千葉真一 撮影/山田智絵
◆ ◆ ◆
「若い世代に、僕が学んできたこと、経験してきたことを伝えたい。そのために……秘策を練っていますよ」
「いつも客観的に自分を見ている“もう一人の自分”がいるんです。お酒を飲んだり、遊んだりしたい自分がいるけど、『おいおい本当にそれで大丈夫か?』と俯瞰している自分がいる。『うるさいな、あっち行け!』と追い返しても、ずっと見てくるから怠けられない(笑)。毎日が自分との戦いですよ」
「アメリカの監督は、撮影をはじめるときに『Ready Action!』と言うでしょ? 演技をしてください──という意味なんですね。アクションというのは、肉体を使って飛んだり跳ねたりすることではなく、身体を使って演技をすること。
ヒポクラテスの教えを忘れない
「体育は、文字通り“体を育む”と書きます。ですから、大学時代に人間の身体に関するさまざまなことを教わった。そのひとつに、古代ギリシアの医師で、“医学の父”と呼ばれるヒポクラテスの『人は身体の中に100人の名医を持っている』という言葉があった。
「いちばん大事なことは足腰が衰えないようにすること。最低限の筋肉をつけておくために、定期的に坂道を歩いたり、膝の周りの筋肉を落とさないように下半身の運動をするようにしてください。
息子は成長した。日本一だと思う
「60代までは、まだまだ若者に負けないくらいのスピードができていた。しかし、今ははっきりと肉体が衰えていることを自覚している。周りの人は、僕の身体を見て『60代にしか見えない』と言うけど、60歳のときの僕はもっとすごかったよ(笑)」
「長男の(新田)真剣佑が出演している『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』を見るために、映画館に行ったんですよ。手前味噌ですけど、日本であんなに動ける役者はいないと思った。いい動きだった。あれならお金を取れる」
「自分なりに考えて勉強してるんだなと伝わってきましたね」。父の視点でやさしく言葉を紡いだ後、「今の真剣佑の動きにはついていけない。初めて、『俺を越えたな』と思える役者が出てきた」と打ち明ける。
「真剣佑、お前は花であるべきだ、ずっとずっと花であれと。役者は花がなければいけない。花とは何なのかということを、自分の中で考えてほしい。僕は役者というのは読解力が何より大切だと思っています。ですから、授けた言葉に対して3人がそれぞれ自分たちで理解し、噛みしめていってくれたら」
夢はハリウッド越え
「先の『るろうに剣心』は、ゲームの世界にしか見えなかった(苦笑)。日本の時代劇が連綿と受け継いできた殺陣の力強さや美しさ、侍の魂が感じられるような所作があまりに少ない。
「殺陣(たて)師とアクション・ディレクターは違うんですね。殺陣師というのは、殺陣を作って、動き方をレクチャーする人。いっぽう、アクション・ディレクターというのは、脚本の役どころの立場や力量を考慮し、実際にどの程度の動きならリアリティーがあるかを見極め、殺陣師と役者の間に入る人です。
ときには“真剣”を用いたことも
「『(志穂美)悦子、いいかい。これから、上段から刀を振り落とす殺陣をするよ。ただし、竹光(たけみつ)ではなく本身でいくからね。それを受けるんだよ』という具合に教えたこともありました。
「真田は最初のころからとても動くことができた。僕の後を継いで、ハリウッドに出ていかないといけないとずっと言っていた」
「『影の軍団』は、クエンティンとサミュエルが大好きな作品。彼らと会うと、よく僕の映画について語ってくれるんです(笑)。『影の軍団IV』で、僕が敵の首領を倒す前に、『名もなく地位無く姿無し。されど、この世を照らす光あらば、この世を斬る影もあると知れ。天魔伏滅!』と決め台詞を口にするんだけど、クエンティンが監督した『パルプ・フィクション』で、殺し屋役のサミュエルも人をあやめる前に聖書を読み上げるような決め台詞を口にする。実はこれ、僕へのオマージュで、クエンティンから『アイデアを拝借した』と伝えられた。なんとも遊び心がある監督ですよ」
「日本映画をハリウッドで作らなければいけないと思います。そして、日本では時代劇を復活させなければいけない。毎日がディスカバリー。それを求めて今も生きていますね。何か新しいことはないかなって、そう思いながら生きていますよね」
水戸黄門で父子鷹!?
「時代劇を復活させるため、いくつか企画書を提出しているんです。とりわけやってみたい時代劇がある。80歳を過ぎた僕が、まだ身体も動く中で演じたら面白いだろうなって思うのが『水戸黄門』! 絶対、面白いと思わない?」
「なぜ水戸光圀は全国を行脚することになったのか。そこにいたるまでのお話……いうなれば、『水戸黄門 エピソードゼロ』を作りたいんですよ。ストーリーもできあがっていて自信がある! 助さん、格さんは、真剣佑と郷敦でも面白い。実は、彼らも乗り気になっているんだ(笑)。時代劇を盛り上げたいという人の力を借りて、世界を振り向かせるような時代劇を作りたい。皆さんの声も応援になるので、ぜひ楽しみにしていてほしい」
PROFILE●千葉真一(ちば・しんいち)●1939年福岡県生まれ。日体大を中退後、59年に東映第6期ニューフェイスに合格。68年、『キイハンター』(TBS系)で不動の人気を獲得。69年、俳優養成所JACを結成。『柳生一族の陰謀』『影の軍団』『魔界転生』などに出演し、日本を代表する映画スターとして、海外でも“サニー千葉”の名で絶大な人気を誇る。『戦国自衛隊』でブルーリボン・スタッフ賞受賞。98年、香港映画『風雲雄覇天下』に出演し、金像奨(優秀主演男優賞)にノミネート。03年、『キル・ビル』では服部半蔵兼剣術指導も務める。
(取材・文/我妻弘崇)