巨大パーツを運ぶ特別な輸送機
ロケットや飛行機の部品など、普通の輸送機では運べない巨大なパーツ輸送のために作られた飛行機があります。大きな収納スペースを設けたその異形な輸送機は、現在の航空産業においてなくてはならない物になっています。
B-377SG「スーパーグッピー」。巨大輸送機「プレグナントグッピー」のレシプロエンジンをターボプロップエンジンに換装したもの(画像:NASA)。
アポロ計画の輸送用に作られた輸送機
1961(昭和36)年から1972(昭和47)年にかけ、NASA(アメリカ航空宇宙局)が推進していた、月への有人宇宙飛行をめざすアポロ計画。この計画のために巨大なロケットの部品を輸送する航空機が必要になり、ボーイングの輸送機C97「ストラトフレイター」をベースに作られた巨大輸送機「プレグナントグッピー」(妊娠したグッピーの意)が使用されていました。
爆撃機B-29を原型としているC97「ストラトフレイター」、それをベースに作られた巨大輸送機「プレグナントグッピー」(画像:NASA)。
ところが、この機体だけでは輸送が追いつかず計画が遅延するということで、エンジンをレシプロからターボプロップに換装した「スーパーグッピー」(B-377SG)を開発します。
エアバスは「白イルカ」
「スーパーグッピー」はNASAの輸送だけではなく、ヨーロッパでエアバスの航空機パーツ輸送でも活躍します。1971(昭和46)年から使用されていましたが、エアバスはそののち自社で専用の輸送機を開発します。それが「エアバス・ベルーガ」です。
「ベルーガ」のベースとなったA300-600R。写真は輸送機型の600F(石津祐介撮影)。
白イルカの愛称を持つA300-600ST「エアバス・ベルーガ」(画像:santirf/123RF)。
A300-600Rをベースに開発され、正式名称はA300-600ST(Super Transporter)。その外見から「白イルカ」を意味する「ベルーガ」という愛称で呼ばれました。
「ベルーガ」はA320や330など航空機のパーツ輸送に活躍していますが、巨大な旅客機であるA380のパーツはこれに収まらないため、船や鉄道で輸送します。
ボーイング787専用の輸送機、「ドリームリフター」
ボーイングの最新鋭機である787を製造するために、日本やイタリア、そしてアメリカの各地からワシントン州にあるボーイングのエバレット工場へとパーツを輸送する専用の大型航空機があります。ボーイング747-400型を改造したLCF(Large Cargo Freighter)型で「ドリームリフター」という愛称で呼ばれています。
中部国際空港へ着陸する「ドリームリフター」(石津祐介撮影)。
貨物の積載容積は747-400Fの3倍もあり、垂直尾翼は延長されている(石津祐介撮影)。
787の主翼部分が積み込まれ、ワシントン州のエバレット工場へと運ばれる(石津祐介撮影)。
日本では、愛知県から787の主翼部分が輸送されており、中部国際空港でその姿を見ることができます。
旧ソ連の巨大特殊輸送機
アメリカやヨーロッパと同じように、旧ソ連にも特殊な専用輸送機が存在します。
VM-T「アトラント」は、ソ連版スペースシャトル「ブラン」を輸送するために爆撃機を改修して開発されました。「グッピー」のように収納スペースを機体と一体化させるのではなく、巨大な収納スペースを背中に乗せて飛行するというシンプルなスタイルでした。VM-Tは1982(昭和57)年に運用が開始されましたが、その後1989(平成元)年には、積載量と操縦性に優れたAn-225「ムリヤ」が登場し、「ブラン」の輸送が引継がれることになります。
そのAn-225ですが、初飛行からわずか数年でソ連が崩壊し、運用予算も打ち切られたため、その後はウクライナで長年スクラップ状態になっていました。2000(平成12)年、超大型輸送機のビジネス需要にともない現役復帰を果たし、現在もなお世界最大の輸送機としてその特徴を活かし運用されています。
最大離陸重量など240のギネス記録を持つAn-255「ムリヤ」(画像:icholakov/123RF)。
An-225のベースとなった輸送機An-124「ルスラーン」(石津祐介撮影)。
様々な特殊輸送のために作られた異形の輸送機ですが、その類を見ない輸送能力から多方面で活躍することとなりました。今後は、新たなプロジェクトや新しい航空機の開発にともなって、想像もつかない輸送機が登場するかもしれません。