アディショナルタイムにPKを与え、不運な敗北を喫した5月26日のFC町田ゼルビア戦。試合後、決勝点の要因となるファウルを犯したアレクサンダー ショルツは神妙な面持ちでメディア対応をこなしたが、ショルツと同じくらい責任を感じていたのが、前田直輝だった。
浦和レッズの流れから一転、相手に許した52分の先制点は、前田のボールロストがきっかけ。前半には前田が決定機を生かし切れない場面もあったが、54分の伊藤敦樹の同点ゴールは、前田のクロスが起点となったもの。しかし、そんな功績はなんの慰めにもならないようだ。
「僕のクオリティー……僕の責任だと思います。前半に決め切らないといけないシーンもありましたし、ひとりかわすだけではなんの意味もないと思っています」
実は前田は今シーズンの敗れたゲームのほとんどで、自身の責任について言及している。
0-1で敗れた4月12日の柏レイソル戦後には「責任を感じますし、悔しい気持ちでいっぱいです」と言葉を絞り出し、同じく0-1の敗戦となった4月20日のガンバ大阪戦後にも「『1対1でどうぞ』っていうシーンが多かったので、そこは結果につなげないと、このチームのウインガーとしては力不足」と反省の弁を述べた。
その言動は、敗戦の責任をすべてひとりで受け止めているかのようだ。
理由のひとつは、ペア マティアス ヘグモ監督のスタイルにあるだろう。マティアス監督は「私のサッカーではウインガーは重要なキーマン」と公言し、ウイングが相手サイドバックと1対1で勝負できるような攻撃の形をチームに落とし込んでいる。
それゆえ、前田もプレシーズンのトレーニングキャンプ中から「このサッカーはウインガーの良し悪しで試合が決まる」とモチベーションを高めるとともに、課せられたミッションを自覚していた。
大久保智明、オラ ソルバッケン、関根貴大、松尾佑介とチームのウインガーに負傷者が相次いだことも前田が責任感を強める要因かもしれないが、浦和を背負う覚悟も、前田の責任感を強める一因ではないか。
21シーズン終了後にオランダのFCユトレヒトに移籍し、満を持して海外に挑戦したものの、デビュー戦の開始8分で下腿骨折の大怪我を負い、不完全燃焼のまま23年6月に帰国した。
復帰した名古屋グランパスではコンディショニングに苦しみ、11試合出場のうち先発出場は2試合のみ。このオフ、名古屋を離れることになった。
海外でのプレーに未練もあったに違いないが、それを断ち切って完全復活の場として選んだのが、地元のクラブである浦和レッズ。
子どものころは田中達也の大ファンだったことを明かし、「小さいころから本物の浦和の漢たちを見てきたので、その浦和の漢に近づけるように頑張りたい」と宣言していた。
もともと漢気のある選手だから、チームの勝敗の責任を負うのは前田の流儀であり、生き方なのだろう。
だが、その一方で、若いころの、いい意味でのヤンチャぶりもドリブラー・前田直輝のおおいなる魅力だった。
もう少し肩の力を抜いて、かつてのようなイケイケの精神で、得意の跨ぎフェイントと深い切り返し、カットインを駆使して、スタンドを沸かせてほしい。
生粋のドリブラーには悲壮感よりも、笑顔と遊び心がよく似合う。
(取材・文/飯尾篤史)
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