敵地に乗り込んで不慣れな環境のなかで戦い、大勢のファン・サポーターの後押しを受けて相手チームを迎え撃つ――。このホーム&アウェイ決戦こそAFCチャンピオンズリーグ、ACLの醍醐味だろう。
そのアウェイの地に、チームに先駆けて乗り込む“前乗り隊”がいる。
かつて浦和レッズの一員として2007年のACL初制覇にも貢献した強化部の堀之内聖と、競技運営部の小尾優也だ。
「僕と小尾、そしてパートナーである西鉄旅行の担当者の3人でアウェイゲームの1か月ほど前に現地を訪ね、いくつかの確認をしたり、相手チームと打ち合わせをしたりするんです」と堀之内は言う。
ACLのレギュレーションには、練習場を紹介する、移動用のバスとトラック、乗用車を手配する、というものがある。その練習場がホテルから何分掛かるのか、ピッチ状態はどうなのか、照明やシャワーがあるのかどうかを確認したりするわけだ。
「自分の目で見ないと、芝生の状態や練習場の環境が分からないですからね。スタジアムの設備なども確認しておきます。車両に関しても、何人乗りのバスを用意してほしいとか、何トントラックをお願いしたい、とか、こちらの要望を伝えます。また、高速道路にも高速レーンというものがあって、国によってはバスしか高速レーンは通れない、という法律があったりする。そういったことも確認するんです」
アウェイゲームが近づいてくると、チームより2日前、少なくとも1日前には現地入りするという。要望したものがすべて揃っているのか確認するためだ。
ここまで念入りな準備を重ねても、そこはアウェーの地、何が起こるか分からない。
過去にはチームが宿泊予定だったホテルの予約が勝手にキャンセルされていたこともあったという。堀之内が苦笑する。
「それはさすがに昔の話ですが、今年のACLでも問題は起きました。練習場まで車で30分のはずなのに、運転手が道を知らないという信じられない理由で1時間くらい掛かったり、別のチームが練習場を使っているという、これまた信じられない理由で練習時間を当日に変更させられたり。もちろん、我々のチーム事情で練習時間を変更することもある。その場合の交渉、手配も僕の役目です」
チーム関連の交渉をするのが堀之内なら、サポーター関連の交渉をするのが小尾の役目となる。スタジアム内への横断幕や旗、拡声器や太鼓などの応援アイテムの持ち込みなどを小尾が相手チームに働き掛けているのだ。パートナーの奮闘を堀之内が説明する。
「それこそ小尾はサポーターと同じ気持ちで交渉しています。『太鼓はふたつまで』と言われたら、『いや、3つないと困るんだ』とか。一個でも多くの拡声器や太鼓を、1枚でも多くの横断幕を持ち込めるように、小尾は戦っています」
過酷なアウェイでチームが力を発揮できるのも、ファン・サポーターがそのチームを後押しできるのも、縁の下の力持ちである“前乗り舞台”の奮闘があってこそなのだ。
(取材/文・飯尾篤史)
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