完成の目標時期が示される
JR東日本の深沢祐二社長は2018年7月3日(火)、同社が構想している大規模プロジェクト「羽田空港アクセス線」について、おおむね10年後(2028年ごろ)の完成を目指して早期に着手したいとの考えを明らかにしました。
上野東京ライン経由の普通列車。10年後には先頭の行先表示器に「羽田空港」の四文字が表示されるかもしれない(画像:photolibrary)。
羽田空港アクセス線は、東京都心と羽田空港を直結するJRの新線計画です。厳密には羽田空港から湾岸の東京貨物ターミナル駅(東京都品川区)まで新線を建設し、ここからは都心方面に向け、すでにある線路を活用するなどして「西山手ルート」「東山手ルート」「臨海部ルート」の3ルートを整備します。
羽田空港~東京貨物ターミナル間は地質の悪い海岸部に地下トンネルを建設することになりそうで工事の難航が予想されますし、そもそも3000億円以上かかるとされる事業費をどう調達するかなど、課題は山積みです。とはいえ、完成の目標時期が示されたことで、今後は工事計画の立案など具体化に向けた動きが活発になりそうです。
実際にどんな列車が走るのかは、まだ何も決まっていません。ただ、JR東日本は7月3日に発表した2027年度までのグループ経営ビジョン「変革2027」で、羽田空港アクセス線のおもな効果として「多方面からのダイレクトアクセスによる『シームレスな移動』の実現(時間短縮、乗換解消)」を挙げています。
このことから、同社が持つ広大な鉄道ネットワークと羽田空港アクセス線をつなぎ、関東各地と羽田空港を結ぶ直通列車が運転されるのは確実です。
どんな列車がどこを走るのか
東山手ルートは、東京貨物ターミナル駅から港湾地帯を貫く東海道本線の貨物支線(大汐線)を北上し、田町駅付近で旅客列車が走る東海道本線に合流。東京駅方面に向かいます。大汐線と東海道本線の線路はつながっていないため、田町駅付近に両線を接続するための線路(大汐短絡線)を建設する必要があります。
3ルートはいずれも東京貨物ターミナル駅を経由。りんかい線の車庫が隣にある(2011年11月、草町義和撮影)。
東海道本線の列車は現在、上野~東京間に増設された線路(上野東京ライン)を使って東北本線(宇都宮線)、高崎線に直通。常磐線の列車も上野東京ライン経由で品川駅まで運転されています。このことから、東山手ルートは宇都宮線、高崎線、常磐線の各方面と羽田空港を結ぶ列車が運転されるとみられ、上野東京ライン経由の快速列車や普通列車の一部が羽田空港発着に変わると思われます。
これらの列車の多くは2階建てグリーン車を連結していますから、大汐線の車窓に広がる港湾倉庫街の夜景を2階席で見ながら、空港にアクセスできるようになるかもしれません。JR東日本の公表資料によると、所要時間は羽田空港から東京駅まで約23分。東京モノレール(浜松町乗り換え)や京急線(品川乗り換え)を使うルートに比べ、約10~15分短くなります。
新宿、池袋方面に直通する西山手ルートは、東京貨物ターミナル駅から西にカーブし、東京臨海高速鉄道りんかい線の大井町駅に接続。ここからりんかい線を走って大崎駅に入り、埼京線や湘南新宿ラインの列車が走っている線路に接続します。このルートでは、東京貨物ターミナル~大井町間を結ぶ新線(東品川短絡線)の建設が必要です。
埼京線か湘南新宿ラインの列車の一部が羽田空港に直通するとみられ、所要時間は新宿~羽田空港間で約23分と想定されています。ただ、2019年度の下期には、やはり埼京線や湘南新宿ラインからの直通が考えられている相鉄・JR直通線が開業する予定。これに羽田空港への乗り入れが加わると各列車の運行区間が複雑になり、客には「行き先が分かりにくくて不便」と思われてしまうかもしれません。
私鉄の特急列車も乗り入れる?
このため、「埼京線はおもに相鉄線方面とりんかい線方面に直通」「湘南新宿ラインは一部の列車が羽田空港に直通」というように直通先を系統ごとに振り分け、ある程度は運行区間を分かりやすくすることも考えられます。
東武の特急列車も羽田空港に乗り入れるかもしれない(2017年7月、草町義和撮影)。
臨海部ルートは、東京貨物ターミナル駅からりんかい線の東京テレポート駅に入り、新木場駅に向かうルート。東京都心に直通というよりは、千葉県の房総半島方面へのルートです。東京貨物ターミナル駅の隣にりんかい線の車庫があり、東京貨物ターミナル~東京テレポート間は車庫とりんかい線をつなぐ回送線を活用(複線化)します。所要時間は羽田空港~新木場間で約20分の見込みです。
りんかい線の線路は新木場駅で京葉線の線路とつながっており、房総方面に直通する列車の運行も考えられます。ただ、JR羽田空港アクセス線~りんかい線~JR京葉線というように途中で別会社の路線を挟むため、りんかい線の運賃を収受するのが難しくなります。羽田空港駅に臨海部ルート専用の改札口を設けるなどの対策が必要になりそうです。
特急列車の運転も考えられますが、東京都心~羽田空港間の所要時間が短いため、関東郊外の都市を発着する列車が中心になるでしょう。品川発着の常磐線特急「ひたち」「ときわ」の一部を、羽田空港発着に変更するといったことが考えられます。
ちなみに、国土交通大臣の諮問機関・交通政策審議会が2016年に答申した東京圏の鉄道整備基本計画では、「久喜駅での東武伊勢崎線と東北本線の相互直通運転化等の工夫により、さらに広域からの空港アクセス利便性の向上に資する取組についても検討が行われることを期待」と記されています。現在は新宿~東武日光間などを結ぶ直通特急が運転されていますが、将来的には羽田空港~東武日光間を結ぶ東武特急が運転されるかもしれません。
【地図】羽田空港アクセス線の3ルート
羽田空港アクセス線の3ルート。点線の部分に新線を建設(青点線は線路増設)する必要がある(国土地理院の地図を加工)。