番、近いのかなって思った。結局は自分で自分を奮い立たせたんですけど、加入するときに、死ぬ気でというか、本気でやろうと思っていたことを思い出したんです」
疲れたときにもう一度、行く
「あとは、練習中の意識も変えました。疲れたときにこそ、もう一度、行くというか。疲れているときに、相手を追ったり、ボールを奪いに行こうとする選手を見ると、自分も奮い立つように、自分もそうなろうと思って。自分は声を出せるタイプでもないし、テクニックに長けている選手でもな。だから、背中で見せるというか、そこは大事にしていますね」
「阿部さんに聞きに行くのは、緊張しましたけど、練習でボランチを組んで、たまたまプレーについて話したタイミングで、ここしかないと思って聞きました。どういうポジショニングを取っているのかとか、守備のときにはどういうイメージを持ちながらプレーしているのかとか。ずっと聞きたかったので、ここしかないと思って」
「今までは、局面、局面でしか見られていなかったんですけど、ふたつ先、3つ先のことを見られるようになってからは、飛躍的に変わったように思います。局面しか見ていないから、どうしても判断やプレーが遅れてしまうところもあったのかなと」
「僕は、まずは守備から考えるところがあるんですけど、今は、例えばですけど、わざとスペースを空けておいて、相手がファーストタッチした瞬間に思いっ切り寄せたり。背後の情報を持ちながら、動きに緩急をつけてボールを奪ったり。自分でボールを奪わなくても、周りと狙いを共有して奪ったりもできる。そういうイメージを持てるようになってからは、自分でもボールを奪えるようになりました」
二桁得点できるボランチになりたい
ちょっと先の未来を予測できるようになった柴戸が、思い描くボランチ像とは——。
「二桁得点できるボランチですね」
「守備はもう大前提なんです。それはできたうえで、ペナルティーエリアの中に入っていけることが理想です。それも、みんなが疲れているときにできたら、相手も嫌がるだろうし、チャンスも広がると思う。そこに到達するのは一歩どろこじゃなくて、あと10歩くらいあるとは思いますけど」
「あの時期があったから、今の自分があると思っています。大卒なので、本当は1年目から活躍することが理想だと思いますし、ケガはしないほうがいいですけど、自分と向き合った時間は大きな財産になりました。だから、今は、自分がチームを勝たせるくらいの思いでプレーしたい」
(文・原田大輔/写真・近藤 篤)