女優・戸田恵梨香がにわかに注目を集めている。本日6月11日(木)から25日(木)までの期間に、TBSほかでは「SPEC一挙放送SP」(夜11:56-0:55ほか/金曜は夜0:20-1:20※一部地域を除く)がオンエア。同じくTBS系の「大恋愛~僕を忘れる君と 特別編」をふくめ全4作が、“名作ドラマ”として再放送されSNSなどで“戸田恵梨香祭り”として話題だ。そんな戸田の魅力について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。
3月までは朝ドラ「スカーレット」でヒロインを
2020年は戸田恵梨香イヤーかと思うほど戸田恵梨香がテレビに出ている。3月までは主演作、“朝ドラ”こと連続テレビ小説「スカーレット」(NHK総合)が放送されており、戸田は中学生から48歳まで主人公の半生を演じた。
ドラマの最後は、病気になった息子(伊藤健太郎)を想い、最後まで希望を失わない強い母として立つ戸田の姿に多くの視聴者が涙した。
大役が終わった途端、戸田の俳優半生を振り返るかのように、過去の出演作が続々再放送されはじめた。
これには新型コロナウイルス感染予防のためドラマの撮影が休止になったという理由があるが、「野ブタ。をプロデュース」(2005年、日本テレビ系)、「大恋愛~僕を忘れる君と~」(2018年、TBS系)、「鍵のかかった部屋」(2012年、フジテレビ系)、「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」(2010年、TBS 系)と、4作も戸田出演作が放送される事態に、ネットでは「戸田恵梨香最強」「戸田恵梨香祭り」との喜びの声が多くあがっている。
「スカーレット」も含んだ5作、どれもまったく違う役で、その演技の幅広さには「演技力が神」という賛辞もあがるほど。
酸素吸入器を傍らに置いて絶叫
本放送の放送順に挙げていくと、まず「野ブタ。」の戸田は、主人公・修二(亀梨和也)が好きでお弁当をいつも作ってきている女子高生。制服の戸田恵梨香は、再放送を見た視聴者から「可愛い」「可愛い」と連呼されていた。
デビューから5年、まだ十代の戸田は頬がふっくらしてあどけない少女ながら、いじめられっ子の信子(堀北真希)に優しく接し、周囲に流されない凛とした人物であった。
戸田恵梨香が演技派俳優になっていく過渡期で、翌年、映画「デスノート」(2006年)のアイドル・ミサミサこと弥海砂役を演じ、可愛さで画面を制していたが、その後は、「コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命」シリーズ(2008年~、フジテレビ系)、「BOSS」(2009年、フジテレビ系)などで、可愛さばかりが売りではない、登場人物の内面に迫っていく役を演じるようになっていく。
2010年になると、代表作となる「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」の当麻紗綾役に戸田はほぼすっぴんで臨んだ。
京大出身の天才刑事・当麻は見た目に構わず髪の毛はボサボサで、なぜかずっと腕に包帯を巻いている。“SPEC(スペック)”という謎の力を使う者たちと対峙していく。
激化する戦いの場面を撮影する際は、酸素吸入器を傍らに置いて絶叫していた戸田恵梨香。華奢な身体のどこにそんなパワーがあるのかと驚くような力強さを発揮していた。
一見、ぶっきらぼうでがさつに見えて、実は繊細で思いやりがあって……という当麻の人物造形は戸田恵梨香の演技によってとても愛おしいものとなった。
2012年、大野智主演の「鍵のかかった部屋」では新人弁護士・青砥純子役。弁護士・芹沢(佐藤浩市)のアシスタントをつとめている。ひっつめた髪型、パンツスーツで通す、真面目な人物だが、ちょっと変わったところもあって、そのギャップにナチュラルな可笑しみが宿る。大野と佐藤のアシストも絶妙だった。
2018年、「大恋愛~僕を忘れる君と~」は若年性アルツハイマーにかかる産婦人科医・尚役。婚約者がいながら、大好きな小説の作者である間宮真司(ムロツヨシ)に惹かれ、彼への愛を貫くも、じょじょに記憶を失ってしまう。
きびきび働く優秀な医者が記憶を失くして弱さを露呈していく、その変化が切なければ切ないほど、真司と尚の純愛が際立っていく。恋愛ドラマが求められてない時代だなんて嘘のように盛り上がり、恋愛ドラマ復活の急先鋒となった。
“たくましい母”役も
朝ドラヒロイン決定の発表があったのは「大恋愛」放送中の2018年12月。三十代の朝ドラヒロインは珍しく、キャリア重視の抜擢で、その期待に戸田はみごとに応えた。
十代のヒロインが大阪で女中として働いているときの無垢さから、地元に戻って陶芸をやりながら、結婚、離婚を体験し、女手ひとつで息子を育てていくたくましさまで人間の成長と変化を戸田は確実に演じた。
当麻のようなすっぴんとまではいかずとも、身なりにさほど構わない、故郷の山のなかで土と共に生きる姿は清々しかった。
途中、女性絵付師としてロリータファッションのような出で立ちで、アイドルのように扱われるエピソードがあり、その姿はかつての「デスノート」のミサミサを彷彿とさせるものだったが、三十代ながら、メイクや衣裳でこんなにアイドルふうにもなれることがわかり、あえて、そういう路線を選んでこなかった戸田恵梨香の道を思って感慨深いものがあった。
戸田恵梨香の過去の出演作は他にも「流星の絆」(2008年、TBS系)、「大切なことはすべて君が教えてくれた」(2011年、フジテレビ系)、「書店員ミチルの身の上話」(2013年、NHK総合)、「SUMMER NUDE」(2013年、フジテレビ系)「リバース」(2017年、TBS系)……等々、まだまだ再放送してほしいものがたくさん。
だが、緊急事態宣言解除後、中断していたドラマ撮影もようやく再開されはじめ、再放送祭りもそろそろ終了か。再放送もいいけれど、戸田恵梨香とはまた新作で会いたい。(ザテレビジョン)