「楽しくやることです」
「ずっとってわけじゃないんですけどね。でも、楽しくサッカーをしているときのほうが、結果もすごくいいし、プレー自体もいい。
「そう思えるようになったのは妻と知り合ってからです。16歳からの付き合いになるのですが、彼女がいなかったら、僕は日本代表にも選ばれていなかったと思うし、海外でもそんなに長くはプレーできなかったと思いますし、そもそも海外に行っていたかどうかも分からない」
「身の回りのサポートをしてもらえることもありますが、一番は精神的に支えてもらっています。これも例えばですけど、ポルティモネンセSCは、ホームゲームのときにホテルに前泊することがなかったのですが、試合の前日も家族と一緒に過ごせたほうが、自分のパフォーマンスや調子もいい。だから、アウェイに行くと、ホテルに前泊しなければならないので活躍できない、みたいなことがありました」
「(何を話したか、何を言われたかを)言葉にすると(印象が変わって)伝わってしまう可能性もあるので、自分の心のなかだけに留めておきたいんです。でも、彼女と付き合う前と付き合ったあとでは、『別人だ』とよく言われます。
「もともとは負けたあとはすごい悔しがっていたように、(サッカーをしている以上)勝ち負けがすごく大事なことは分かっていますし、ゲームなので勝つことは目指さなければいけないとも思っています。だから、それ(勝つこと)ももちろん目指していますけど、(一方で)それだけだとつまらなくなってしまうので、上達したり、昨日より少しでもここがよくなった、うまくなったというのを大事にしたいと思っています。
「楽しんでいるなって思っているときは、実は楽しんでいないんです。頭のなかで考えて楽しむのと、身体から自然と湧き出てくる楽しむでは全然違うので。微妙なニュアンスの違いですけど、伝わりますか?」
「自分がサッカーをやっているときは楽しいという感じではないんです。むしろ、周りの人が僕を見たときに、楽しそうだなとか、楽しんでいるなって思ってもらえたらいい。サッカーをやっている子どもたちにも、その楽しさを大事にしてほしいなって思います」
「だから」と言って、中島は言葉を続ける。
「無になっているっていうか、寝食を忘れて没頭しているみたいな感じです。そうなれれば、どこにいても、どこであっても、いいプレーができると思っています」
「日々の体調も変わるように、毎日思うこと、考えることも変わってくるので、そこをなるべく大事にしようと思っています。それと同時に楽しむことも変わっていくので、そこをちゃんと自分自身が見えるようにしています。楽しむっていうか、やっぱり、毎日、上達したいんですよね。それはサッカーだけに限ったことではなく、毎日、ひとつは新しい発見をしたいというか」
「何を発見しているとかは、まだ発展途上だし、試行錯誤している途中なので明かすことはできないですけど、試合でも『試みる』ことは大事だと思っています。何ごとも、試すのって勇気がいることですからね。ただ、僕は失敗してもいいからと思ってチャレンジすることはない。成功させるためにというか、成功させたいから試しています」
「昨季と比べたら上がってきていますけど、ここ何試合かは、どこか身体に違和感があったりして、セーブしながらやっているところもあります。そこでまた、自分の身体についても、いろいろと試したりしています。
「どの時代でも、どのチームでもやらなければいけないことはあると思いますが、(僕自身は)それを破ろうとも思ってもいないし、それに従うだけではいけないとも思っています。これは実体験に基づいていることですけど、中学時代に試合に出られなかった時期に、親から『サッカー選手を目指すのをやめたら』と言われて、猛反発したんです。自分のおもいに従って行動した結果、僕はプロになることができた。だから、ときには、自分が思ったことをやることも大切なのかなと。
「台本があって、セリフがあって、話の流れは決まっているんですけど、役者の人は、演じるときの空気感も大事にしていますよね。決まったセリフをただ言うだけでは、きっと棒読みになってしまう。僕はその棒読みが嫌いなんです。言い方とか間、それこそ抑揚を大事にしたい」
「だから今季、明らかに他のウイングの選手とは違う動きをしていますけど、そこで僕が作った穴をチームメートが埋めてくれるし、そのスペースを生かしてもくれる。それがいわゆるコンビネーションだと思っています。誰かが動けば、誰かがその穴を埋めなければいけないから、そこに動きが生まれますよね。
「チームとしての戦術は大事ですけど、選手が作為的に作り出したコンビネーションは相手も察知しやすい一面があります。むしろ、自然発生的なコンビネーションが生まれるために練習があるし、練習をしているからそのコンビネーションは行き当たりばったりではなくなる。こう動いたら、こう動くといった狙いどおりの攻撃もおもしろいですけど、それとは違うことをやって生まれる攻撃もサッカーのおもしろさだと思っています」
(取材・文/原田大輔)