「日本ダービー」競馬界最高の栄誉を手にするために、今年もホースマンたちが熱い戦いを繰り広げる。3歳馬7398頭の頂点を目指し、熾烈な争いを勝ち抜いてきた精鋭たち。その知られざる舞台裏に迫った。
騎手一家に育った若手No.1騎手
「ここまで順調に、人馬ともに一緒に来られて本当に嬉しい。ダービーでも良い結果を残せるように頑張りたい」―― ダービーを目前に控えたインタビューで、エフフォーリアの鞍上を務める横山武史はこう語った。その姿はとても弱冠22歳の若武者とは思えない、堂々たる風格に満ち溢れていた。
過去10年の皐月賞馬のダービー成績は[3・2・1・4]で掲示板を外した馬はゼロ。今年の皐月賞を無傷の4連勝で制したエフフォーリアは日本ダービーの主役に躍り出た。
史上2番目の若さで皐月賞ジョッキーとなった横山武史は今年でデビュー5年目、今もっとも勢いのある若手騎手として注目を集める存在。
そんな武史騎手は父、祖父、そして兄もすべて騎手というエリート一家に育った。中でも父・横山典弘騎手は史上3人目となるJRA通算2800勝を記録したトップジョッキー。ダービーも2009年にロジユニヴァース、2014年にはワンアンドオンリーの手綱を執って2勝を挙げている。
「騎手を目指したきっかけは横山典弘」と公言するように、偉大な父を持つ武史はダービーに対しても特別な思いを抱いていた。
「子供ながらにダービーは特別なレースと理解していたし、観ているだけでも緊張した。乗る側になったら、どれくらい緊張するんだろうという気持ちがあった。その中でも先頭でゴールするというのは本当にすごい。その一言に尽きる」
「間違いなく勝てる」と確信した相棒との初コンタクト
デビュー4年目となった昨季は重賞初制覇を飾るなど、着実に成績を伸ばしていった武史騎手。成長著しいホープにエフフォーリアの鞍上を任せたのが鹿戸雄一調教師。
武史騎手の父・典弘騎手との親交も深く、休日になるとゴルフや食事に出かける仲。古くからよく知る仲間の息子が騎手として奮起している姿を見て「素直に嬉しい」という鹿戸調教師は武史騎手をこう評した。
「ここまでグングン伸びるとは素直にすごいし、相当な努力も勉強もしている。一生懸命やっているからこそ、良い馬にも出会えた」
そんな中で巡り会ったパートナー、デビュー前のエフフォーリアにに跨った武史騎手は鹿戸調教師に「間違いなく勝てますよ」と語り、実際にデビュー戦を快勝。クラシックへの登竜門である共同通信杯(GIII)を無傷の3連勝で飾り、クラシック戦線の主役へと名乗りを上げた。
一見、順風満帆に見えたエフフォーリアとのクラシック戦線への歩み。だが、その裏で横山武史騎手は1人悩んでいた。
熾烈を極めた争いに打ち勝ち、掴んだクラシックの勲章
話はエフフォーリアとの出会いがあった2020年にさかのぼる。
この年の横山武史騎手はウインマリリンでフローラS(GII)を制して重賞初制覇を飾るなど、順調に勝ち星を積み重ねていったが、その先に待っていたのは関東リーディング騎手争い。騎手人生で初めて経験したリーディング争いに大きな重圧を感じていたという。
「眠れない日々が毎週のように続いた」と振り返るほど、この年の関東リーディングは熾烈を極めた。
中でも最終盤の12月に入ると、首位をひた走る武史騎手に吉田隼人騎手が猛追。12月上旬の時点であった6勝の差はジリジリと詰められ、12月20日時点でその差はわずか3にまで縮まった。
年末ギリギリまで続いた熾烈なデッドヒートに眠れないほど追い込まれた武史騎手だったが、このプレッシャーに打ち勝ち、94勝をマークして関東リーディング騎手の座に輝いた。22歳でのリーディング獲得はそれまでの記録を上回る史上最年少での達成となった。
「勝ったことで自分の自信へとつながり、精神的にも強くなった」というリーディング争いを経て、横山武史騎手はこの春、エフフォーリアを駆りGIジョッキーとなった。
「無敗でのダービーということですから、プレッシャーは感じています。ダービーでも良い結果を残せるように頑張りたいと思います」無敗の二冠へ、若手No.1騎手が満を持して日本ダービー制覇へと挑む。