どの相手との試合も、重要な一戦に変わりはないので――。
渡邊凌磨に『古巣との対戦』について尋ねたならば、そんな答えが返って来るのではないか。そう、私は想像していた。
だが、実際の彼の反応はもう少し「エモーショナル」と評して差し支えないようなものだった。あるいは、「繊細な」と表現するべきものなのかもしれない。
明治安田J1リーグ 第31節FC東京戦を4日後に控えた9月17日、練習後の渡邊は次のように答えている。
「あまり考えないようにしているので、次のことはあまり聞かないでほしいです」
そう言って、小さく笑みを浮かべた。
照れているようにも、少しだけ困っているようにも見える。
そんな笑みだった。
前回、4月3日の『古巣対戦』は1-2で敗れている。
その試合、渡邊は左ウイングの位置で先発。しかし、戦況とチーム事情もあり、後半には右サイドバック、さらには左サイドバックも務めた。
周知の通り、ほかの試合でも対戦相手や状況によって彼はさまざまなポジションをこなしてきている。どの位置で起用されても、素晴らしいパフォーマンスを示してきた。
その後、指揮官が替わって迎えた初戦、ガンバ大阪との試合で彼が任されたのはトップ下。
「得点に関われるということではいいかな、と」
それが、渡邊の第一声。さらに攻撃についての言葉が続くのかと思われた。
だが、彼の口から出てきたのは、そんな予想とは少し異なる内容だった。
「攻撃だけではなく、中央のほうが守備で貢献できると思っているから。守備でも攻撃でも、どこでも顔を出せるという意味で、真ん中にいるほうがいいかなと思います」
守備時には4-4-2のブロックを組むマチェイ スコルジャ監督のゾーンディフェンス――。
その守備において前線の選手に求められるのは、後方の味方のためにコースを限定すること。賢さと運動量が必要な仕事だ。
G大阪戦での渡邊の運動量、つまり走行距離は、両チームを通じてトップの12km超だった。
それでも――。渡邊はこのG大阪戦については次のように振り返った。
「守備のやり方が変わり、自分の守らなければいけないポジションも変わった」
そのぶんだけ、「より意味のある走りが増えた」と。
本人の感覚からすれば「より意味のある走りが増えた」とはいえ、蒸し暑さの下でのゲームで12km超という走行距離に、負担がないわけではない。
「さすがに、キツかったですよ」と苦笑する。
しかしながら、彼はこう続けるのだ。
「キツいけど、あれをベースにしないと。あれで勝てるのであれば、やっていきたいと思います」
その献身性と強い意志を、ファン・サポーターは感じ取っていたからこそ、驚くほど早く『渡邊凌磨』は多くの人の心を掴んだのだろう。
古巣対戦、そしてその先に続く闘いに向けて――。
『浦和の漢』がチームを勝利へと導く。
(取材・文/小齋秀樹)