国内最多の6クラスを備える特急車両
浅草・JR新宿~東武日光・鬼怒川温泉間を結ぶ、東武鉄道の100系「スペーシア」。その後継車両N100系「スペーシアX」が、2023年7月15日(土)に運行開始します。“座席鉄”の筆者(安藤昌季:乗りものライター)は6月に開催された撮影会に当選したので、デビューに先駆けて見学してきました。
東武鉄道にとって33年ぶりとなるフラッグシップ車両。その魅力のひとつは多彩な設備です。「コックピットラウンジ」「スタンダードシート」「ボックスシート」「プレミアムシート」「コンパートメント」「コックピットスイート」と、国内最多の6クラスを備えます。
東武N100系「スペーシアX」。夜行運行した場合でも最高の車両と感じた(2023年6月24日、安藤昌季撮影)。
ユニークなのは座席の予約者に“カフェの優先使用権”がある「コックピットラウンジ」。食堂車のような内装であり、飲料やスイーツが販売される予定です。筆者は「ソラマチひろば」のイベントで、コーヒーとビールを試飲してきましたが、どちらも上質でクセがなく、何杯でもイケる、という誘惑に駆られました。
コックピットラウンジでは飲料販売が中心で、本格的な食事類は提供しないためか、テーブルは横60cm程度とコンパクト。利用客の動線を妨げない大きさです。広い視界を確保するため、客室内に荷物棚が設置されていません。デッキには大型荷物置き場があります。天井に配置されたデジタルサイネージから空が見え、開放感もありました。
リクライニング角度以上に“傾く”と感じたワケ
「コックピットラウンジ」の座席には、1人掛けソファと2人掛けソファがあります。1人掛けソファは座席幅47~53cm(奥側が狭い)で、やや硬めのセッティング。席を立ちやすい硬さだと感じました。形状も自然と肘掛けに手が置けるので、ホテルのラウンジに置かれている座席を連想しました。
2人掛け座席は、1人あたりの座席幅が55cmとゆったり。各ボックスにクッションも置かれており、肘掛け代わりにもできます。1人掛け座席よりやや柔らかく、布地の触感が心地よい座席でした。
前面展望も楽しめる「コックピットラウンジ」(2023年6月24日、安藤昌季撮影)。
「スタンダードシート」は2+2列で、座席間隔が110.0cm、座席幅が45.7cm(中間肘掛けを跳ねあげた場合)。背面テーブル、肘掛内テーブルも大きいなど、機能性が高い座席です。座り心地は、これまでの鉄道車両に見られない「グリップ感ある座面」に感心しました。最大の15度まで最大にリクライニングした際にも、体が投げ出されることがありません。
前作「スペーシア」の一般座席は、座席間隔110.0cm、座席幅46cm、リクライニング角度17度ですが、実際の着座感では「スタンダードシート」の方がリクライニングするように感じます。「スペーシア」にあったフットレストが「スタンダードシート」にはありませんが、座面設計の優秀さで、ほとんど気になりません。
「プレミアムシート」は1+2列で、座席間隔は120.0cm、座席幅は50cmと広め。バックシェルが備わるため、リクライニング時に気を使う必要がないのは嬉しいところです。
バックシェルがあるため、リクライニング角度は16度と控えめですが、座面がしっかりとせり出すので、角度以上に傾くと感じます。座面も、スタンダードシートと同じく体が滑りにくい設計であり、フットレストやレッグレストが備わらないことは、個人的にはあまり気になりません。
現代の座席が総じて固めのセッティングである中、「スタンダードシート」「プレミアムシート」とも、特急車両の中ではやや柔らかめの座席でした。
上質な隠れ家!? コンパートメント
「ボックスシート」はパーテーションで区切られた半個室区画で、座席間隔は200.0cm、座席幅は80.8cmとゆとりを感じます。テーブルも大きく、ビジネスユース可といった空間です。
設備全体のプライベート感は大きな魅力。座席はリクライニングせず、座面、背もたれはやや硬めのセッティングで、仕事で使う場合は姿勢が保持しやすいと感じます。また、いささか行儀が悪いですが、設備を1人で利用し、前の座席に足を乗せた場合は、リラックスもでき、最高の居住性になると感じました。
コの字の座席が斬新な「コンパートメント」(2023年6月24日、安藤昌季撮影)。
「コンパートメント」は4人定員で、個室広さは長さ221.5cm、幅165.0cm。前作「スペーシア」の個室(長さ203.0cm×幅174.0cm)よりもレール方向で長めです。
個室の中心に折り畳み式テーブルが備わります。とても広いサイズで、お菓子を広げたりガイドブックを見たりするのに都合がよく、グループ客には最適でしょう。
座席は座面が広く着座感は良好。背もたれが低いものの、ソファがコの字型のユニークな配置なので、場所取りが自由です。クッションも1つ収納されていました。
前作「スペーシア」の個室と比較した場合、「コンパートメント」は「上質な隠れ家」、スペーシア個室は「ホテルの一室」という感じです。上質なインテリアから醸し出されるプライベート感やおしゃれ感、そしてコンセントの利便性は「コンパートメント」、豪華で重厚なソファで大窓からの景色を堪能したいなら「スペーシア個室」と、行き帰りで乗り比べるのも楽しそうな設備でした。
超広い「コックピットスイート」
最上級個室「コックピットスイート」は、私鉄特急で最も広く、長さ410.0cm、幅266.0cm。編成の端に1室だけ設けられている超豪華な設備です。室内に入ると「広い!」と実感します。運転台越しの展望も相まって、3方の景色が見られ、非常に解放感があります。
私鉄特急最高の広さを誇る「コックピットスイート」(2023年6月24日、安藤昌季撮影)。
1人掛けソファが4脚、3人掛けソファが1脚あり、乗客が自由に動かせます。1人掛けソファは「コックピットラウンジ」の色違いで、着座感も同じです。3人掛けソファは、1人あたりの幅が53cmあり、クッションが2つ備わります。こちらはゆったりとした座り心地でした。
なお、前面展望については、乗客の座高によっては見えにくいことがありますので、備え付けクッションをソファに置き、その上に座ることで景色が見やすくなると感じました。
「スペーシアX」の全設備に乗車した実感は、ビジネスでもレジャーでも利用できる「よく考えられた車両」ということです。営業運転ではどの程度揺れるのか、景色やサービスはどうなのか、「改めて乗客として乗車したい」と感じさせる車両でした。