新装備は屈指のご長寿兵器
2018年3月27日(火)付で、陸上自衛隊に新たな部隊「水陸機動団」が発足します。水陸機動団は万が一離島などに侵略を受けた場合、速やかに奪還することをおもな任務とした部隊で、いわば日本版海兵隊とでもいうべき部隊です。
韓国海兵隊のAAV7 A1。AAV7は陸上自衛隊とアメリカ海兵隊のほか、韓国、ブラジル、スペインの海兵隊などでも運用されている(竹内 修撮影)。
水陸機動団の発足にあたって、陸上自衛隊はその任務に必要な新しい装備品を導入していますが、そのなかで最も注目されているのが、水陸両用車「AAV7」です。陸上自衛隊が運用する戦車や装甲車は、海上自衛隊のエアクッション艇「LCAC」などの輸送艇に搭載しなければ、離島などへ上陸させることはできませんが、AAV7はおおすみ型輸送艦から発進後、自力で海上を移動して上陸し、収容した隊員を下車させた後は、搭載する機関銃などで隊員を援護する能力を持つ、水陸機動団にはうってつけの装備と言えるでしょう。
陸上自衛隊にとってはピカピカの新装備であるAAV7ですが、実はその歴史は長く、当時「LVTP7」と呼ばれていた最初の量産型は、いまから約半世紀前の1971(昭和46)年に配備が開始されています。AAV7には約半世紀の間に武装の強化や、よりパワフルなエンジンへの換装、防御力を高めるための増加装甲の追加といった改良が施され、水陸機動団やアメリカ海兵隊が運用する「AAV7A1」と呼ばれるタイプは、LVTP7とは別物と言っても過言ではないほど能力が向上していますが、アメリカ海兵隊は将来を見据えてAAV7を後継する装甲車を導入する「ACV」(Amphibious Combat Vehicle/水陸両用戦闘車輌)計画を進めています。
待ちきれなかった、と言うには多少の語弊がある後継機問題
ACV計画はAAV7の後継として、タイヤで走行する装輪装甲車と、履帯(いわゆるキャタピラー)で走行する装軌式装甲車の2種類の装甲車を導入するもので、装輪装甲車を先行して導入する計画となっています。
アメリカ海兵隊はイタリアのイヴェコ社が開発した「スーパーAV」の改良型と、シンガポールのSTキネティク社が開発した「テレックス2」の改良型を最終候補に選定。現在は海兵隊によるテストが行われており、2020年から200両程度の調達が計画されています。
AAV7を後継する装輪装甲車の最終候補のベース車両となった「テレックス2」。
「テレックス2」は車体後部に2基のスクリュープロペラを備えており、時速約11kmで水上を移動できる(竹内 修撮影)。
「テレックス2」と共にAAV7を後継する装輪装甲車の最終候補となった「スーパーAV」(画像:BAEシステムズ)。
装軌式装甲車の導入はその後ということになりますが、アメリカ海兵隊は新型装軌式装甲車が導入されるまでの繋ぎとして、イラク戦争などで得た教訓を基にしたAAV7の改良型「AAV SU」の開発も進めています。「SU」は「Surviability Upgrade(生存性向上)」の略で、AAV SUは敵からの攻撃を受けにくく、また受けた場合でも乗員の命を守ることに重きを置いた改良が施されています。
AAV7の装甲は、最も厚い部分でもその厚さは45mm程度しかなく、機銃弾の直撃や砲弾片からは乗員を守ることができますが、大口径の機関砲弾の直撃や、イラクやアフガニスタンで多用されたIED(即製爆発物)のような兵器による攻撃への防御力は、決して高いとは言えません。またAAV7は水上を自力で移動できますが、その速度は約時速13kmと遅く、水上を移動中に敵の攻撃の格好の的となりやすいという問題も抱えています。
AAV SUはAAV7A1が装着している波型の増加装甲「EAAK」の代わりに、EAAKよりも防御力が高く、かつそれ自体が浮力を持つ複合材料製の増加装甲の装着と、AAV7 A1より強力なエンジンへの換装により、水上移動速度の向上と防御力の強化を一挙に達成することを目標としています。この新型増加装甲の装着により、AAV7 SUは一見するとAAV7とは別の車輌に思えるほど、姿が大きく変わっています。
AAV SUは2019年からの運用開始が予定されており、アメリカ海兵隊は2035年ごろまで、AAV SUを運用する方針を示しています。
後継機は日本製?
AAV7を後継する装軌式車輌が後回しにされた理由のひとつに、アメリカ国防総省が提示した開発費では、アメリカ海兵隊が要求する性能を充たす車両の開発が難しいため、メーカーが開発に名乗りを上げ難くなっている点が挙げられます。とりわけアメリカ海兵隊が要求している水上移動速度のさらなる向上に不可欠な、小型で強力なエンジンの開発には、各メーカーが二の足を踏んでいるとも言われています。
三菱重工が研究開発を進めている「MAV」の模型(竹内 修撮影)。
若干手詰まりな状態になっている感もある、新型装軌式水陸両用装甲車の開発計画ですが、ロイターは2015年6月、アメリカ海兵隊とBAEシステムズ社、ジェネラル・ダイナミクス社といった大手メーカーが、三菱重工の「MAV」(Mitsubishi Amphibious Vehicle)に注目し、その技術を導入するのではないかと報じています。
MAVは三菱重工が将来的に自衛隊へ提案することを前提に研究開発を進めてきた、装軌式の水陸両用装甲車です。AAV7 A1のエンジン(約400馬力)に比べて7倍以上の出力を持つ3000馬力級のエンジンを搭載する計画で、ロイターはこの強力なエンジンによりMAVの水上移動速度は、時速37~46kmに達すると報じています。
2018年3月時点で三菱重工はMAVを、将来陸上自衛隊がAAV7の後継車輌を必要とする時に備えた、技術の蓄積を目的とする車両と位置付けていますが、将来的には水陸機動団とアメリカ海兵隊が、MAVの技術を活用した水陸両用装甲車を運用する可能性も、あるのではないかと思われます。