のっぺり顔から変化 首都圏の通勤形電車
食パンのような形状の切妻構造が一般的だった通勤形電車が変わってきています。首都圏では近年、流線形タイプの車両が増えているのです。
流線形の車両といえば新幹線が思い浮かぶかもしれません。200km/h以上の高速で走行するため、騒音対策や空力性能の観点から先頭が流線形になっています。一方で通勤形電車は停車駅が多いぶん、新幹線や特急列車のように速く走る必要はなく、空力対策で先頭を流線形にする必要性はありません。営業最高速度は最速でも、つくばエクスプレスの130km/hです。
通勤形電車に必要なデザインは「輸送力の確保」。先頭部を流線形にする余裕があるなら、国鉄103系電車のように切妻構造にして、少しでも定員を確保するのが「正解」でしょう。
JR西日本(国鉄)の103系電車と東京メトロ18000系電車。先頭車両の形状はまるで異なる(2016年、児山 計撮影・2021年、伊藤真悟撮影)。
もし定員を減らさずに流線形で先頭車をデザインすると、中間車よりも全長が50cm弱伸びます。特に列車の分割や併結を行う場合、流線形の先頭車が編成の中間に入ると、ほかの列車と扉の位置が合わなくなるという問題が生じます。また、ホームドアが整備された駅でも運用が難しくなるでしょう。
しかし近年は、列車運用の合理化や要員の削減という観点から分割や併結があまり行われなくなり、この制約を考えなくてよい路線が増えています。ホームドアにも大開口タイプが登場しています。
加えて鉄道会社の考え方も変わりました。かつて鉄道会社の看板列車は特急形車両でした。特に有料特急を運行している鉄道会社は意匠や設備に工夫を凝らし、会社のイメージリーダーとして宣伝に使ってきました。しかし有料特急は主に、沿線外から自社の観光地などへ向かう人に利用してもらうための列車であり、日常的に利用する通勤通学客へのアピールには、あまり注力してきませんでした。
首都圏と関西圏 車両に対しても文化の違いが?
そこで、通勤形電車もより個性的にと意匠に力を入れようとしますが、21世紀の通勤形電車の形状は、メーカーがあらかじめデザインした標準車体が主流。車体を塗装すれば、無塗装でメンテナンスフリーという軽合金車体のメリットが消えてしまいますし、窓の大きさなどはおいそれと変更はできません。
そうなると鉄道会社に残された「個性を発揮できる場所」は正面形状になり、会社のイメージを形作る部位として、斜めかつ丸みを帯びた流線形のスタイルが選ばれる結果となりました。
本格的な流線形通勤形電車の登場は、福岡市交通局3000系だろう。ドイツ人デザイナー、アレクサンダー・ノイマイスター氏によるデザインだ(乗りものニュース編集部撮影)。
このデザインは、たった1編成の製造に終わった営団(現・東京メトロ)06系電車などにも例がありますが、本格的に採用され始めるのは2005(平成17)年の福岡市交通局3000系電車からでしょう。その後は東急電鉄7000系電車、東京メトロ10000系電車などで登場。小田急電鉄や京王電鉄も途中駅での分割・併結運用がなくなって以降、流線形の京王5000系電車や小田急5000形がデビューしています。首都圏の通勤形電車ではちょっとした流線形ブームが巻き起こっていると言えそうです。ただし、JR東日本E235系電車や東京都交通局6500形電車のように、従来のような切妻構造で登場する例もあります。機能性を重視したなど、その形に至った理由は必ず存在します。
一方、関西圏では京都市交通局の新型20系電車のほかに、流線形の通勤形電車は全くと言ってよいほど登場していません。近鉄や阪神電鉄のように日常的に分割や併結が行われる路線であればまだうなずけますが、それを原則として行わない京阪電鉄でも切妻構造です。
関西では外見の形状よりも、速度やインテリアでサービスを競う伝統があります。外観はシックでおとなしめのものが多いものの、一歩車内に入ると深々とした座席や凝った内装など、各社の個性が感じられます。エクステリアにこだわる首都圏とインテリアにこだわる関西圏。それぞれの文化の違いでしょうか。
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