[写真:釈放されたASKA]
11月28日、覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されていた歌手のASKAが、12月19日、不起訴処分となり釈放された。なぜなのだろうか。この疑問について取材した。
Q1:尿から覚せい剤の陽性反応が出たが、なぜ釈放されたのか?
「今回のことは、厳正な手続きの中に一部厳正さを欠いた部分があったというだけです」
と元麻薬取締官の高濱良次さんは話す。
釈放された翌20日に、ASKAはブログを更新した。ASKAの心情を正確に伝えるため、少し長くなるがブログより引用する(原文ママ)。
《目の前にお茶がありました。仕事部屋に置いてあったスポイトを思い出しました。
「尿ではなく、スポイトで吸い上げたお茶を出してみよう。見つかったときには、素直に検尿に応じればいい。」
間も無く「組隊五課」が、やって参りました。
「これは、もう何をやっても事件にしようとするだろう。」
「ASKAさん、尿検査をさせてください!」
これは、僕の斜めからの思考だと思ってください。ちょっと、意地悪な回路をくぐり抜けたのがしれません。
「尿を出してしまったら終わりだ。必ず、陽性にされてしまう。」
あまり詳しいことは書けませんが、3日目には、陽性となりました。ありえません。この経緯に関しては、もう少し語らなくてはならなくてはならないことがあります。近いうちに、詳細をお伝えさせてください。》
ASKAは覚せい剤を使用していないが、警察は必ず陽性にする。そう考え、お茶を入れたと主張した。高濱さんは、ASKAの行動について自身の経験から語る。
「執行猶予期間中のため、今度逮捕されたら最低でも5年は刑務所に入ることになる。刑務所に入ることを必死で避けるために、そういう言い訳をしたのかもしれない」
そしてなぜ不起訴となったのか続ける。
「すべては捜査官がASKAが排尿しているところを目視しなかったことが問題です。さらに関連証拠が一切出てこないこと。つまり起訴する証拠として使用できるのは尿だけなわけです。それをASKAがお茶を入れたという供述をしたこと、排尿したと確認しなかったことで、実際にそれがASKAの尿であるのかという疑念が出てきたのです」
過去にも、尿は自分のものではないと話す被疑者はいたし、目視せずに採尿させたこともあったという。
通常の手続きとして、自宅で採尿することはあるのか。高濱さんはこう話す。
「過去には密売所だったり、被疑者の自宅というのもあった。尿からの覚せい剤反応は使用から平均して10日程度で消えてしまう。酒井法子もシャブを抜くために逃げたと言われています。だから、その場で採尿することは特別問題はない」
高濱さんはそう話し、さらに目視で確認できなかった点についても”捜査上の不備”といえるほどでもないという。その理由についてこう述べた。
「尿の目視を行っていなくとも、必ず関連証拠が出たため、起訴することができていた。関連証拠も、注射器、覚せい剤のついたパケ(小袋)、注射痕、血のついたティッシュなどがあるけれども、今回はそれがひとつも見つかっていない。この点が警察からしたら予想外だったのでは」
今回は関連証拠が何も見つかっていないレアなケースだと話した。
つまりASKAを起訴したとしても、裁判でASKAが覚せい剤を使用したと証明する根拠が尿しかない。それすらも目視で確認していないため、ASKAのものであるとは断言できないのだ。そのことから、証拠として使用することが難しくなったのだという。
「通常であれば検察庁は土日休みですから、16日の金曜日には釈放されるかどうかわかっているはず。でも結局19日の夜に釈放された。つまり、検察庁も起訴するかどうかギリギリまで協議したんだと思いますよ。きっと土日も返上で検証していたのでは」
と高濱さんは検察の動向に推察を加えた。
Q2:お茶を入れたのならば、なぜ覚せい剤の陽性反応が出たのか?
高濱氏によれば、可能性としてゼロではないという。ASKAは22日、 “尿とお茶”と題してブログを更新した。
《なぜ、僕が尿を提出せず、スポイトで吸い上げたお茶をさし出したのか? やはり、皆さんの疑問はここに集約されているようですね。
前日も書きましたが、これは僕にとって、思いつきであり、一瞬の大きな賭けでした。尿を提出するとき、服装検査が行われることも、当然想定内でした。もし、見つかった時には「なんちゃって」と、笑って見せ、素直に検査に応じようと考えました。どちらにしても、覚せい剤が検出されるわけはないのですから。
「だったら、堂々と尿を差し出せばよかったのに。」
それは、結果論です。僕は、2014年5月17日の逮捕時、取調べと言う名のもと、様々なことを喋りました。どこを切り取られて発表されたとしても、相手は警察です。メディアのような興味を引く内容にはならないと思ったからです。
違いました。僕が取調べで答えた内容とは、違うものが発表されたからです。毎日のように接見に来てくれた弁護士からは、耳を疑う内容が、幾つもありました。担当刑事は、
「私は、そんなことは発表していないんだよ。」
では、誰がどこで、そう発表したのでしょう? 僕にとって、マイナス以外何ものでもない発言に変えられていました。愕然としました。
「これでは、捏造を繰り返すマスメディアと変わらないじゃないか」》
2014年の逮捕時に、自身が供述した内容とまったく違うことが報じられていたとASKAは主張する。だからこそ、その嘘を暴くため、お茶を入れたと話したということか。
だが本当にお茶を入れたのならば、なぜ覚せい剤の陽性反応が出たのか。高濱さんは、
「お茶から覚せい剤反応なんか出るわけがない」
と話し、あまり話したくなかったのだがと前置きして、こんな可能性を示してくれた。
「もしお茶を入れて反応が出たのであれば、ASKAがお茶を入れるのに使用したとするスポイトの中に入っていた可能性がある。覚せい剤を溶かした水を性器や肛門にスポイトで注入して使用する方法がある。注射するよりも、効果は弱いが、注射痕が残らない。女性に使用するときも、男が勝手に注入することでシャブ漬けにすることもできる」
だがもしスポイトに付着していたもの、お茶に入っていたものであるならば、気になる点があるという。
「鑑定時に覚せい剤反応として尿から検出されるのは、メタンフェタミンとアンフェタミンという2つの物質です。覚せい剤の主成分はメタンフェタミンで、体内で代謝されて出るのがアンフェタミンなんです。もし覚せい剤が体内で代謝されたものでないのなら、メタンフェタミンしか検出されない」
覚せい剤の成分としてはアンフェタミンもなくはないが、日本で乱用されているのはほぼメタンフェタミンだと高濱さんは話す。
「だから科捜研はASKAがやっていたのか、お茶が入っていたのかまでわかってはいるだろうが、結局不起訴としたため、なにも話さないという方針なのでしょう。結局何を話したとしても言い訳にしかならないことを知っているんです」(高濱さん)
Q3:強制採尿や再鑑定は? 毛髪鑑定はしないの?
釈放後に再鑑定はしないのかなどとマスコミが報道したが、この点はどうか。高濱さんは、
「再鑑定なんていうのは釈放という結果になったからマスコミが騒ぎ出したこと。陽性反応が出たときに、誰も再鑑定なんて考えなかったでしょう。陽性と出た尿について捜査が行われたわけなんですから。尿から出た反応は微量とされている。そこで強制採尿してなにも出なかったら、ほらやってませんよとASKAに言い訳する機会を与えてしまう。マイナスにしかならないことは行いませんよ」
尿も量が多ければ残量を保管することもあるが、基本的には鑑定で全量を使ってしまうことがほとんどと高濱さんは説明を加える。
さらに毛髪鑑定についても科捜研はきっと行ってはいるだろうが、常用してなければ反応は出てこないという。高濱さんはこう見ている。
「薬物依存症というのシャブを打ちたい、でも、やってはいけないという自分との闘いなんですよ。ASKAも相当苦しんだのでは。自宅やホテルなんかでやれば、家族などの目がある。おかしいなと思われたらすぐバレてしまう。だからこそ、九州に行ったとき、隠れて使用していたのかもしれない」
不起訴になったことから本当は陽性反応が出ていないのでは? などとネット上では憶測が飛び交うが、高濱さんは。
「私はASKAが覚せい剤をやっている可能性は十分にあると思っている。科捜研がもし勝手に陽性反応にしたとするのならば、公文書偽造の罪に問われてしまう。戦後直後ならまだしも、この科学技術が進んだ時代に警察はそんなリスクをとらないですよ。ASKAもブログで言い訳をしているにすぎないと思っています」
陽性になった“ひとつの理由” ASKAはいつ語るのか?
真実はどこにあるのだろうか。ASKAは12月20日に更新したブログでこうつづった。
《実は、陽性になったのには、ひとつの理由があるのです。科捜研に間違いはないと思います。ただ、まだ語ることなできない理由があります。もう一度、書かせてください。近いうちに、詳細を語らせていただきます。これだけは、言えます。僕は無実です。》
警察が黙する今、真実はASKAの口から語られるのみとなった。新曲以上に、残された真実を早く語ってほしいものだ。