「生前に自分が入るお墓を準備する女性は、実際増えています」
「あの世離婚のニーズは、実は昔からあったのではないか、と思います。ただ以前は結婚したら、女性はほぼ強制的に嫁いだ家のお墓に入らざるをえず、そこに選択の余地などありませんでした。
しかし家制度が廃止された現代では、家族をひとまとまりと考える意識も希薄化。個が優先される風潮が広まり、女性がようやくお墓についての希望を口にできるようになったのでは、と思います」(宮崎さん、以下同)
あの世離婚を決めた妻の顔は晴れやか
ケース1
「普通に考えれば1基でいいはず。費用も倍かかるのに、なぜ2基も購入するのか訳がわからず、『おふたりのためのお墓ですよね?』と思わず確認してしまいました」
「奥様が饒舌(じょうぜつ)に話す一方、ご主人はずっとだんまり。その落差がすごくて、非常に印象に残っています」
「従来の一般墓なら、お墓の維持費用として継続的に管理費を支払わなければなりません。しかし、このケースで購入された夫婦墓は管理費不要のタイプで、お子さんたちが2基分の管理費を払う必要がありませんでした。その点も決め手になったようです」
「夫の葬儀で泣いていた方が『あのときは雰囲気で泣いちゃったのよねえ』とおっしゃりながら、お墓の相談に来られるケースは珍しくありません。ご主人はすでに他界していて気を使わずに済むこともあり、非常に明るい顔をされていますね」
「そこまで嫌いではない、ということかと思います。暴力や借金など深刻な問題があれば、さすがに離婚されるでしょうから〈離婚で生活が一変するリスクを冒すほどではないけど、死後もずっと一緒と思うと憂鬱(ゆううつ)になる〉という方が、あの世離婚を選択されているのではないでしょうか」
ケース2
「結婚した女性が、婚家ではなく実家のお墓に入ることを希望されることはよくあり、その場合、ご両親と一緒にお墓選びに足を運ばれます」
「お話を伺うと、ご主人には内緒で来た、というケースがほとんど。夫は先に亡くなると予想。お子さんたちに10~20年かけて少しずつ実家のお墓に入ることを伝えていくつもり、という方もいました」
「婚家の墓には、夫のご先祖様がすでにいらっしゃいます。しかし、夫のご先祖様は妻からすれば、仏壇の遺影写真でしか見たことがなく、知らない人ばかり。その中に入るのは気が進まない、それなら育ててくれたご両親と一緒のお墓に入りたい、と考えられるようです」
価格もお手頃なお墓の種類が増えた
「かつては家族や一族など家単位で継承していく一般墓しか選択肢がありませんでしたが、今は建物の中にお骨を納める納骨堂や、樹木の根元にお骨を納める樹木葬など、さまざまなタイプのお墓が登場しています。
個人か家族単位かも選べるし、遺族の代わりにお墓を管理・供養してくれる永代供養がついているお墓も多く、その方の希望や家庭事情に合わせて選べるようになりました」
「今、非常に話題なのが前方後円墳型のお墓。福岡県で売り出したところ、販売目標を大幅に超える応募が殺到しました」
「一般墓の購入には百万円単位のお金がかかります。その後も管理費はもちろん、お墓を継ぐ人がいなくなった場合、墓じまいの費用まで必要に。
しかし、新しいタイプのお墓なら10万~20万円から購入が可能。それなら女性も気軽に手が出せますし、永代供養つきで管理費や墓じまい費用が不要のタイプを選べば、子どもに迷惑をかけることもありません」
「大抵の場合、おひとりで入るお墓は合祀(ごうし)墓です。骨壺から焼骨を取り出して他の人のご遺骨と一緒になります。
よくお子さんが〈遠くて墓参りになかなか行けないので、近くに納骨したい〉と希望されることがありますが、いったん合祀墓に納骨すると、お骨を取り出すことは難しくなります。納骨する前によく検討することをおすすめします」
「お墓を管理をするのは、子どもや親族の方々。お墓が別々で離れた場所だと、お墓参りも2か所行くことになり、維持費などの負担もかかる場合があります」
「夫」や「家」に縛られたくない、死んだ後くらい自由にさせてという妻の“反乱”。まさに「知らぬが仏」は夫ばかり──。
取材・文/中西美紀