俊足も生かし方次第である。ただ全力疾走するだけでは、無用の長物になりかねない。松尾佑介は、持ち味のスピードを生かすために日々考えを巡らせている。
10月30日の横浜F・マリノス戦では何度もスペースに走り、ボールを引き出していた。ある日の練習終わりに効果的なフリーランについて聞くと、丁寧に応えてくれた。
「まず相手を間接視野に入れること。自分が快適に走れるようにしています。走る前段階の準備が大事。どこにスペースがあり、どこに人がいるのか。どれくらいマークは離れているのかを試合中に確認しておかないといけない」
一にも二にも観察。経験を積んで研ぎ澄まされた感覚もあるが、それだけではない。オフ・ザ・ボールの動きは奥が深い。国を問わず海外サッカーに目を向けて、研究を欠かしていない。
有名、無名に関わらず、松尾の背丈、プレースタイルに似ている選手を探し出し、徹底的に分析する。情報収集は自分ひとりだけではなく、知人にも協力してもらっている。
「いま伸ばしたいポイント、それを武器にしている選手をよく見ています。レッズと同じような戦術を採用しているチームのプレーヤーもそうですね。
選手の名前はあまり覚えていませんが、トルコ人選手を見ることもあれば、スペイン人選手を見ることもあります。特に南米系の選手たちは、ボールをもらう前の動きがうまい。抜け出す前に工夫しているんですよ。味方は合わせやすいけど、敵には読まれにくい」
動画を見て自分の中に取り入れ、イメージを膨らませる。実際、ピッチでそのとおりに体が動くかどうかを確かめる。思うように動かないときは、その都度、改善していく。
イメージを持っていなければ、実戦でも体が動かないという。動き出しのバリエーションは多彩である。複数のイメージを持つようにしているが、引き出しを増やしすぎないのもポイント。
「取捨選択はしています。選択肢が多すぎても、判断に迷いが生じてしまうので。ただ、少なすぎても相手も読まれてしまいますからね。なるべくシンプルに選べるように頭の中を整理することが大事。パターンは多すぎず、少なすぎずかなと」
情報は日々、アップデートしている。新たな動画を見つけて、また研究。その繰り返しの作業に終わりはない。11月10日のサンフレッチェ広島戦では1ゴール・1アシスト。J1残留を決める決定的な仕事を果たしたが、まだまだ賢く走り続ける。
(取材・文/杉園昌之)