デートにおける食事の“割り勘論争”は、すでに語り尽くされた感がある。
今や割り勘にするか、男性がごちそうするかは、そのカップルに委ねられている。おごってくれない男性が嫌ならば、そうした男性とは付き合わなければいい。男女平等の社会なのだから、割り勘のほうが気楽でいいと思っている女性も多い。
仲人をしながら婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、婚活事情をさまざまなテーマ別に考えていく当連載。今回は「割り勘すぎる問題」について、事例をもとに考えてみる。
割り勘のほうが気楽だと思う
きみえ(41歳、仮名)は、公務員で働く自立した女性だ。彼女は、入会面談のときに、こんなことを言っていた。
「公務員の世界って男女の賃金が平等なので、役所で催される行事や宴席のときに、会費が男女同金額なんですね。私はそうした環境にいるので、割り勘には抵抗がありません。むしろごちそうになっちゃうと、相手に借りを作ったようで気が重い」
そこで筆者は、結婚相談所でのお見合いは、お茶代を男性側が払うというのが了解事項なっていることを話した。
ただ、このときに女性は、ごちそうになることに当たり前の顔をするのではなく、「お支払いはどうしたらいいですか?」と、確認することを忘れてはいけないとも付け加えた。
婚活をスタートさせたきみえだが、一方的にお茶代を出させるのは心苦しく思ったのだろう。お見合いにはコーヒーチェーン店のコーヒーチケットや小さなお菓子を持参し、渡していたようだ。
ある日のお見合いは、ホテルのティーラウンジだった。
そこは、コーヒーと紅茶が、1800円という価格設定だった。見合い相手のよしふみ(42歳、仮名)はそれを知らなかったようで、着席して運ばれてきたメニューを開くと、驚きの声を上げた。
「うわっ、コーヒーが1杯1800円もするんですね。さすが一流ホテルは、高いなー。あ、でもおかわりできるんですね」
きみえは紅茶、よしふみはコーヒーを注文したのだが、運ばれてきたコーヒーをまじまじと見つめながら、一口飲むとよしふみは言った。
「味は、普通。これに1800円も取るのは、ホテルという場所代なんですかね。ただ、お代わりができるみたいだから、2杯飲めば1杯が900円か……」
しばらくはコーヒーの話題から離れようとしなかった。そこで、きみえは苦笑いしながら言った。
「落ち着いた空間ですし、ホテルのティーラウンジは小さな子どもや学生さんはいないじゃないですか。今日はゆっくりお話ができますよ」
お茶代は出すように言われたが…
そしてお見合いがスタートしたのだが、仕事や趣味、休日の過ごし方など、いろいろ話をしてみると、よしふみはフランクな性格で、仕事にも前向きだった。また、多趣味で雑学にも詳しく、会話は楽しかった。
1時間半くらい話し、「じゃあ、行きましょうか」と立ち上がろうとしたところで、よしふみが言った。
「『お茶代は、男性が出してください』と仲人から言われているんですけど、この値段なので……」
何が言いたいのか、きみえは察した。
「あ、私のぶんは自分で払いますよ」
そして別々に会計を済ませ、その日は、用意していったコーヒーチケットは渡さず、そのまま帰ってきた。
このお見合いの一部始終を筆者に報告しつつも、きみえはよしふみに交際希望を出した。
「年収も私と同じくらいだし、気を使わないでお付き合いできるかなって。何より話が面白い方だったので、もう少しお会いしてみたいなと思いました」
よしふみからも交際希望が来て、2人は仮交際に入った。
ファーストデートは、美術館で絵を見たあとに食事をすることになった。
なぜ美術館デートになったかといえば、よしふみが好きな作家の個展を期間限定でしていたからだ。その作家の画風は、きみえが好きなタイプではなかったのだが、“まあ、お付き合いで観てみるのもいいか”と思ったそうだ。
その約束を取り付けたLINEに、こう書かれていた。「では、14時に美術館の入り口を入ったところで、待ち合わせをしましょう」。
金銭感覚が「なんか違う」
14時に美術館に行き、入り口で5分待ったものの、よしふみは現れない。10分を過ぎた頃に、きみえはLINEをした。
「入り口で待っています」
すると、即レスがきた。「僕は、もう中にいますよ。入り口を入ってきてください。左側にいますよ」
そこで約束したときのLINEを読み返すと、「美術館の入り口を入ったところ」と書かれており、各々がチケットを買って、中で待ち合わせをするのだと初めて気がついた。
“彼が誘ったのだから、チケットは2枚用意しておいてくれるはずだ。もしそうだったとしたら、終えてからの食事は私がご馳走しようか”と思っていた自分に苦笑いした。おそらくその後の食事も、キレイに割り勘になるだろう。
絵を観終えて、食事に行くことになった。
「よく行く店があるから、そこに行きましょう」
よしふみに連れていかれたのは、入り口で自分の飲むお酒と料理を買って、テーブルにつくタイプの店だった。
「お先にどうぞ」と促され、お腹が空いていたきみえはビールとピザとサラダを注文し、会計を済ませた。その後、よしふみはグリルソーセージ、アヒージョ、パスタとビールを買っていた。
飲み物はその場で渡さされ、料理はテーブルに運ばれてくる形式で、2人はビールを片手に、空いている席を見つけて着席した。
料理が運ばれてくると、よしふみは自分が頼んだものを自分のところに引き寄せ、おいしそうに食べていたので、きみえも自分が頼んだピザとサラダを食べるようにした。
会話は展覧会で観た絵の話になり、よしふみは作家の生い立ちや、なぜあの作家の絵が魅力的なのか熱く語っていた。また、きみえはどんな絵が好きなのを尋ねてきた。
そこから、休日の過ごし方や趣味の話にもなった。出かけたことのある海外旅行にも話は及んだ。
きみえは、話しながら思った。
(これまでお見合いをしてきた男性たちは、こんなふうに自分から話題を振ったり、話を展開させたりする人はいなかった。話をしているぶんには楽しい。ただ、すべてにおいてキレイに割り勘なのが引っかかる)
そんなことを考えていると、よしふみが言った。
「そのピザ、1枚もらってもいいかな」
「どうぞ」
「よかったら、僕の料理も好きなのを食べてよ」
仮交際とはいえ、これから未来に結婚を見据えて交際に入った相手だ。そして今日は初めてのデート。一緒に食事をしているのにシェアもせず、相手が買ったものを食べるときには、「あなたの料理、食べてもいいですか?」と、ことわりを入れる。
デートというよりは、“会社の同僚と食事に来ているような気分”になっていた。
デートで明朗会計すぎて…
そして、ファーストデートを終え、きみえは交際終了を出してきた。きみえは、筆者に言った。
「悪い人ではないのだけれど、おそらく彼のことは男性として好きにはならない気がしました。明瞭会計なのはいいのだけれど、なんだか“ちゃっかり感”が拭えなかった。友達ならいいけれど、異性として恋愛感情を抱く相手ではないと思ってしまいました」
かつての日本は、社会や職場での地位が男性のほうが高かった。なので、デートの際に男性が食事をおごることが一般的なこととされていた。
またごちそうできるというのは経済的な余裕の表れであり、これが恋人や結婚相手の対象として男性を見たときに、魅力の1つにもなっていた。
だが、女性の社会進出が進み、社会でも職場でも男女平等が浸透した。そこで出てきたのが“割り勘論争”だろう。
支払うのは「もてなし」の表れ
男女平等の社会なのに、“食事は男性がおごって当然”と女性が主張するのはおかしい。割り勘にする男性を批判するのは、お門違いだ。
ただ、ごちそうするというのは、人をもてなす気持ちの表れだ。
相手に対して気を使える、優しさや配慮の表れでもあるだろう。ごちそうする、イコール“あなたに対して特別な感情や関心を持っている”と、相手に感じさせることにつながる。
婚活においては、女性にごちそうできる男性のほうが一歩リードできるというのは、確かなことだ。
支払う側も、支払われる側も、そこはしっかり理解しておくべきではないだろうか。
(鎌田 れい : 仲人・ライター)