芋生悠が村上虹郎とW主演を務める映画「ソワレ」が8月28日(金)に公開される。
役者を目指して上京するが、結果を出せずに詐欺に加担して食いぶちを稼いでいる若松翔太(村上)が、高齢者施設で演劇を教えるために故郷・和歌山に帰ってきた。
その施設で働く山下タカラ(芋生)と出会い、ある事件をきっかけに先の見えない二人だけの逃避行が始まった。
本作は、俳優の豊原功補と小泉今日子らが立ち上げた「新世界合同会社」の第1回プロデュース作品で、「此の岸のこと」「燦燦―さんさん―」などを手掛けた外山文治が監督を務めている。
今回、WEBサイト ザテレビジョンは芋生にインタビューを実施。“タカラ”役を勝ち取ったオーディションのこと、プロデューサーの豊原と小泉のこと、W主演の村上のこと、作品や演じる役への思いなどについて、語ってもらった。
――この作品への出演はオーディションで決まったんですね。
はい。監督が外山さん、プロデューサーが新世界合同会社の豊原さんと小泉さん、相手役が村上虹郎さんというのはオーディションを受ける段階で決まっていました。
信頼できる方たちが集まった作品だなって思いましたので、「絶対にやる!」という気持ちで挑みました。
――真剣に「この役を取りにいくぞ」という。
はい(笑)。オーディションでは、村上さんを相手にお芝居をさせてもらいました。
“はじめまして”だったんですけど、お芝居が始まった瞬間に“うそがつけない”空間になったんです。
気持ちが引き締まって、“村上さんとのお芝居の中では絶対にうそはつきたくない。本当の気持ちから出てきた言葉を発したい”って。
オーディションなんですけど、その時のお芝居が純粋に楽しかったので、帰り道も「楽しかった!」って思い返しながら歩いていました(笑)。
なので、受かったという知らせを聞いた時はすごくうれしかったですし、必然的にこの役を頂けたんだなって思いました。「絶対にやりたい!」という気持ちも伝わったのかなぁって(笑)。
――プロデューサーとしての豊原さんと小泉さんはどうでしたか?
ずっと現場にもいてくださって、一緒に闘っているような感じでした。「ああしたらいい」とか「こんなふうにした方がいい」とか、具対的に言葉で伝えるということは特にありませんでしたけど、静かにそばで見ていてくれるというか、見守っていただけているだけで安心感がありました。
役者としていろんな経験をされてきて、私たち後輩に役者として思いきり自由に表現できる場所を、環境を作ってくださったんだなって。
――外山監督は?
監督は“タカラ”と“翔太”という二人のどちらも持ち合わせているような存在だったので、現場で事細かに指示するというのではなくて、一緒に感情移入してくださっていた感じでした。
魂を感じるというか、“死ぬ気でやる!”という気持ちで臨んでいらして、その監督の熱量は現場でも感じていましたし、私も同じ気持ちだったので、ずっと切磋琢磨していたような気がします。
――大半が“翔太”を演じる村上さんとのシーンですが、共演してみての印象は?
村上さんとは、撮影中も撮影の合間もほとんど会話もなくて、プライベートな話もしてないので、どういう人なのか今でも分からないところがあります。
――あえて“翔太”と“タカラ”として接していた、と。
そうですね。その二人の距離感を作っていたという感じはあったと思います。村上さんの眼は宇宙みたいでした。
無垢で、真っすぐで、それでいてちょっと怖くて。同じ景色を見ていても、たぶんみんなとは違う景色が見えているんだろうなって。
でも、包容力というか、そこはかとない愛というか、誰に対しても愛を向けているのをお芝居の中で見えたのが、私の中ではうれしいことでした。
芋生「自分が演じることでタカラを希望のある子に持っていきたい」
――演じたタカラは、芋生さんから見てどんな子ですか?
タカラは、幼少期から見なくていいものを見ていて、穢(けが)れた世界を知っていて、すごいトラウマも持っていて。
その中で諦めている子ではありますけど、その諦めている中にもかすかな光、きれいなモノをずっと持ち続けているというか、守り続けている子なんです。
その“暗闇の中でちょっとだけ光っている”というところに強い子だと感じましたので、“タカラになる”のではなく、“タカラと一緒に歩む”ことを選択して、一番近くで寄り添いながら、自分が演じることでタカラを希望のある子に持っていきたいなって思いました。
――「いいなぁ、役者って。いろんな人生を生きられるから」というタカラのセリフがありました。芋生さん自身、役者としていろんな役を演じられているので、このセリフに対して思うことがあるんじゃないかと思ったんですが。
はい。役者をしている翔太に向けての言葉なんですけど、翔太は迷っていたり、もどかしさにいら立っていたりしていて。でも、タカラには輝かしく見えているんです。うらやましいなって。
私自身、今、このお仕事をさせていただいているので、このセリフを見た時、「自分が役者じゃなかったら」とか考えたりしました。
役者という仕事にすごく生かされている部分があるので、役者じゃなかったら死んでいたように生きていたかもしれないので、自分の中にもグサッと刺さりました。
――タカラもそうですし、手羽を持っている「TVer」のCM、アイドル役の「ドラマW 父と息子の地下アイドル」(2020、WOWOWプライム)など、芋生さんもいろんな役や人生を経験されて。
そうですね。すごくやりがいを感じています。役者をやってなかったらアイドルも経験できなかったと思いますから(笑)。
――少し話はそれますが、タイトルの「ソワレ」は演劇のマチネ、ソワレから来ていると思いますが、フランス語で“夕方”という意味もあります。“夕方”の時間帯での思い出とか何かありますか?
地元にいた時は家の近くに川があって、学校帰りに一回気持ちを落ち着かせたい時とか一人になりたい時に、夕焼けを見たり、流れる川を見てボーッとしたり、というのはありました(笑)。
あの時間はすごくよかったなって。学校で嫌なことがあったりしたら、親にそんな顔を見せたくないので川を眺めて癒やされて…。「まぁ、いっか。寝たらどうにかなるんじゃない?」みたいな気持ちになって帰れるんです(笑)。
――気持ちの切り替えって大切ですよね。“自分の時間”ということで言うと、春頃から自粛期間で自分の時間も持つことができたと思いますが、この機会に始めたこととかありますか?
はい、あります。音楽をやってみようかなって思って、歌とか曲を作っています。相当時間が余っていたので詞みたいなのを書き始めたら「曲にできるかもしれない!」って思って(笑)。それで歌詞を書いて、メロディーを考えて。
――“演技”とはまた違った自己表現の一つとして。
はい。そういう気持ちもありつつ、趣味として楽しくやっています(笑)。
――最後に、「ソワレ」の見どころを含めた読者へのメッセージをお願いします。
ツラい状況になった時の“もどかしさ”というか、何に対していら立てばいいのか分からなくて人にぶつけて傷つけてしまったり、自分自身にぶつけて心が折れてしまったり…。
そういうことが自分にもあって、もしかしたら皆さんにもあるかもしれないなって思うんです。今、この映画を見たら、まず自分を愛せなきゃいけない、自分の足で歩かなきゃいけないっていうことを感じてもらえるんじゃないかなって。
それと、実際に私はこの作品を見終えた時に大切な人たちの顔がパッと浮かんだので、皆さんも見終わった後に大切な人たちと笑い合ったり、一緒にご飯を食べたりできる時間がすごく尊いものだと感じるんじゃないかと思います。
公開日が8月28日(金)ということで、まだまだ現状では映画館に行きづらい状況にあったりするかもしれないですけど、今だからこそ見てもらいたいです。(ザテレビジョン・取材・文・撮影=田中隆信)