大原サッカー場で初めて顔を合わせたときは、緊張してあいさつしかかわさせなかった。
サガン鳥栖のアカデミー時代から動画で何度も繰り返し見てきた選手である。SKNザンクト・ペルテン(オーストリア2部)より完全移籍で浦和レッズに加入した二田理央は、顔を綻ばせながら話してくれた。
「高校時代から興梠慎三さんのプレー集をずっと見ていたんです。画面の中の人と一緒にプレーできるのはうれしいです」
中学校時代から好きなFWのひとりだったが、より意識して見るようになったのは鳥栖U-18の頃。コーチからFWのお手本として、興梠のハイライト映像を特別につくってもらったという。
見れば見るほど参考にするところは多かった。ボールをもらう前の動き出し、フィニッシュに持っていくプレーなど、どれも当時の二田が必要としていたものだった。ふと思い返すと、思わず饒舌になる。
「最終ラインの裏に抜ける動きは、本当に勉強になりました。僕自身、背後のスペースを消されたときのプレーが課題だったんです。マックスでスプリントできない場面で、いかに相手と駆け引きするのか。ポジショニングは特に学ばせてもらいました。昔、映像をもらったコーチに報告したんです。興梠さんと一緒にプレーできるようになりましたって」
ロールモデルとなった憧れのストライカーは、いまも現役。J1リーグ歴代2位となる通算168ゴールをマークしており、目に見えないオーラがあるという。21歳の新加入選手にとっては、まだ近寄りがたい存在のようだ。
「さすがに初日からはガツガツいけなかったです。でも、これから徐々にいろいろなことを教えてもらいたいと思っています。自分から話しかけて、練習中から盗めるところは盗みたい」
オーストリアではサイドでプレーすることが多く、ゴール前の駆け引きを生かす場面は少なかったが、新たな武器も手にした。持ち前のスピードを生かし、1対1を仕掛けてチャンスメーク。さらにはカットインからシュートに持ち込み、ゴールも奪った。
「経験は積めました。スピードに乗れば、自分の形にもっていけます」
ただ、FWへのこだわりは隠そうとはしない。
「僕はゴールを決めるのが一番のよろこび。結果としても残りますから。チームのために走って、点を取り、レッズの目標であるリーグ優勝に貢献したいです」
どん欲にゴールを狙う目は、ギラギラしていた。J1リーグ後半戦の起爆剤になるかもしれない。
(取材・文/杉園昌之)