戦闘機などが放つ発光弾「フレア」、そもそもどういうもの?
2017年10月11日(水)、アメリカ海兵隊のF/A-18C/D「ホーネット」戦闘機が広島県の上空において「フレア(発光弾)」を投下し住民に目撃されたことがニュースとなりました。フレアは殺傷を目的として使用されることは無く、基本的に害を与えないので心配はありません。ではそもそもフレアとはなにものなのでしょうか。
フレアを投下するF-16戦闘機。フレアは見た目も派手であるためエアショーでも多用される(関 賢太郎撮影)。
フレアは赤外線誘導対空ミサイルを妨害する目的に使用する囮弾「赤外線対抗手段(IRCM)」であり、一般的にマグネシウムなどを主原料とし母機から射出後は強烈に燃焼、赤外線を発することによって赤外線誘導ミサイル先端部の赤外線検知器(シーカー)による追尾(いわゆる「ロックオン」)を引き寄せます。
また携帯型赤外線誘導地対空ミサイルに狙われていることを探知するのは困難であるため、低空における地上攻撃では実際にミサイルが発射されなくとも断続的に投下することがあります。特にテロリストや武装組織にも広く普及している、「ストレラ2」と呼ばれる旧ソ連製の地対空ミサイルはフレアの妨害に弱いため、今回F/A-18はおそらくそうした状況を想定した訓練を行ったものと推測されます。
現代の航空戦ではもはや気休め?
一方で各国の軍が装備する最新の地対空ミサイル・空対空ミサイルに対しては、フレアはあまり効果的ではなくなりつつあります。フレアは赤外線のほかに可視光や紫外線も発するため、1990年代頃からはミサイル側のシーカーにも紫外線検知機能が加えられ、紫外線放射する標的をフレアと見破り追尾しない「赤外線対抗対抗手段(IRCCM)」が盛り込まれたものが主流になっています。
当然、妨害側のフレアも改良が加えられ紫外線を低減し、より本物の航空機に近い赤外線放射パターンを再現するなど、赤外線対抗対抗手段に対する対抗手段の向上をはかっています。しかし、現在主流となっている「赤外線画像認識」方式を採用したミサイルは、点光源と航空機を容易に見分けられるようになっており、フレアによる生存性の向上はほとんど気休めになってしまっているのが実情です。
ミサイルの誘導を妨害する「赤外線対抗手段」と誘導の妨害を無効化する「赤外線対抗対抗手段」の戦いは現在のところ後者が優勢であり、一度発射されたミサイルを回避することは非常に困難になっています。そのため、十分な地対空ミサイルによる防空の傘を持つ勢力に対しては、低空を飛行するヘリコプターや対地攻撃機はほとんど活動できません。
終わりなきいたちごっこ 2017年現在の情勢は…?
近年では「赤外線対抗手段」として赤外線レーザーを搭載し、ミサイルの敏感な検知器を飽和させてしまうか焼き切ってしまうという手段を持つ航空機が増えています。赤外線レーザーは「赤外線対抗手段」側の究極の切り札となりえるため、今後さらに増加するのではないかと思われます。
とはいえ、すでに赤外線レーザーに対する「赤外線対抗対抗手段」としては、対処不可能な数のミサイルを発射する飽和攻撃や、複数の誘導装置を同時に備えるなどの構想があり、「妨害」と「妨害を妨害」する戦いは今後も続いていくことになるでしょう。
フレアを放出するAC-130U「スプーキーII」ガンシップ(画像:アメリカ空軍)。
1950~60年代頃に赤外線誘導対空ミサイルが登場して以降、航空機にとってミサイルは最大の脅威であり続けており、当時は適切な「赤外線対抗手段」を行うことで撃破率を1~2%、すなわちミサイルが50~100発発射されて1回撃墜される程度にまで低下させることができました。
その後、半世紀にわたる「赤外線対抗手段」と「赤外線対抗対抗手段」のあくなき戦いによって、現在は「撃たれたら最後ほぼ命中」という力関係に落ち着いています。つまり2017年現在、圧倒的にミサイル側が優勢ですが、いずれは何かしらの方法で力関係が逆転することもあるかもしれません。
【写真】アフガニスタン上空、フレアを射出するF-15E
フレアを射出するアメリカ空軍のF-15E「ストライク・イーグル」。写真の2008年当時、アメリカはアフガニスタンにて「不朽の自由作戦」を遂行中(画像:アメリカ空軍)。