「音楽の仕事をしていて、ミュージシャンとして生活をしているなかで、『ドラえもん』のように大きな作品に携われることはすごい光栄なこと。話が決まった時には夢を見ているような感覚で、なかなか実感は湧きませんでした」
「自分も見ましたね、テレビアニメも映画版も。日本のも英語のも、スペイン語のも。言葉が違うし声優さんも違うのに、見ていて受ける印象や入ってくるイメージが違わないのはすごいなあって思います。好きだったエピソードもいろいろあるんだけれど、思い続けているのは、やっぱり、どこでもドアが欲しいっていうことですよね。僕は移動するのがすごく嫌いというか、苦手なんですよ。本当に(笑)」
『ドラえもん』と『THE GIFT』は互いに共鳴しあっているように感じる。
「月には何があるんだろうとか、夜空を眺めて月に想いを馳せたりすることってあるじゃないですか。そういう程度ではあるんですけど、僕も月には興味を持っています。ロマンティックな部分、月がなくなったら地球上の生きているものがすべて絶滅してしまうような日常生活にはなくてはならないものでもあるとか。そんな身近な存在なのに行ったことがある人は数えるほどしかいないんですよね。そういうところにますます魅了されますね」
「月というテーマに対してポジティブなものが表現されている。そこに携われるのはうれしかった」と言う。時代を超えて愛される『ドラえもん』に最大の経緯を払いながら、自身の音楽と重ね合わせていった。
「古くからある作品ですから、これまで携わった人がどういう想いで作品に臨んできたのか、そうやって大事に作られてきた『ドラえもん』を見る方はどんなふうに見て、何をピックアップしているのかといったことを吸収して、曲作りを始めました」
「普段は、自分が興味があるもの、いいなと思ったものを、自由に音楽として表現している」が、今回のケースは、いうなれば「お題」が提示された形。
「今回のように題材があって曲を作るというのも何曲かさせていただいていますが、違いがあるかっていえば……もともと題材があるので、自分が考える手間が省けるといえば省けるってことぐらい(笑)。どちらにせよ、僕はまずテーマを作ってそこに向かって曲を作っていくので、そうゆう意味ではいつもとは変わらない。それに、先ほど言ったように、月は自分も興味を持っていたことだし、いつも通りに制作できたかと思います」
「子どもたちが見る、その親御さんの世代も見るということを考えると、普段の曲よりも、もっと広い視点を持ったほうがいいんだろうなとか、歌詞もたくさんの方の気持ちだったり、いろんなカタチに柔軟にフィットできるメッセージにしたいという意識はありましたけど、それも楽しんで作りました。……とはいえ、僕は、曲を作っていて、つらいとか苦しいとか思ったことがないんですよね。曲を作るのは大好きだし。嫌だなとかつらいとかは、たぶん、楽しさが凌駕しちゃってるんでしょうね。夜眠くなってくるとかはまあ、“つらい”なのかもしれないですけど(笑)」
「親の世代に懐かしい気持ちを感じてほしいというのがまず一つあって、それを一緒に見に行った子どもたちが両親が青春を過ごしてきた時代の音楽を新鮮なものとして捉えてもらえるようなきっかけになったらいいなと思います。僕自身は昔の音楽からのインスパイアがすごく多いんですけど、それは自分の父が聞いていた音楽が自分の隣にあるからだってことには間違いないですし、そのなかで自分がこれが好きだなって思ったものを、ピックアップして、聴くようになっていったんだと思うんです」
「作品というのは受け継がれているものだし、受け継がれていく工程を経て、それが文化としてまた新しいものを生んでいく」と、本人。
「90sや80sのカルチャーが見直されていて、めちゃめちゃ新しい曲でニュージャックスイングの雰囲気が前面に出ている曲があったり、アナログシンセをいっぱい使った曲があったりします。そういった曲って、音楽の歴史やこれまでの音楽の流れが培ってきたものなんですよね。その前には、ロカビリーがあり、ロックンロールがあり、ブルースがあり、カントリーがあったりする。そのうえで、今のポピュラーミュージックができているし、そうやって後世に受け継がれていくような音楽を作っていきたいと思っています。そういった意味でも、今回の『ドラえもん』はすごいうれしかった」
『THE GIFT』が全国の映画館やテレビCMで流れ始めた。きっと、これまで届かなかった人の元にも、平井の声が届くだろう。
「2019年は充実した1年になると思います。たくさんのものを残す、たくさんの贈り物ができる年にしたいと思っています」