麺が見えないほどの巨大唐揚げそば
「のせもん」とは、ここではそばやうどんに載せるトッピングを指します。駅のホームなどにある「駅そば」のうち変わり種5つを、筆者(宮武和多哉:旅行・乗り物ライター)の独断で選んでみました。
まずは「巨大唐揚げ」です。JR常磐線と成田線の我孫子駅ホーム(千葉県我孫子市)にある「弥生軒」は、1日800杯売れるという「唐揚げそば」が名物です。電車が到着するたびに、店に人波が吸い寄せられ、長蛇の列ができます。
我孫子駅の唐揚げそば。「2個載せ」にすると麺がほぼ見えない(宮武和多哉撮影)。
唐揚げそばの特徴は、上に載っている唐揚げの大きさにあります。1個あたりの重量 は、一般的な唐揚げの3、4個分に匹敵する約160gもあり、サイズも高さ10cm近く、幅は長い部分で20cmほど。「2個載せ」を注文すると、丼の全面を唐揚げが占領してしまい、下の麺が見えないほどのボリュームがあります。
衣は口のなかでカリカリ感を長く保ち、柔らかくするのが難しいほど。つゆに浸った衣がそばの味を邪魔しないのは、肉や衣の味付けに、そば出汁のかえしを使っているからだそうです。
丼からはみ出る穴子 横浜線と歴史を同じくする
唐揚げそばは、仙台駅の「立ちそば処 杜」でも同じようなメニューが提供されています。これは、立ちそば処 杜を運営する「こばやし」と弥生軒の関係が深く、両者が合意のうえで唐揚げそばの販売を始めたためです。
「のせもん」の大きさで言えば、JR京浜東北線や横浜線の東神奈川駅(横浜市神奈川区)にある「日栄軒」の「穴子天そば」も負けてはいません。そばに載せられた穴子の天ぷらは、丼のサイズを優に超えています。
東神奈川駅ホームにある日栄軒の「穴子天そば」(宮武和多哉撮影)。
日栄軒は1918(大正7)年創業。東神奈川駅から分岐していた私鉄「横浜鉄道」が国有化され、現在の「横浜線」に路線名を変更したのが1917(大正6)年なので、横浜線の歴史と同じ時を重ねてきたといえます。ラッシュ時には店の外にも人があふれます。
当駅の乗車人員は1日に3万7000人以上(2018年度)であり、6人分ほどしかないカウンターはすぐにいっぱいになります。また、数歩で横浜線の電車に乗れることもあり、発車ベルとともに「ごちそうさん!」と言い残して電車に乗りこむ光景も、日常的に見られます。
「そば+ポテト」の始まりは十三駅から?
続いての「のせもん」は「山盛りポテト」。阪急電鉄の3路線が分岐する十三駅(大阪市淀川区)2・3号線ホームにある「若菜そば」で食べられます。ポテトはスティック状のフライドポテト。専用のカゴにこんもり盛られたポテトは熱々で、かけそばの丼とほぼ同じ面積をとります。これだけでもお腹がいっぱいになりそうなボリュームです。
阪急十三駅にある若菜そばの「ポテトそば」(宮武和多哉撮影)。
このフライドポテトをそばに丸々入れるもよし、別々にいただくもよし。「ポテト+そば」といえば駅そばの定番「コロッケそば」と通じるものがありますが、フライドポテトはコロッケと違ってつゆのなかでも形が崩れず、ある程度食感が保たれます。
2015年に「阪急そば」(現在の若菜そば)の限定メニューとして始まった「ポテトそば」ですが、一時期は全国に広まり、有名チェーン店でも同メニューが発売されました。だししょうゆ味のポテトチップスを載せる「ポテチそば」や「ポテトざるそば」も登場するなど、「そば+ポテト」が立ち食いそば界を席巻した時期もありました。
チーズが載り女性客が増えた駅そば
ポテトそばは現在、若菜そばの十三駅店のみでの販売です。タッチパネル券売機の「十三店限定」と記された画面内にひっそりとメニューがあります。2019年11月に筆者が店を訪れると、注文はコンスタントに入っている様子でした。
駅そばのトッピングといえば天ぷらなどが定番ですが、ここで変わり種を紹介します。静岡駅ホーム「富士見そば」の「のせもん」は「チーズ」。創業120年越えの老舗駅弁業者「東海軒」が運営しています。
チーズそばの麺は通常のゆで麺ではなく、焼きそばなどに使われる蒸し麺を使っているため、風味はそば出汁のなかでもしっかり主張しています。ここに約40gのシュレッドチーズとお好みでタバスコを加えると、風味の強い2者のハーモニーで、チーズ入りもんじゃのような味わいになるから何とも不思議です。しかし「こなもん(粉物)+チーズ」という世界的な定番のひとつと思えば、合うのは必然なのかもしれません。
静岡駅にある富士見そばの「チーズそば」(宮武和多哉撮影)。
東海軒では、チーズそばの導入以降は女性客が10倍近くに増加したそうですが、その楽しみは食べるだけではありません。チーズが絡んだ麺はきらきらと輝き、丼から麺を上げる「箸上げ」は、通常の駅そばよりもかなり“映え”ます。「インスタ映え駅そば」を冷めないうちに、さっと撮影してもよいかもしれません。
九州の玄関口ではご当地「かしわ」が載る
最後に舞台を九州に移します。JR小倉駅(北九州市小倉北区)の1・2番線ホームにある「北九州駅弁」が運営する立ち食いうどん店「ぷらっとぴっと」では、「丸天うどん」(丸天は、魚のすり身を丸く成形して揚げたもの)や「ごぼう天うどん」、ご当地メニュー「かしわうどん」が食べられます。なおぷらっとぴっとでは、どのうどんを注文しても「かしわ」(鶏肉)が少しだけトッピングされます。
JR小倉駅1・2番線ホームにあるぷらっとぴっとの「ごぼう天うどん」(宮武和多哉撮影)。
福岡を代表するトッピングをワンコインで楽しめるうえに、程よく柔らかい麺とすっきりした出汁は「いま九州の玄関口にいる」ことを実感させてくれます(ちなみに「かしわうどん」を注文すると、かしわがかなり増量されます)。
同駅の7・8番線ホームにも、北九州駅弁が運営する店があり、かつてはこちらも「ぷらっとぴっと」の看板がかかっていました。こちらのメニューは「かしわうどん」のみ。お腹に余裕があれば、同じ駅内で食べ歩きをしてもよいでしょう。