2020年度前期の“朝ドラ”こと連続テレビ小説「エール」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか)。11月16日~放送の第23週「恋のメロディ」は、裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の娘・華(古川琴音)の恋物語が描かれた。朝ドラ後半戦の見どころのひとつである、主人公の子どもを演じた俳優たちを、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)
裕一と音の娘・華の恋物語
「エール」第23週「恋のメロディ」は、裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の娘・華(古川琴音)の恋愛エピソード。
裕一が、盟友にして作家の池田二郎(北村有起哉)と組んで大ヒットしたラジオドラマ「君の名は」は、作家の思惑――社会問題を扱った作品――ではなく、主人公のすれ違いの“恋”が受けたことになぞらえた恋の物語。
看護婦として病院で働きもうすぐ25歳になる華。仕事に夢中だった彼女が入院患者でロカビリー歌手の霧島アキラ(宮沢氷魚)を「運命の相手」と感じて結婚しようとするが、クラシック一辺倒の裕一はロカビリーに理解がなさそうで……。この恋の顛末は最終週まで引っ張る形に。
娘らしい恋の感情をビビッドに演じる華役の古川琴音は「この恋あたためますか」(毎週火曜夜10:00-10:57、TBS系)で森七菜演じる主人公の友人を演じ、この秋大活躍の1996年生まれ。娘の恋をあれこれ心配する母役の二階堂ふみは1994年生まれ。年の差、わずか2歳ながら、仲の良い母娘のように見えるのだから、お芝居っておもしろい。古川は等身大で無邪気な雰囲気を出し、二階堂はけっしてそのノリに引っ張られず、ゆったり堂々と受ける。
朝ドラの定番、年齢差のないヒロインと子供
年令が近い母子役というスタイルは朝ドラでは珍しくない。ヒロインが新鋭であることが多いため、ヒロインの半生を描いたドラマの後半、その子供役が、ヒロインをやってもおかしくない世代の俳優にならざるを得ないのである。それによって、さほど年齢が変わらない俳優と並んで、二階堂のように、年齢を経た姿を演じるのが巧いなあと感心する楽しみと同時に、ヒロインが落ち着いてしまった分、今一度、溌剌とした若い俳優を見る楽しみがある。
前作「スカーレット」(2019年度後期)では母役戸田恵梨香は1988年生まれ、息子役の伊藤健太郎は1997年生まれで10歳差。姉弟という年齢差だが、戸田恵梨香が肝っ玉母ちゃん感をよく出していた。
「まんぷく」(2018年度後期)では安藤サクラが1986年生まれ、娘役の小川紗良が1996年生まれと、やはり10歳差。「スカーレット」と「まんぷく」の2作は、ヒロインを演じる俳優の年齢を三十代にあげたため、子供役と10歳の差がついたが、たいていは十代後半から二十代がヒロインとなるため、今回のような同世代による親子演技になる。
「わろてんか」(2017年度後期)では葵わかなが1998年生まれで、息子役の成田凌が1993年という母親役のほうが年下という難しいシチュエーションになった。ただ、息子の場合、いつまでも若くてかわいい母という微笑ましい雰囲気ができあがる。
同い年で母娘役をやったのは「マッサン」(2014年度後期)のヒロイン役シャーロット・ケイト・フォックスと娘役の木南晴夏。ふたりは1986年生まれ。外国人のシャーロットが演技力があるうえ、大人ぽく見えるのと、木南晴夏も演技力があるうえ、少女ぽく見えるのでバランスがいい。さらにいえば養女設定だったので違和感があってもおかしくないのだった。
主人公の子ども役は登竜門のひとつ
朝ドラヒロインは芸能界の登竜門であって、ヒロインをやると全国区の人気を獲得し、その後も活躍していくことになるが、ヒロインの子供役は朝ドラ後半戦に登場して、全国にお披露目できるチャンス。ここで爪痕を残すことができれば、確実にあとにつながる。
「ごちそうさん」(2013年度後期)のヒロイン役の杏(1996年生まれ)の長男は菅田将暉(1993年生まれ)。野球を愛する熱い青年は好感度が高く、大河ドラマ「おんな城主直虎」でも後半戦、ヒロイン直虎(柴咲コウ)の息子のような存在・井伊直政(ヒロインが後見人となる若武者)を演じた。そして、2022年の大河「鎌倉殿の13人」では義経役と発表されたばかり。
「わろてんか」の成田凌も、この数年、映画やドラマで活躍し、次作「おちょやん」ではヒロインの夫役に昇格した。
前半は、ヒロインと対になる親友やライバル、もしくは、強力な敵になる姑や小姑、大きな影響を与える母親、後半は、子供が、ヒロインの生き方に揺すぶりをかけてくることになり、責任重大だ。
「あさが来た」(2015年度後期)のヒロイン・波瑠(1991年生まれ)の娘役・小芝風花(1997年生まれ)は、仕事一筋の母親に反抗する役割だった。小芝風花はここで、がむしゃらに働く母と違っておっとりとしたお嬢さんという雰囲気を出し、以後、「トクサツガガガ」などで頭角を現していく。
主人公を立たせると、子供はたいてい、母に反抗する役割になってしまうもので、「べっぴんさん」(2016年度後期)のヒロイン・芳根京子(1997年生まれ)の娘役・井頭愛海(2001年生まれ)も仕事ばかりの母に反抗して夜遊びするようになってしまう。反抗的な娘という点で、やな子に見えかねないのだが、そこを愛される役にできるかできないかが勝負のしどころでもある。
「エール」の華はさほど反抗的でなく、母親と仲良し。父・裕一にも愛されているので、穏やかな気持ちで見守ることができる。最終週で華が幸せになることを楽しみにしている。(文=木俣冬)