秋元康が企画・監修を務めることでも注目を集めている「青春高校3年C組」(テレビ東京ほか)。一般応募で“入学”を希望する若者たちの中から生徒を集め、1年間をかけて“理想のクラス”を作り上げていく、平日夕方の生放送バラエティー。今年4月の放送開始以来、個性的なクラスメートが徐々に集まり始めているが、その全曜日の演出を担当しているのが三宅優樹氏だ。「『―3年C組』は、打ち合わせから現場まで、とにかく楽しい」という三宅氏に、番組の制作秘話のほか、自身のキャリアやターニングポイントなどについて、たっぷりと語ってもらった。
「青春高校3年C組」の全曜日の演出を手掛けるテレビ東京の三宅優樹氏。過去には「YOUは何しに日本へ?」(2013年~)、「有吉、やってみよう!」(2017年)などを担当
アメリカに留学しているとき、たまたま見た「キス我慢選手権」で腹を抱えて笑ったんです
――三宅さんのテレビマンとしてのスタートは、いつからになるのでしょうか?
「2009年にテレビ東京に入社してからですね。一番最初は、『ペット大集合! ポチたま』(2000~2010年テレビ東京系)にADとしてついたんですが、スタジオに集まった犬や猫の、フンとかオシッコを後始末するのが大変で。毎日、消臭剤でシュッシュッてやるのが主な仕事でした(笑)」
――もともとバラエティーの制作を志望されていたんですか?
「いえ、違うんです。きっかけは僕が大学3年生のとき、1年間アメリカに留学していたんですが、1週間のうち、土曜日の2時間だけは日本のテレビを見ていいっていう、ご褒美の時間を自分で設けて、いろいろな番組を見ていたんですね。そんな中で、たまたま『ゴッドタン』(2007年~テレビ東京系)の『キス我慢選手権』を見たときに、腹を抱えて笑ったんですよ。アメリカで暮らし始めてから7カ月くらい経ってましたけど、アメリカに来てから初めて声を出して笑ったのが、この『キス我慢』を見たときだったんです。そのときに、普通に生活している人を笑わせるのって、すごいことなんだとちょっと感動してしまって。その後、留学生活を終えて日本に帰ってきたとき、テレビ東京の採用試験にまだ間に合うということを偶然知って、試験を受けてみたら、運良く入社することができたんです」
――「ゴッドタン」のようなお笑い番組を作りたくて入社したのに、犬や猫のフンを拾う日々が始まってしまった、と…(笑)。
「もちろん今となっては、フンの後始末だって番組を作る上で大切な仕事だというのは分かるんですけど、正直、そのときは全然面白くなくて。『やってらんねえよ』なんて、同期のADによく愚痴ってました(笑)。
ちなみに、(『ゴッドタン』のプロデューサー・演出を務める)佐久間(宣行)とは、今、『―3年C組』で一緒に仕事してるんですが、僕が『ゴッドタン』を見てテレビマンを志すようになったという話は、恥ずかしくて一度もしたことはないです(笑)」
――その後、バラエティーを中心にお仕事をされていますが、初めて、スタッフとしての務めを全うできたと感じた番組は?
「入社した年の秋に、『ありえへん∞世界』(2008年~テレビ東京系ほか)のADになったんですが、当時はまだ深夜の放送で、お金も人も非常に少ない番組だったんですね。ADも2人しかいなくって。でもその分、僕みたいな1年目のADも、いろんな仕事をやらせてもらえて、ラッキーなことにロケを1本丸々任せてもらうこともけっこうあったんですよ。小さいカメラを持って取材して、VTRの編集も自分でやって、それが放送されるっていう、自分の発想をダイレクトに表現できる機会を、早いタイミングでいただくことができた。そのあたりから、自分の企画が具現化する楽しさを知ったというか。自分が面白いと思ったことを表現できるテレビって楽しいな、と思えるようになりました」
“テレ東らしいグルメ番組”って何だろう、と突き詰めていった結果、「たれ」という変な番組が生まれました(笑)
――では、テレビマンとして転機となった番組は?
「初めて自分が企画した『余命コミュニティ ~あなたは死を前にして何を想う~』(2012年テレビ東京)という番組です。テレビ東京には、『ザ・ドキュメンタリー』という、若手のスタッフが挑戦できるドキュメンタリー番組の枠があって、その一環として放送されました。入社3年目でしたけど、すごくうれしかったですね」
――どのような内容のドキュメンタリーだったんでしょうか。
「個人的な話なんですが、かつてのバイト先の先輩だった方が、『今度結婚する』と連絡してきてくれた、わずか数カ月後に、がんで亡くなってしまった…という出来事があって。それを機に、『人が死ぬってどういうことなんだろう?』と考えていた時期があったんですね。そんなとき、当時流行っていたSNSの『mixi(ミクシィ)』の中に、病気を患って余命を告げられた人たちが集う『余命宣告』というコミュニティを見つけたんですよ。そこで、『余命宣告を受けている人にお話をお聞きしたいので、取材をさせていただけませんか』と、そのコミュニティのメンバー全員にメッセージを送ったところ、数人に快諾をいただいて、番組を作ることができたんです。この『余命コミュニティ』はその年の、テレビ東京系列のドキュメンタリー大賞をいただいて。一つの自信につながった番組です。カメラワークとか編集とか、技術的には拙いところも多々あるんですが、今でも落ち込んだときなんかに見返しています(笑)」
――また、最近のお仕事で言えば、「液体グルメバラエティー たれ」(2017年テレビ東京系)も衝撃でした。
「『たれ』は、深夜でグルメ番組をやりたい、というのがまずあって、(放送)作家さんと話していく中で、“テレ東らしいグルメ番組”って何だろう、というところを突き詰めていった結果、ああいう変な番組になりました(笑)。でも実際、“たれ”に特化した番組を作るっていうのは、ものすごく大変で。1クール(3カ月間)の放送だったんですけど、終盤はネタが尽きて迷走を始めました。いろんなたれを将棋の駒に見立てた『たれ将棋』っていう企画をやったときは、正直『これはもう末期だな』って…(笑)」
――「池の水ぜんぶ抜く」ならぬ「壺のタレ全部抜く」という企画にも大笑いしました(笑)。
「ありがとうございます(笑)。ともあれ、『たれ』という番組は、僕らスタッフが心から楽しんで作ることができたという意味で、非常に思い入れの深い番組であることは間違いないですね」
――先ほど“テレ東らしいグルメ番組”というお話がありましたが、三宅さんの考える“テレビ東京らしさ”とは何でしょうか?
「う~ん、難しいなぁ…(笑)。いわゆる、昔ながらの“テレビの王道”みたいな番組ってあるじゃないですか。その点、テレビ東京は、予算的にも人員的にも、その王道を行くことはなかなか難しいんですよね(笑)。でもその分、他局ではできない、趣向を凝らした新しい企画が次々と生まれているのも事実なわけで。そんな、王道からズレた“違和感”が、テレ東らしさなのかなと。視聴者が『何これ?』って思うような(笑)、違和感のある企画がテレビ東京ならではの武器なんじゃないかと思います」
――その“違和感”は、三宅さんが新番組の企画を考えるときも意識している部分ですか?
「すごく意識しますよ。他の局で見たことがあるような企画は、若手の…まだ自分では若手だと思ってるんですけど(笑)、若手の僕が書いたらダメだと思うので、他のどの番組とも似ていない、しかも、テレビ東京の中でも誰もやっていない、新しい番組を企画したい、というのは常に考えています。ただ一方で、温故知新じゃないですけど、新しさの中にも、『TVチャンピオン』(1992~2006年テレビ東京系)だったり、『田舎に泊まろう!』(2003~2010年テレビ東京系)だったり、先輩方が作ってきた番組のテイストというか、“テレ東イズム”みたいなものも受け継いでいけたら、という思いもあります」
「青春高校3年C組」に来る子たちは、びっくりするくらい“いい子”ばかりなんです
――そして現在は、「青春高校3年C組」の演出を務められています。番組開始から2カ月ほど経ちましたが、手応えのほどはいかがでしょうか?
「打ち合わせから現場まで、とにかく楽しくて仕方がないです(笑)。生徒志望の子たちは、僕らが応募動画から全て見て、毎週6人の候補生を決めているんですが、そうして僕らが選んだ候補生たちが、担任教師(メインMC)の腕のある芸人さんたちに魅力を引き出してもらって、輝いている瞬間を見ていると、感無量になっちゃうんですよ(笑)。と同時に、これまでのテレ東にはなかった、面白い番組が作れているんじゃないかという自負もあります」
――企画・監修の秋元康さんとはどんなやりとりをしているのでしょうか?
「秋元さんは、毎回のオンエアはもちろん、(動画配信サービスの)Paraviで“アフタートーク”もちゃんとチェックされていて、毎日のようにプロデューサーの佐久間にLINEに長文のメッセージを送ってくださるんですよ。それを元に、佐久間と僕であれこれ考える、というのが日課です」
――意外にも、三宅さんが佐久間宣行さんと組むのは初めてだそうですね。
「そうなんです。一緒に仕事をしてみて、佐久間もやっぱり天才なんだなと感心することしきりですね(笑)。つまり、秋元康さんという天才の意見を、佐久間宣行という天才が解釈しながら作っている番組ということで、僕みたいな凡人はポカンとしちゃうこともけっこうあるんですけど(笑)、僕ができるだけ媒介者となって、2人の天才の意向をスタッフのみんなに具体的に伝えていこう、というのは心掛けています」
――ちなみに、生徒たちと一番密に接しているスタッフは…。
「僕じゃないですかね。終わった後に毎日反省会をしていますが、生徒たちの個性を潰してはいけないので、生徒たちに対しては、なるべく具体的なアドバイスはしないように気をつけています。その意味では、副担任(サブMC)の中井りかさんも同じで、『自由にやってください』とだけ伝えています。唯一厳しく指導しているのは、教育実習生のノブナガ(笑)。彼らは、今後もテレビを主戦場に戦っていく芸人なので、そこはしっかり教えてあげたいと思っています」
――実際に10代の若者たちと接してみた印象は?
「始まる前は、正直、“ゆとり世代”とか“SNSばっかりやってる奴ら”みたいなイメージがあって(笑)、生意気なんじゃないか、なんて思ってたんですけど、それはこちらの勝手な思い込みで。世間には生意気な子も多いのかもしれませんけど、少なくともこの番組に来る子たちは、みんな行儀がよくて素直。びっくりするくらい“いい子”ばかりなんですよ。
候補生としてやってくる子たちは、合格しない限り、1週間出演したらそれで終わってしまうわけですけど、それでも、『この1週間は楽しかったな』とか、『成長できた気がする』とか、どんな形でもいいので、この番組に出たことが彼らの人生の一つの思い出になったらいいなと。そんな思いで、彼らと接しています」
――番組を見ていると、生徒同士がすごく仲が良さそうで、そのうち恋も生まれるのでは…?と邪推してしまうのですが。
「クラス内恋愛っていう展開も、そろそろあるんじゃないですかね(笑)。番組としては、恋愛禁止を謳っているわけではないし、僕らスタッフは、そこらへんはなるべく干渉しないようにしてるんです。まぁ、もし恋愛が発覚したら、ホームルームを開いて生放送でイジろうとは思ってますけど(笑)」
――それは楽しみです(笑)。そんな「―3年C組」の今後の展望をお聞かせください。
「若い世代は今、スマホやパソコンでテレビ番組を見るようになってきていますよね。この『―3年C組』という番組も、Paraviで見てくださっている若者は多いと思うんですが、それでも、この番組を通じて、『地上波のテレビってやっぱり面白いよね』と感じてもらえたらいいなと思っています。さらに言えば、『自分たちもこの番組に出たい!』と思ってもらえたらうれしいですね」(ザテレビジョン)