「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
4月6日に行われた参院選出馬表明会見に臨む生稲晃子
第72回 生稲晃子
7月10日に投開票が行われた参議院選挙、みなさんは投票されたでしょうか。選挙のたびに話題になるのが、タレント候補です。
2016年の参院選で当選した元SPEEDの今井絵理子は、開票特番の『池上彰の参院選ライブ』(テレビ東京)で、司会の池上氏から沖縄の米軍基地問題をどう思うかを尋ねられ、「これから向き合いたい」と答え、「え、今から勉強始めるの?」と国民を驚かせたのでした。
今回の標的は元おニャン子クラブの生稲晃子です。見事当選しましたが、選挙前にNHKが行った候補者へのアンケートをほぼ無回答で提出、「富裕層への課税強化に賛成か反対か」について毎日新聞に対しては「反対」と答えるも、朝日新聞の「所得や資産の多い人に対する課税を強化すべきだ」という設問には「どちらかと言えば賛成」と答えるなど、スタンスがブレブレです。
投開票日には各テレビ局の中継インタビューを受けないと表明したことも話題になりました。『池上彰の参院選ライブ』で、生稲陣営のあるスタッフからの情報として、テレビ出演を見送った理由を「生稲さんは国会議員としての資質、勉強が圧倒的に足りないから」と報じました。これに対し、生稲陣営はテレビ東京と池上彰氏に対し抗議文を送って、謝罪を要求しています。
アンケートやテレビ出演拒否問題など、一連の流れを見ていると、生稲が選挙陣営に愛されていなくて気の毒になってしまうのです。生稲は安倍晋三元首相が議長を務める「働き方改革実現会議」の有識者メンバーを務めていたことがあります。そういった活動がきっかけで、生稲本人が政治に興味を持ったのかもしれませんし、反対に自民党が生稲をスカウトしたのかもしれない。そのあたりのことはよくわかりませんが、どちらにしても自民党が公認を出したわけですから、自民党はアンケートなど新人候補者の教育にも責任を持つべきではないでしょうか。生稲本人に対しても失礼ですし、不勉強に見える候補者を押し付けられる国民の身にもなっていただきたい。
アイドルとして個性が強くない生稲は選挙で有利
毎回、タレント候補に対して不見識や不勉強を問う声が上がるのに、タレント候補がいなくなることはありません。それはなぜか。答えは簡単で、タレント候補は選挙に勝ちやすいからです。それでは、なぜ彼らが勝つのか。そこには私たちが知らず知らずのうちに持っているバイアス(思い込み)が影響しているのかもしれません。
婚活をした経験のある人はピンとくるかもしれませんが、新しい人と出会い、その人について知ろうとすると、私たちの脳には大きなストレスがかかります。その点、会社の人や同級生など「すでに知っている人」に対しては、脳はストレスを感じないのです。そのラクチンな状態を脳は「相手への好意だ」と勘違いしてしまうそうで、これは「単純接触効果」と呼ばれています。単純接触効果はアイドルのように、直接交流することがない人に対しても働きますから、顔と名前が売れている芸能人は選挙で有利なわけです。
それでは顔と名前が売れている芸能人は単純接触効果のために、必ず当選できているのかというと、そうでもない。というのは、「最初から嫌われていないこと」が単純接触効果の前提条件だからなのです。となると、立候補者は、あまり個性が強くない人のほうがいいのではないでしょうか。
おニャン子クラブのウリだった“シロウト感”
生稲といえば元おニャン子クラブのメンバーで、「うしろ髪ひかれ隊」という3人組ユニットのセンターを務めていました。工藤静香もこのユニットのメンバーでしたが、工藤サンのように個性が強いタイプは、好き嫌いがはっきりわかれるタイプでしょう。生稲は工藤サンのようなアクもなく、自己主張もそう強そうではない。誰にでも好かれるタイプと言えるでしょう。
生稲がおニャン子クラブ出身だったというのも、見逃せない点だと思うのです。おニャン子クラブのウリの1つは、シロウト感でした。それまでアイドルといえば、コンテストやオーディションで何十万人の中から1人選ばれる特別な人というイメージが強かったのですが、おニャン子たちは『夕焼けニャンニャン』(フジテレビ系)内のオーディションで選ばれたら、あっさりメンバー入りし、テレビに出てスターになっているように見えました。実際にシロウトさんもいたようですが、国生さゆり、渡辺美奈代、渡辺満里奈、工藤静香など、ソロデビューも果たした人気のメンバーは「大きなコンテストでグランプリを取ることはできなかったけれど、それをきっかけに別の事務所からスカウトされた」という、すでに事務所にスカウトされていたセミプロでした。
私はおニャン子の全盛期をテレビで見ていましたが、彼女たちはそういう前歴を積極的に押し出していなかったように思います。過去の業績をアピールすると、おニャン子のウリである“シロウト感”、努力しないでスターになれる“特別感”が損なわれてしまうからではないでしょうか。
「セミプロでありながらアマチュアのふりをするとはどういうことか。一言で言うのなら、「芸能人として本当にやってはいけないことを十分わかった上で“わからない”と言える、やる気があるのにそれを見せない人」を指すのだと思うのです。いうなれば、シロウトに徹することができる、プロフェッショナル・シロウトです。
生稲はおニャン子クラブに入る前にホリプロタレントスカウトキャラバンや、ミス南ちゃんコンテストに応募していたことを2016年のインタビューで話しています。しかし当時はそんなことはおくびにも出さず、「たまたま受けたら、受かっちゃった」というスタンスで振る舞うのがおニャン子として正しいあり方で、野心や野望を隠して、Theシロウトとしてふるまうのは、女性が男性にかわいがられるために必要な、一種の処世術でもありました。
スタッフの対応が雑に感じられるのはなぜ?
元人気アイドルグループのメンバーで、かわいらしくて自己主張も強くなさそう。生稲サンについて、こんなイメージを持ち続けている人は多いことでしょう。こういう女性は「御しやすい」と思われる傾向にあるので、目玉候補として選挙に担ぎ出そうと思う政党があってもおかしくありません。けれど、「御しやすい」ところが評価されている場合、最初から一人前の女性政治家になることは期待されていないのかもしれません。故にスタッフの対応が雑で、いろいろな不手際が世間にバレてしまうのではないでしょうか。また、プロフェッショナル・シロウトのアイドルという、シロウト感の強い元アイドルとキャラでやってきた人が出馬すれば、その時の印象にひきずられて、「この人が政治家で大丈夫か?」とジャーナリストは問い詰めたくなるかもしれません。おニャン子ゆえに担がれて、おニャン子だから叩かれているのが、今回の生稲バッシングのように思えるのです。
世間では入社試験を受ける時には志望動機を聞かれるでしょうし、一般常識を含めた学力試験や語学力、仕事に直結する資格の有無がチェックされるでしょう。希望がかなって入社した後も、上司に査定される運命からは逃れられません。派遣社員やフリーランスは志望動機こそ問われませんが、そのぶん、結果を求められます。派遣社員なら即戦力、フリーランスは結果を出せなければ、次の仕事が来なくなっても文句は言えない。これだけ一般人が成果を求められているのに、政治家の業績が国民にはっきりした形で知らされていないことが、私には不思議で仕方がないのです。
業績で選べないとなると、誰に投票していいかわからないから選挙に行かないと思う人が増えて、投票率は伸び悩むかもしれません。業績で判断できないなら、とりあえず有名人に入れておこうと考える有権者もいるでしょうから、政党はますます「タレント候補は勝てる」と確信し、擁立することでしょう。そして、また「タレント候補のヤバ発言が報じられて、有権者が呆れるけれど、結局は当選する」という現象の繰り返しだと思うのです。
いろいろ言いましたが、生稲サンは選挙と言う正当な形で、民意を得たわけです。おニャン子的なシロウト感は捨てて、どうかがむしゃらに勉強していただきたい。そして「あの時タレント候補なんて言ってごめんね」と謝りたくなるくらいの活躍を見せてほしいものです。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」
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