プロ3年目の20歳。
落ち着いたのは、髪の色だけではない。
金髪から黒髪になった荻原拓也は一次キャンプ途中で一時離脱したときも、明るい表情で別メニューのトレーニングを黙々とこなしていた。
「精神的な動揺はなかったですね。焦らずにコンディションを整えれば、二次キャンプでアピールできると思っていましたから」
言葉どおり、復帰後はすこぶる好調。浦和ユース時代から慣れ親しんできた左サイドバックで水を得た魚のように生き生きし、持ち味を存分に発揮した。
快足を飛ばして駆け上がり、精度の高い左足キックで好機を演出。状況を見ながら、切れ味鋭いドリブルでも打開していく。守備では1対1の局面で負けず、スペースをケアするポジショニングにも気を使っている。
「久しぶりのポジションですが、すごく楽しくプレーできています。自分の良さが思ったよりも出せていると思います」
清々しい顔には充実感がにじむ。
闇雲にアピールに走ったわけではない。今季のキワードは安定感。いま最も手応えを感じている部分である。
キャンプでは練習直後に自らのプレーを振り返り、頭のなかで反省点を反芻した。毎日のように自らのプレー映像を確認し、自分が出場しなかった練習試合もチェック。同じポジションの選手の動きも見て、参考にしていた。
「自分で考えるイメージと客観的に映像で見るのは全然違います。そのすり合わせができました」
難しく考えるのではなく、思考を整理しているのだ。
「自分に足りない部分を明確にして、取り組むべきことを絞っていたんです。1日1日、テーマを持って練習しています。僕は細々と考えてできるタイプではないので」
あらためて気づくこともあった。
サイドハーフが外に張り出すと、中央寄りにポジションを取り、中盤の組み立てに参加。前線にも絡んでいた。中学校2年生から高校1年生まではボランチだったこともあり、違和感なくこなせたという。
「僕は中を取ってもできるんだなって思いました。確実にプレーの幅は広がっています」
冷静に自己分析すれば、「90分間、パフォーマンスが安定しなかった」という昨季までの課題を克服する方法も見えてきた。攻守のバランスがより求められるサイドバックになったことは大きいが、それだけではなかった。
「試合中に足がつったりするのはなんでかなって、じっくり考えたんです。最初は体力が足りないと思っていたけれど、そうではなかった。僕は若いし、走れます。限界のあるエネルギーを早くに使い切っていました。どんなに体力があっても、高い強度でプレーを続けるのは難しいです。考えて工夫してサッカーをすることで、余力が出てきました。これままではその工夫をしていなかったんだって」
得意のドリブルで勝負するタイミングは明らかに変化し、勘所を押さえている。
「これまでは選択肢がなくて突っかけていましたが、いまは相手と味方の状況を判断して仕掛けています」
昨季まではプレーに焦りが見えることもあった。限られた出場時間内に結果を残すことを意識するあまり、心の余裕をなくしていた。昨季は公式戦8試合で先発フル出場したのは1試合のみ。気持ちの浮き沈みが激しく、メンタルの安定感を欠いた。すべてが悪循環に陥っていた。
ただ、今季は自らを見つめ直すことで、心技体が充実。この冬からは暇を見つけて本を読んでいる。小学校時代にはたった10分間の読書タイムに寝ていた男が、活字と向き合っているのだ。
キャンプ中も那覇市内の書店に足を運び、『心を強くする「世界一のメンタル」50のルール』などの本を手に取り、読破した。女子プロテニスの大坂なおみ選手を全豪オープン優勝に導いたコーチの言葉は、心に響くものばかりだった。
「サッカーをやっていく上でも、メンタルはすごく大事な要素だと思いました。気持ちが高ぶりすぎてもダメ。いまは落ち着いたメンタリティーでプレーできています」
充実のキャンプを終え、浦和の練習場に戻っても、荻原は心を落ち着けている。
ルヴァンカップ開幕となるベガルタ仙台戦(2月16日)のスタメン出場に向けて、静かに闘志を燃やす。21歳以下の出場枠は意識せず、試合に出るための準備を進めている。
「気持ち的にはJリーグとルヴァンカップも変わらない。純粋にポジションを一つ取らないと、試合には出場できないと思っています」
フォーメーションを変更し、新たなスタイルにチャレンジするチームでブレイクすることを誓う。
チャンスをもらえるかどうかは別問題。難しいメンタリティーになっても、それも想定内と思うようにしている。悠然としているが、ギラギラした目はこれまでと変わらない。強気な一面もちらりとのぞかせる。
「このサッカー=荻原と言われるくらいのプレーを見せたい。荻原あってのこのシステムなんだって。サイドバックは起点になるし、重要になってきます。本当に楽しみ」
2018年のルヴァンカップ初戦で圧巻の2ゴールをマークした衝撃的なデビュー戦以来のインパクトを残すつもりだ。
「あれ以上を期待してもいいです」
勝負どころではリミッターを解除する。
スピードスターの進化した姿に注目したい。
(取材/文・杉園昌之)
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