海自、新たに「哨戒艦」を導入
防衛省は2018年12月18日に発表した、2019年度から適用される「次期防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」において、海上自衛隊に「哨戒艦部隊」を新設し、同時に新型の「哨戒艦」を導入する方針を明らかにしました。これによると、2019年度からおおむね5年間に設定されている「中期防」期間中に4隻、これを含め2029年度までに12隻の哨戒艦を導入するとのことです。
イギリス海軍のリバー級哨戒艦「クライド」。海自が導入予定の新型哨戒艦(1000トン前後)より、ひと回りほど大きい(画像:イギリス国防省)。
「哨戒艦」は、領海や領土の沿岸、港湾の防衛や警備、救難活動をおもな任務とする軍艦です。旧日本海軍は、旧式化した駆逐艦などを改造した、「哨戒艇」と呼ばれる艦艇を運用していましたが、海上自衛隊にとって「哨戒艦」の運用はこれが初となります。
日本では沿岸、港湾の警備や救難活動は海上保安庁が担当していますが、日本の領海と排他的経済水域を航行する外国海軍艦艇の監視は、海上自衛隊が担当しています。同隊ではP-1、P-3Cの両哨戒機が上空から、はやぶさ型ミサイル艇と乙型護衛艦(DE)に分類されるあぶくま型が海上から、日本近海を航行する外国海軍艦艇の監視を担当しています。
しかし近年では、中国、ロシア両海軍の活動が活発化したことにより、はやぶさ型ミサイル艇やあぶくま型護衛艦だけでは監視の手が足りず、機雷の処理にあたる「掃海艇」や、護衛艦などの訓練を主任務とする「訓練支援艦」なども投入されています。
また、はやぶさ型は将来の廃止が決定しており、あぶくま型は新型護衛艦(フリゲート)「30FFM」で更新されますが、30FFMはソマリア・アデン湾での海賊対処などの海外派遣も予定されており、あぶくま型の任務をそのまま引き継ぐわけではありません。このため新たに建造される「哨戒艦」は、現在はやぶさ型ミサイル艇とあぶくま型護衛艦が行っている、日本近海を航行する外国海軍艦艇の監視を主任務とする艦になるものと思われます。
いろいろありすぎる「哨戒艦」、各国の事例
アメリカは、領海や領土の沿岸、港湾における防衛や警備、救難活動を、日本の海上保安庁に相当する「沿岸警備隊」の任務と位置づけています。このため、アメリカ海軍における哨戒艦艇というと、海軍の特殊部隊である「SEALs」の火力支援などを主任務とする、満載排水量334トン(船体延長型は387トン)のサイクロン級哨戒艇13隻など、比較的小型なものを運用しています。
その一方でイギリス海軍は、満載排水量1700トンから2000トンに達するリバー級哨戒艦を4隻保有。イギリス近海と南米のフォークランド諸島に配備して、おもに自国の漁船の保護と救難を行なっているほか、イタリア海軍も満載排水量1520トンに達するコマンダンテ級哨戒艦を6隻保有し、自国の領海と排他的経済水域の監視に使用しています。
海外領土の警備も行なっている、オランダ海軍のホラント級哨戒艦(画像:オランダ国防省)。
オランダは、現在も西インド諸島のアルバなどといった海外領土を保有しています。オランダ海軍が4隻を運用しているホラント級哨戒艦は、本国から遠く離れた海外領土の領海警備や救難も任務としているため、大洋を航行できるだけの航洋性や、長期の任務にあたる乗組員の居住性などを考慮した結果、大型化し、満載排水量はあぶくま型護衛艦(推定満載排水量2950トン)を上回る3750トンに達しています。
また、ノルウェー沿岸警備隊が運用している哨戒艦「スヴァールバル」は、北極圏に含まれるノルウェー領スヴァールバル諸島の警備と救難を担当しているため、海上自衛隊が運用している砕氷艦「しらせ」などと同様の砕氷能力を備えており、満載排水量6375トンの大型艦となっています。
イギリス、イタリア、オランダは、有事の際に哨戒艦を戦闘艦として使用する構想を持っていませんが、マレーシア海軍が6隻を運用しているクダ級哨戒艦や、ノルウェー沿岸警備隊のノールカップ級哨戒艦などは、有事の際には対艦ミサイルや対空ミサイルを搭載し戦闘艦へ改装できる設計になっています。またノルウェー海軍のクヌート・ラスムッセン級哨戒艦は、必要に応じてモジュール化された装備を交換できる構造を採用しており、ノルウェー海軍は有事の際、海上自衛隊の護衛艦にも搭載されている対空ミサイル「ESSM(発展型シー・スパロー)」の発射装置モジュールなどといった兵装モジュールを搭載して、戦闘艦として使用する構想を持っています。
まさかの「三胴船」も? どうなる海自の新型「哨戒艦」
これまで述べてきたように、ひと口に「哨戒艦」と言っても、大きさや運用構想は国によって大きく異なります。海上自衛隊は防衛大綱と中期防の説明会で、導入予定の「哨戒艦」に関し、装備品などを搭載しない船体だけの基準排水量は1000トン級、乗員は30名程度になると説明しています。
他方、防衛省はアメリカとのあいだで、複数の船体を甲板で並行に繋いだ「多胴船」の共同研究を行っており、防衛省の外局で防衛装備品の研究開発を任務のひとつとする防衛装備庁は、3つの胴体を甲板で並行に繋いだ「将来三胴船コンセプト」を発表しています。
防衛装備庁が研究を進めている「将来三胴船」の模型(竹内 修撮影)。
防衛装備庁の発表した「将来三胴船」のスペックは全長92m、全幅21m、満載排水量1500トンで、防衛省が上述の説明会で発表した「哨戒艦」の基準排水量1000トンという数字とのあいだに大きな開きはありません。そして、三胴船は横揺れが少なく、また甲板面積を大きくできるため、大型のヘリコプターを搭載できるといったメリットがありますが、まだ実用例が少ないため信頼性の面で不安があり、価格も単胴船に比べて高くなるというデメリットもあります。このため、新たに建造される哨戒艦は三胴船ではなく、護衛艦などと同様の単胴船になる可能性もあると考えられます。
「将来三胴船」の武装は76mm単装速射砲1門で、ノルウェーのクヌート・ラスムッセン級哨戒艦のように、必要に応じて各種モジュールを搭載することが想定されています。76mm単装速射砲は、イタリアのコマンダンテ級など、外国で運用されている多くの哨戒艦に搭載されています。また、あぶくま型護衛艦やはやぶさ型ミサイル艇にも搭載されているため、退役したそれらのものを流用できることから、どのような船型になるにせよ、新たに建造される哨戒艦の主武装が、76mm単装速射砲となる可能性は高いと考えられます。さらに、必要に応じて各種モジュールを搭載するというコンセプトも、近年の哨戒艦ではトレンドとなっていることから、海上自衛隊の哨戒艦もこのコンセプトを取り入れるのではないかと、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。
「哨戒艦」は護衛艦に比べて地味な存在ですが、四方を海に囲まれた日本の安全を守る上では重要な艦となることは間違いなく、今後の推移が注目されます。
【写真】小型、高速、火力十分、はやぶさ型ミサイル艇1番艇「はやぶさ」
ミサイル艇「はやぶさ」はその名の通り、90式艦対艦誘導弾(ミサイル)を搭載する、200トンクラスの小型艦艇。最大44ノット(約81km/h)で航行可能(画像:海上自衛隊)。
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