とんかつが食べたくなったら…
理由ははっきりとは分からないが、高田馬場にはとんかつ専門店が多い。
もともと古くから営業を続ける店があることに加え、2010年にオープンした成蔵が行列店に成長したことから、老舗が集まる上野に次ぐ「とんかつの聖地」として、近年注目を集めている。
他店との差別化を図るためか、どの店も実に個性豊か。
贔屓(ひいき)の一軒を見つけて通い詰めるのも良いが、1人でふらっと立ち寄ってみたり、友人と楽しんだり、シチュエーションに合わせて使い分けるのが良いのではないだろうか。
行列店が多いのが難点だが、これだけ選択肢があれば食いっぱぐれることもないはず。
1.成蔵

成蔵の店舗は地下にあるが、その行列は常に地上まで続いている。
ロースは並、上、特の3種、ヒレは並、特の2種を用意。
ヒレの特は、牛肉のシャトーブリアンに当たる、ヒレの中でも最も柔らかい部分を使用しているため「シャ豚ブリアン」と命名。
店の看板メニューとなっている。とんかつは純銅製の鍋を使用し低い温度から揚げ、余熱で火を通すことでしっとりとした食感を作り出している。
色の薄いふんわりとした食感の衣は肉を優しく守っているようだ。
通常使用している霧降高原豚のほか、不定期で銘柄豚も用意されており、選択の幅は広い。
行列を避けるのは困難だが、店の客さばきも慣れたもので、列に並んでいるうちに注文を取ってくれ、着席してからはそれほど待たずに食事にありつけるだろう。
至極のとんかつ体験が待っているので、テーマパークに来たと思っておとなしく並ぼう。
2.とん久

長時間並ぶのに耐えられないという人は駅前のビルの地下街に店を構えるとん久へ。
人気店ながら、並んだとしても常識的な待ち時間で入店することができるだろう。
店の看板とも言える『特選ロース定食』のロースには、千葉県の銘柄豚『林SPF』を使用。
脂の味に定評があり、そのままでも胃がもたれる心配はないが、セットで付いてくるおろしポン酢を合わせればさっぱりと食べられる。
酸味が効いた特製の生ソースも肉の味を邪魔することはない。とんかつの付け合わせとしては珍しいナポリタンも、キャベツと並びこの店では欠かせない存在だ。
『特選ヒレかつ定食』に使用するのは、1頭から2人前しか取れないという、ヒレの中でも最も上質な部分だ。
衣はロースに使用しているものよりも細かく薄付き。ヘルシーだからという理由でヒレを選んだ人が、知らず知らずのうちに余分な油を摂取するという悲劇を防いでいる。
こういった細やかな気配りも同店の魅力。例えば、多くの店が実施しているキャベツのおかわりも、とん久ではとんかつが運ばれてくるより先に頼むことができる。
血糖値の上昇を抑えるため食前に野菜を摂りたいという人も多くいるなかで、このサービスはありがたい。またサイドの汁物も、豚汁としじみ汁から選択可能。
それぞれが持つとんかつへのこだわりを漏らさず叶えてくれるとんかつ好きのオアシスだ。
2.とん太

とん太は、東京屈指のとんかつの名店として知られているが、店の佇(たたず)まいは実に奥ゆかしい。
とんかつ自体も、ほかの人気店のように肉が分厚いわけでも、レアで揚げているわけでもなく派手さはない。
それでも上質な豚肉と軽い食感の衣、絶妙な揚げ具合など、基本をしっかりと押さえた王道の魅力に多くのファンが虜になり、開店前から店の前には老若男女が列を作っている。
とんかつはシンプルながら、食べ方は自由。
注文すると程なくテーブルにはゴマが入ったすり鉢が運ばれ、カウンターにもソースのほか、2種類の塩に黒コショウなど調味料の容器が並ぶ。
客に食べ方の選択肢をこれだけ与えるのも味への絶対的な自信ゆえなのかもしれない。
ロースは、弾力がありながら歯切れが良く、さらりと溶ける脂とのコントラストをしっかりと感じさせる。
ヒレはカットこそ大きくないものの、しっとりとした仕上がりで、1,020円のランチ定食でもしっかり満足させられるだろう。
4.とんかつひなた

とんかつひなたは2017年1月にオープンしたばかり。
激戦区に新規参入するとはなんとも恐れ知らずだが、ほかの店では味わえないとんかつが待っている。
通常とんかつ店での選択肢はロースかヒレだが、豚を一頭買いで仕入れている同店では様々な部位を楽しめる。
ロースの脂が好きな人はぜひ『上リブロースかつ定食』を頼もう。脂たっぷりのジューシーな食感はとんかつを食べていることを忘れるほどのインパクトだ。
普段ヒレ派という人は『らんぷかつ定食』を是非。キメの細かい肉質で脂が少なく、豚肉本来の味わいが凝縮されている。
ソースも用意されているが、オリーブオイルと2種類の塩で食べるのがおすすめ。
ほかにも単品で、外モモと内モモに挟まれた『しきんぼかつ』、焼肉でも人気の『とんとろかつ』など希少部位が用意されている。
肩肉で作ったチャーシューがごろごろ入ったスープも個性的だ。4人から予約可能のコース(ほかに希望者がいた場合2人でも予約可)ならば、メニューにある全ての部位を食べ比べることができるので、食いしん坊な仲間を集めて訪れよう。
5.とんかつ いちよし 高田馬場店

いちよしは『ロースかつ定食』680円というリーズナブルな価格で人気を博している。
もちろん、この街では安いだけで相手にされることはない。
そのクオリティにも目を見張るものがあるのだ。
店に到着すると入り口にかかった真っ白なのれんが目を引く。
掃除の行き届いた店内や、「安いからといって甘く見るな」と言わんばかりにきびきびと作業をこなす従業員の働きぶりからも、とんかつへの期待が高まる。
他店では2,000円超えすることも多い『上ロース定食』でも1,100 円と安価だが、この店の実力を知るため、まずは通常の『ロースかつ定食』を注文してほしい。
690円という価格を疑いたくなるほど分厚いとんかつに驚かされるはずだ。
ただ厚いだけでなく筋切りも丁寧にされており、揚げ具合もちょうど良い。
衣はカラッと肉はしっとりとした理想的な仕上がりだ。
人気店ながら多くの客がさっと食べて店を後にするので回転は速く、食事時から少し時間をずらせば待たずに席に着くことができるだろう。
テーブル席も設けられているが、カウンターメインでなので1人でも気軽に利用できる。