サミュエル グスタフソンは束の間のオフを利用して、車を走らせた。
目的地は富士山だった。
「車で行けるところまで行っただけなので、ハイキングというよりも、ドライブに近かったのですが、一度、富士山に行ってみたかったんです。
だって、富士山は日本人ならば、誰もが知っている場所。世界的にも有名な山だったので、この目に焼きつけておきたかったんです」
もともと山や海といった自然を好み、母国であるスウェーデンで暮らしていたときも、時間を見つけては、自然を感じられる場所に出掛けていたという。
それだけに、今季から浦和レッズでプレーするグスタフソンが、富士山に引きつけられたのもまた、自然な流れだった。
「素晴らしい景色でした。眺めだけでなく、きれいな空気を吸うのも、最高のリフレッシュになる。またひとつ、日本の素晴らしさを知ることができました」
グスタフソンは新しい土地を訪ねることを「冒険」と表現し、「日本に来た大きなメリットのひとつでもある」と語った。
「もちろん、浦和レッズでのトレーニングや試合が第一優先ですけど、自分が今いるその国の文化や習慣を知ることも、人としての成長につながります。イタリアでも5年間、プレーしましたが、やはりイタリアで暮らしたときも、新しいものに触れ、新しいことを学び、自分は成長したと思っています」
そして彼は、「文化を知り、人を知ることは、プレーにも大きな影響を与える」と言う。
「全員が全員、同じではないですが、やはりスウェーデンも、イタリアも、そして日本にも違いはあります。これはあくまで一例ですが、ヨーロッパでは、イエスかノーがはっきりしていたり、右に進むか、左に進むか、はっきりと物を言う傾向が強いですが、日本人はそのどちらでもなく、答えが曖昧だったりするときもありますよね。
でも、そこが日本や日本人の魅力でもあると僕は思っています。イエスかノーのどちらかではなく、右か左のどちらかでもなく、相手の考えを汲み取って、それぞれのいいところを踏まえて、納得できる答えを探していく。だから、それと同じように、スウェーデンやイタリア、日本のどれかが優れているというのではなく、それぞれの違いを比較しつつも、学び、受け入れていくことが大切かなと。
文化や習慣、さらには暮らす人々の性格を知り、僕自身はすごく成長できていると感じています。また、その土地で暮らす人たちの物事の捉え方や生き方を理解することは、最も大事なプレーにも反映されていくと思っています」
浦和レッズのユニフォームを着て、ピッチに立つたびに、中盤の底から的確なパスで攻撃を組み立て、チームメートを活かす動きが増えているのも、文化や人を知り、学んでいる効果だろう。
ピッチの中央にいる存在感は日に日に増している。
「3-0で勝利したサンフレッチェ広島戦(明治安田J1リーグ第36節)では、いいゲームができたように、チームメートともいい関係性を築けています。残りの試合でもチームが勝利することで、次への期待や希望につながっていく。そのためにも最後まで集中して試合に臨みたいと思います」
大好きな自然に触れて英気を養い、そして日本の魅力をまたひとつ知ったグスタフソンは、ピッチの中央で、その学びを表現していく。
(取材・文/原田大輔)