女優の菅野美穂が、10月25日(金)全国公開の映画「ジェミニマン」にて、ハリウッド実写映画の吹き替えに初挑戦している。
同映画は、ウィル・スミスと「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」などで2度のアカデミー賞監督賞受賞の巨匠、アン・リー監督、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズを手掛けたジェリー・ブラッカイマーと、ハリウッドを代表するヒットメーカー3人が初タッグを組んだ近未来アクションエンターテインメント大作。
史上最強とうたわれるスナイパーのヘンリー(ウィル)が、秘密裏に自身の若い頃のクローンが作られたことを知り、政府を巻き込む巨大な陰謀の渦中へと身を投じていく。
本作で菅野は、メアリー・エリザベス・ウィンステッド演じるクールな潜入捜査官・ダニー役の声優を務めている。
そこで今回、菅野に映画「ジェミニマン」の吹き替えを担当した感想や役作りについて、作品にちなんで23歳当時の話も聞いた。
――あらためて「ジェミニマン」の感想をお聞かせください。
ウィル・スミスさんの出演作品はもう20年ぐらい見ていますが、今なお精力的に活動なさっていて、どんどん新境地を開いていらっしゃるという印象があります。
今回の「ジェミニマン」も、若い自分と今の自分の対決というコンセプトがすごくユニークだと思いましたし、それをCGを駆使して行っている。
アクションも「よくこんな構図を思いつくな!」というエキサイティングなシーンが多くて、それもウィル自身が演じていらっしゃって、今のウィルと若い頃のウィルのヘッドロックとか、それを映像化しようと思う時点で「勝ち」ですよね(笑)。
「技術ってすごいなあ、CGがあれば私も若い自分と共演することができるんだな」とも思いました。これほどすごい映画の吹き替えができて、本当にうれしいです。
――菅野さんはダニー役のメアリー・エリザベス・ウィンステッドさんの声を吹き替えています。ダニーの印象をお聞かせいただけますか?
彼女には腹の据わった佇まいがあって、りりしくて、動じないキャリアウーマン。
すごい捜査官なんだけど、どこか人を油断させるような何かも持っていて、ウィル演じるヘンリーはそこに安らぎを感じたのかなと思ったりします。
メークもほぼすっぴんだし、話し方もフランクだから、相手も自然と緊張感をなくして、つい素の自分に戻ってしまう。捜査官としてはすごくやり手だなと思います。
――今回の吹き替えに当たっての役作りはどのようになさったのでしょうか? ダニーとの共通点を探し、そこから役作りを練っていくという感じでしょうか?
自分で体を動かして演技をする時はそういうところもあるかなと思うんですけど、今回はメアリーさんが演じているダニーという既に出来上がった役があるので、私はそのキャラクターを伝えやすいように(日本語で)お手伝いする立場なのかなと感じています。
ダニーとなじむようにというか、そこにいかに自分が寄り添っていくかを考えて吹き替えをしました。
ダニーとなじむようにと、普段の自分の声よりは落ち着いた感じではできたかなと思います。「よし」というところまで練習して、収録に臨みました。
全身のエネルギーを声に凝縮
――菅野さんはすでに2018年公開のアニメ「ベイマックス」で吹き替えをなさっていましたが、実写版での吹き替えは今回が初めてですよね。
「ベイマックス」の時は「セリフを言う」というよりも、「歌を歌うような感じ」でした。「一音一音を息ではなく、音でください」という要求があったりとか、とにかく言葉をしっかりと、一音も捨てずに表現するんだと。
今回はもうちょっと、しゃべる感覚に近いようなセリフでOKが出ましたね。
声だけの演技は、全身のエネルギーを声に凝縮しなければいけない。普段は手ぶりとか、目線とか、総合して行う表現を、声という一箇所にストイックなまでに集中させる。
江原正士さん、山寺宏一さんという素晴らしいお二人と吹き替えができたのも勉強になりました。
――菅野さんにとって、洋画の吹き替えならではの魅力は?
この作品に関して言うなら、やっぱりアクションが大きな魅力です。吹き替えですと、そこに字幕がかぶることなく、日本語の音声がそのまま耳に入ってくるので、よりアクションに集中して楽しめます。
吹き替えにすることで、字幕を追う必要がなくなり、子どもたちにも見てもらいやすい感じになっていると思います。
より一層、現在のウィルと過去のウィルの対立というユニークな世界観に入っていけるのではないでしょうか。
――この映画に登場する“過去のウィル”は23歳という設定です。菅野さんがテレビドラマ「愛をください」(2000年、フジテレビ系)に出演なさっていた頃と同じ年代です。その頃と現在とで変わったなと思うところ、特にお芝居への向き合い方という意味で変わった点などをお教えください。
とにかく毎日が必死だった、ということは覚えています。仕事は途切れなく続けるものだと思っていました(笑)。役のことばかり考えて、それが終わると次の役について考えて。
楽しい時期でもあったし、経験や失敗を重ねた時期でもあったし、現場に出ることが勉強でした。
若さや勢いというものはいつか失うもので、それは時間の経過と引き換えなんだなと実感します。
でも、年を取れば取るほど仕事に対する気持ちが身軽になっているようにも感じますね。
――痛快なアクションや熱い友情の中に、つい自分自身の人生を内省せずにはいられないような、そんな深みも「ジェミニマン」には感じます。
いまは人生100年時代と言われています。なんだかんだいっても、若い頃にやり残したことは絶対にあります。
この映画は、登場人物を自分に置き換えて、自分の人生を考え直したりできるすごく面白い作品だと思いますし、もちろん純粋に今のウィルと過去のウィルが対決するという、これまでになかった映画の体験もすることができます。
とても迫力のある作品なので、ぜひ劇場でご覧いただきたいと思います。
(ザテレビジョン・取材・文=原田和典)